第55話 復活
目を覚ますと、白衣を着た沢山の女性に囲まれていた。
何やら色々なポーションを飲まされたり掛けられたりして、体がビショビショになっている。
あと、なんかベタベタする。
「…かずちゃんは?」
「あの女の子なら、攻撃チームが救出してポーション治療を受けてるから大丈夫よ。…なんか倒れちゃったみたいだけど」
倒れた?
疲れてるのは分かるけど…気を失うほどではないはず。
…いや、私が思っている以上に疲労が溜まってたのかもね。
慣れない環境での寝泊まりをした上に、早朝から休みなく探索をし続けた日の翌日だ。
きっと、本人ですら気づいていない疲れが溜まっていたに違いない。
「動かないで。ポーションとは別の回復が働いているようだけど、重傷であることに変わりはないんだから」
「はい……」
「しっかし、変わった再生の仕方ね?スキルの類ではないとすると……何か、変なモノを使ってないでしょうね?」
「変なモノ?」
「違法物品よ。依存性のあるものや、本人にも周囲にも悪影響を与える厄介な副作用を持つアーティファクトとか。使ってないでしょうね?」
…《フェニクス》は違うはず。
違法ではないはず。
……違法じゃないよね?
「……何か使っているのね。こっちとしても、対応が変わってくるから正直に言いなさい。ほら早く」
「……《フェニクス》を使いました」
「あー、はいはい。《フェニクス》ね?………は?」
正直に吐き出すと、さっきから声をかけてくれていた女性のみならず、今も処置をしてくれていた人達も動きを止めた。
「…ごめん、もう一回言ってもらえる?」
「《フェニクス》を使いました」
「あー…うん………まじ?」
「マジです」
私は、空になった《フェニクス》の瓶を取り出し、女性に見せる。
「嘘っ……咲島さんの部屋に飾ってある瓶と一緒……」
「そりゃあ、本物ですから」
咲島さん、《フェニクス》の瓶を部屋に飾ってるのか…
いや、確かに貴重なものであることに変わりはないけどさ?
なんというか……いや、なんでもないわ。
「あの〜……なんか胸が苦しくなってきたんですけど…」
「っ!?ごめんなさい、すぐに再開するわ!」
あまりの事に、処置が止まったせいでなんだか胸が苦しくなってきた。
そのことを伝えると、すぐに作業を再開してくれて、また苦しくなくなった。
そのまま、色々されること数分。
「―――よし、もう動いていいわよ」
「ありがとうございます」
「完治した訳じゃないから、無理はしないように」
怪我が治り、普通に動けるようになった。
釘は刺されたものの、じっとしてなんかいられない。
気配を頼りに、かずちゃんの元へ駆けていく。
意外なことに、かずちゃんはすぐそこで寝かされていて、私がやって来てもすやすやと眠っていた。
「もぅ………ふふっ、心配かけたね」
『スー…スー…』と、寝息を立てて気持ちよさそうに眠るかずちゃんを抱き上げ、かずちゃんのぬくもりを全身で感じる。
「……イチャイチャするのは、帰ってからにしなさい」
かずちゃんを守っていた女性の1人にそう言われ、弾かれたようにハッとする。
「そう言えば、どうやってここに…?」
私達みたいに、ポータルを使ってここに来たんだろうか?
でも、そんなピンポイントにここへ来れるものなのか?
かずちゃんの話を聞く限り、かなり運の悪い状況だと思うんだけど…
「咲島さんが血相を変えて帰ってきたかと思えば、調査部隊に召集命令が出たの。そして、ひとつひとつ《番外階層》を調べて、ここまで来たのよ」
「《番外階層》?」
「ごく低確率で発生するポータルの異常によって転送される異空間。そこへ繋がるポータルが存在せず、また帰還用のポータルも通常時は存在しない事から、本来ははいれ無い階層。《番外階層》と呼ばれているわ」
…なるほど。
ここは《番外階層》と呼ばれる異空間で、通常の手段では来ることが出来ず、帰ることも出来ない、何処とも繋がっていない階層。
私達はそれに、運悪く巻き込まれてしまったのね。
……待てよ?
「待って、今更でひとつひとつ調べたって言ってなかったかしら?」
《番外階層》を、ひとつひとつ調べる?
ポータルの異常でもないと、ここには来れないんじゃないの?
「咲島さんは、《番外階層》へ自在に出入り出来る。『自分の知る』という条件はあるけれど、知っているところであれば何処へだって行けるわ」
「そんな事が……」
「《ジェネシス》との取引の賜物らしいわ。本当、あの人は何処までも規格外よ」
《ジェネシス》と取引……そんなことまでしてるのか、あの人は。
改めて咲島さんが規格外な存在だと知り、畏敬の念が強くなったその時―――
『ホオアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアア!!!』
「「「っ!?」」」
突然、とんでもない絶叫が聞こえ、攻撃チームはもちろん、私の治療をしてくれていた人達、眠っていたかずちゃんまでもが飛び上がり、警戒心をMAXまで引き上げる。
「今のは…?」
「インベーダートレントの絶叫……ついに倒れましたか」
「そうね。でも、それって不味いんじゃないかしら…?」
「そうですね……今度は、何が出てくるのやら…」
飛び起きてすぐに状況を理解したかずちゃんは、私に甘えることも、私が動けるようになったことを喜ぶこともなく、周囲を警戒している。
状況がよく飲み込めない攻撃チームの人達を見たかずちゃんは、彼らに今の危険さを伝える。
「インベーダートレントは、ダメージを負うと無限復活のモンスターを召喚します。傷付けば傷付くほど強力なモンスターを呼び出すので……あれほどの絶叫、一体何が出てくるのや―――っ!?」
最後まで言い切ることはなく、全身の毛を逆立て、ガタガタと震え始めた。
それはかずちゃんだけでなく、治療班や攻撃チームも同じだ。
「なに…?この…化け物じみた気配…?」
身体を内側から冷やされたような、全身が凍てつくような寒気を感じる、強大なナニカの気配。
その場に居る全員がその気配に怯え、動けなくなっていた。
そこへ、咲島さんの声が響く。
『全員撤退!!!すぐに逃げなさい!!!』
その声に正気を取り戻した私達は、彼女らの先導の元、全力で走る。
完治していない事もあり、胸が痛くなるが、そんな事は言っていられない。
切り倒されたインベーダートレントが見え始めた頃、頭上から『メキメキメキ』という、何かにヒビが入るような音が聞こえ、空を見上げる。
すると、そこには本当にヒビが入った空があった。
「早く!!こっちよ!!!」
咲島さんが、ポータルへ入るよう激しく手招きをする。
しかし、私達がポータルに辿り着くよりも早く空が割れ、“ソレ”が降ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます