第63話 暗躍する者

事情聴取があっという間に終わり、私達は『花冠』の人が運転する来るまでとある施設へ向かっていた。


あんなに早く終わったのは、『配慮』があったからだろう。


咲島さんか、『花冠』が手回しをしてくれたおかげで、私達は長々と事情聴取をされることなく解放された。


その代わり、すぐに『花冠』の車に乗せられて、何処かへ連れて行かれてるんだけどね?


「これ、何処に向かってるんだっけ?」

「多分、『花園』の事務所です。もしくは、『花冠』が使っている秘密施設かですね」


かずちゃんが言うには、『花園』なるクランの事務所へ向かっている可能性が高いんだとか?


『花園』は咲島さんが作ったクランで、今は咲島さん自身は所属も運営もしていないらしいんだけど……まあ、『花冠』同様、咲島さんの手であり目であり耳である。


咲島さんが色々するための資金集めや、女性冒険者の育成なんかもしているそうだ。


そんな、『花園』の事務所。


さぞかし立派な建物なんだろうね。


そんな事を考えていると、車が止まり運転手の女性がドアを開けてくれた。


「着きましたよ。こちらが、『花園』のオフィスです」

「なんか……ね?」

「意外と…普通?」


運転手さんが指差す建物は、特に奇抜なデザインをしているわけでも、眼を見張るほど大きいわけでもない、普通のビルだった。


もっと凄い建物があるものだと思ってたから、ちょっと肩透かしを食らったね。


そんな事を考えていると、横から声をかけられた。


「そんな大層な施設は作れないわよ。できるだけ町中に作ろうと思うと、土地がないもの」

「っ!?す、すいません…」


声を掛けてきたのは咲島さん。


まさか、下で待っているとは思わず、私は深々と頭を下げた。


「そんなに頭を下げなくていいよ。…さて、世間話をしに呼んだ訳じゃないし、ついて来て。中で話をしよう」


咲島さんは笑ってく許してくれた。


そして、『花園』のオフィスに私達を案内してくれた。






           ☆ ★ ☆





「―――さて、まず言っておくわ。災難だったわね」

「ホントですよ!何なんですかあれ!?」

「知っての通り、刺客よ」


刺客、ねぇ…


心当たりはある。

間違いなく、昼間のあの女の子だ。


「女の子が誘拐されるのを阻止したから、狙われたわけ?」

「そうね。―――まあ、いいか。あなた達なら信頼できる。あなた達が昼間助けた女の子はある有力者の娘なのよ」

「有力者の娘……なんか、きな臭くなってきましたね?」

「そうね。凄く嫌な予感がするわ」


絶対に厄介事だ。

有力者がどういう人なのか置いておくとして、政財界は魑魅魍魎の世界。


ろくでもない理由で、女の子が狙われたに違いない。


「つい昨日の事ね。私の家に、一通の手紙が届いていたわ。『一族の命を狙われている。妻と娘を守るために、そちらで預かってもらえないか?』という手紙が」

「一族!?そんな規模の話なんですか!?」


かずちゃんは身を乗り出して驚いている。


私からしてみれば、別におかしな話でもないけれど、庶民のかずちゃんには理解できないかもね。


特に驚くことなく話を聞いていると、咲島さんが感心したような表情をした。


「流石は名家の生まれね。そういうドロドロした話は慣れてるのかしら?」

「ある程度は。しかし、刺客を差し向けられるなんて……何があったんですか?」

「それはわからない。今あっちの『花冠』に調査させてるわ。ただ、なにかあって、妻と子を守るために私の所へ避難させたが―――」

「こっちで狙われたところを、私達が助けたということですか……そして、それをよく思わなかった奴らは、私と神林さんを抹殺するため、いきなり襲撃を仕掛けてきた。これであってます?」

「ええ、そうよ。女の子はこっちで保護している。もう手を出すことはできないわ」


とりあえず、女の子が無事で良かった。


私達はこれからも狙われるかもしれないけれど、1人の未来ある若者を守れたのなら、いいと思える。


……そう言えば―――


「じゃあ、あの子はお母さんと一緒に仙台に?」

「ええ。仙台についてから奴らに狙われて、母親はあの子を逃がすために囮になったそうよ。母親と別れた場所を聞き出し、あの手この手を使って何とか母親の方も保護には成功したわ。…多少暴行を加えられたようだけど、想像以上に肝が据わっているのか、ケロッとしていたわ」

「有力者の妻なんて、心が強くないと務まりませんよ。彼女らは、熾烈な争いをくぐり抜けた猛者なんですから」


誰もが欲しがる席を勝ち取るべく、数多の女性と戦ってきたに違いない。


心臓に毛でも生えてるんじゃないかな?


