第56話 荒神と氷
“ソレ”は、あまりにも大きく、ついさっきまでこの上なく目立っていたインベーダートレントと同じか、それ以上の巨体を持っている。
見上げれば、“ソレ”が降臨した余波なのか、空を覆っていた赤い雲が全て消え去り、頭が太陽に重なり後光となった。
全身が光で覆われていて、エネルギーが形を作っているようにも見えるその存在は、確実にこちらを見下ろしている。
身長数百メートルを超える、およそ人型の巨大生物。
いや、生物と呼んでいいのかも分からない、規格外の存在。
かずちゃんが私の服の裾を引き、色が抜け落ち白くなった顔をしながら、ステータスを見せてきた。
―――――――――――――――――――――――――――
名前 アラブルカミ
種族 神霊
レベル500
スキル
《神威・荒》
《神体》
《破壊》
―――――――――――――――――――――――――――
アラブルカミ…
そうか……これこそが、アラブルカミなのね。
インベーダートレント……こいつは、死に際にとんでもないモノを呼び出したようだ。
「アラブルカミ……レベル500……ははっ、夢でも見てるんですかね?」
「残念ながら、現実よ。…夢ならどれほど良かったことか……」
私達を見下ろすその目には、敵意などは存在しない。
あるのはそう―――
『オオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』
―――抑えようのない、破壊衝動だ。
「《絶氷》!!」
咲島さんが叫ぶ。
その瞬間、物理的に背筋が凍るような寒気に襲われ、周囲が凍てついていく。
アラブルカミもその対象となっており、足から少しずつ凍っていく様子が見えた。
「私が時間を稼ぐ!すぐに撤退しなさい!!」
そう言って、咲島さんはありえない跳躍を見せ、アラブルカミへ攻撃を仕掛けた。
私達は、咲島さんが飛び上がってすぐに走り出し、ここへ来ていた全員がポータルへ飛び込んでいく。
次々とポータルの光へ吸い込まれていくとは言っても、転移するまでの順番待ちが発生し、中々私達は帰れない。
背後では爆発音にも近い轟音が鳴り響き、咲島さんが私達を逃がすために戦っている。
レベルの差は歴然。
卓越した魔力操作技術で、レベル差をある程度埋めることが出来ているのかも知れないが、相手はレベル500だ。
正面から戦って、勝てる相手じゃない。
何度も振り返り、咲島さんの無事を確認していると、ようやく私達の番が回ってきた。
2人でポータルに入り、転移するとそこは仙台ゲートウェイだった。
「……人があんまり居ない?」
「緊急事態だから、他の冒険者は自重してるのよ。ほぼ貸し切りね」
ゲートウェイは、もっと沢山の人で溢れかえっているはずなのに、思ったよりもガラガラだった。
そこにいる人たちは、大抵が咲島さんの召集を受けて集まったものばかり。
仙台の人達の連携は素晴らしいね。
「……咲島さん、帰ってきませんね」
「きっと大丈夫よ。なんたって、あの人は最強の――――っ!?」
ダンジョンの入口から、爆発音のような轟音が鳴り響き、衝撃波が飛んでくる。
さっきのような、背筋が凍りつくような、強大な気配は感じないものなの、緊急事態であることは事実。
その場に居た全員が武器を持ち、息を呑んでダンジョンの入口を見つめる。
…そんな状況が、1分、2分、3分と続き、緊張感が頂点に達した頃―――
「―――っ!?お、落ち着いて!もう武器を構える必要はないわ」
ダンジョンの入口である時空の歪みから、咲島さんが出てきた。
多少服がボロボロになっているが、特に怪我をした様子のない咲島さん。
その姿を見て、ようやく緊張が解け、私達は安心することが出来た。
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