「納得ね。とりあえず、あの母娘に関してはもう気にしなくていいわ。こちらで面倒を見るもの」

「問題は、奴らの方ですよね?アレは何者なんですか?」


机に置いてあったお菓子を食べながら、かずちゃんが呑気にそう聞く。


…この子も、まあまあ毛が生えてそうね。


「誘拐犯に関しては、そのへんのチンピラ。捕まえた分は消したし、残りもこれから消す予定だから問題はない。あなた達を襲った襲撃者だけど…おそらく―――というか、間違いなく『財団』の暗殺者ね」

「ああ。あの噂の?」

「そうよ。これからも狙われるかもだから、『財団』には注意なさい」


『財団』……ってなに?


「『財団』ってなに?そういう裏組織?」

「え?前にも話しませんでしたっけ?」

「いや、聞いたこと無いけど」

「『朱雀財団』よ。本当に聞いたこと無い?」

「ああ!財団ってそういう……」


『朱雀財団』の事を略して、『財団』って呼んでるのね?


なるほどねぇ…


確かに、『朱雀財団』ならそういう事をしてそうなのが理解できる。


急成長真っ只中な大企業で、日本最大のクラン。


そりゃあ、邪魔な奴は排除したいよね?


クランである『朱雀財団』は、暗殺者向きの人員を多く抱えてるだろうし、私達を襲った暗殺者が強かったのも納得だ。


「面倒なことになったってのは、私でも理解できるわ」

「『財団』となると、咲島さんも派手なことはできないんですよね?」

「そうね。『財団』には、《ゼロノツルギ》を使っていない私よりも強い、日本ナンバー2の冒険者がいる。個人的にも簡単に手出しできないし、組織としても規模が違いすぎて無理。あっちが手を出してこないようにすることが限界よ」


咲島さんでも、手出しできない程の力を持つ『朱雀財団』


そんなのに狙われたとなると……せっかく手に入れた後ろ盾だけでは、物足りなくなったわね。


やっぱり、私達が強くならないと駄目か…


「『財団』の刺客に関しては、ある程度はこちらでなんとかするわ。私が守っているとなれば、奴らも頻繁に刺客を送ったりしないでしょう」

「それでも襲ってくるやつは?」

「あなた達で、なんとかして。よほど強い相手なら、『花冠』に助けを求めると良いわ。こっちから攻撃する口実を作れるし」


なんか、咲島さんが『財団』を攻撃するためのダシに使われてそうな気が、しなくもない気がするのは私だけかな?


チラッとかずちゃんを見ると、なにやら不満そうな表情をしている。


…多分、かずちゃんもおんなじだと思う。


「まあまあ。守ってあげることに変わりはないし、刺客を送られると言っても、理由がないうちは何もされないわよ」

「どうだか…」

「今回みたいに返り討ちにあって、人手を減らされる危険もあるんだし、冒険者相手に刺客を送ること自体が稀なのよ。多分大丈夫だから安心して」


多分って言ってる時点で信用できない。


でもまあ、咲島さんの言う通りではあるし、そうなることを祈って、強くなるしか無いね。


あのジジイはリベンジする気らしいし…それまでに、強くなっておかないと。


「いっそのこと、『花園』に所属してくれたら楽なんだけどね?」

「『花園』はブラックだって聞きますよ?」


え?

マジ?


「色々するための資金集めのための組織だからね。魔石は高く買えないし、仕事は多いわよ?」

「絶対イヤ!」

「ほら?神林さんが嫌って言うなら、私も嫌です」


ブラックだけはだめ。


絶対に『花園』には所属しないよ。


これ以上ここに居ると、しつこく勧誘されそうな気がした私は、かずちゃんを連れて帰ることにした。


お菓子を片手に持つかずちゃんの手を引き、部屋から出ようとドアノブに手を掛けた時、後ろから声をかけられた。


「これは独り言だけど、『財団』の闇はあなた達が思っている以上に深いわ。無いとは思うけど……家族の安否は、定期的に確認したほうがいいわよ?もちろん、直接会ってね?」

「……忠告、感謝します」


その言葉に嫌な考えが頭によぎったが、今はそれを考えるのはやめて、ホテルに戻った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る