第54話 起死回生
刀を構え、目の前に経つ2体の巨獣を相手に、私は勇敢に立ち向かった。
……いや、これはきっと勇敢じゃない。
ただの自殺行為だ。
神林さんとは、2人で生きて帰ると約束したけれど……それは、望めそうにない。
神林さんは、何故かポーションが効かず、《フェニクス》の効果で得たはずの再生能力も機能していない。
もう…長くはないと思う。
(どうせ死ぬなら…せめて、神林さんの遺体だけでもキレイな状態で遺したい。私はどうなったって良いんだ)
欲を言えば、神林さんと一緒に死にたかった。
でも、神林さんは帰ることを諦めていない。
絶対に生きて帰ると宣言していた。
だから…一緒には死ねないんだ。
「来いよ…化け物が!!」
神林さんを守るため。
私は自分を奮い立たせ、地竜を挑発する。
震える足を叩き、『行くな』と叫ぶ本能を振り切って、私は前に出る。
「あああああああああああああああああああ!!!!」
雄叫びを上げ、私を睨む2体の地竜の1体に斬りかかる。
地竜はそれを抵抗せず受け止めた。
自分の防御力に自信を持っているんだ。
事実、私の振り下ろした刃は、鱗一枚貫くことは出来ず、簡単に弾かれてしまう。
「〜っ!!やあっ!!はぁっ!!!」
諦め悪く、何度も同じ場所を斬りつけるが、鱗の表面が削れる程度で、まるで効いていない。
それでも、私は刀を振り続けた。
されるがままの地竜。
もう一体の地竜が私の背後に周り、低い唸り声を上げつつも、手は出してこない。
舐められている。
私に勝てる相手じゃない。
その事は、地竜もよく分かっているんだ。
(『M3爆弾』があれば……いや、もう効かないか)
この状況で地竜達が最も警戒しているのは、『M3爆弾』だ。
私が『M3爆弾』で攻撃してくることを、何より恐れているはずだ。
神林さんはもう動けない。
あの状況で『M3爆弾』を使えるとは思えないし……使うなら、私だ。
…まあ、『M3爆弾』は全部神林さんに預けてるから、私は1つも持ってない。
今私が生きていられるのは、地竜が私が『M3爆弾』を持っている確証がないからかな?
「はぁ……はぁ……」
何度も刀を振り続け、流石に疲れた。
膝をつくほどではないにしても、もう戦えない。
最後に…神林さんを守れたかな?
「グルルルルルル………」
攻撃をやめた私を見下ろす地竜。
「ガアッ!!」
「―――ッ!!!」
前脚で蹴り飛ばされ、何度も地面を跳ねる。
そして、まだ崩れていないビルの壁に激突し、全身から嫌な音が鳴った。
「うぐ……ふぅ……ふぅ……」
これ…肋骨が折れて、肺に刺さってるな。
めちゃめちゃ痛い上に…行きが苦しい。
やばいなぁ…最期がコレかぁ……
冒険者がダンジョンで死ぬときって、ろくな死に方しないらしいけど……これはキツイなぁ。
……神林さん、まだ生きてるのかな?
あんな事になってたし、もうあっちで待ってくれてるかもね。
……死ぬなら、一緒が良かったなぁ。
ポーションを使う気にもなれず、命を手放そうとしていると、地竜がこっちに近付いてきた。
…私を食べる気?
どのみち死体は残らないとはいえ…生きたまま食われるのは嫌だ。
無理矢理体を動かし、折れてしまった刀を強く握って立ち上がる。
「はぁ……はぁっ…!」
少し動いただけで、電流を流されたかのような、激しい痛みが私に襲いかかる。
普通なら、立っていられないほどのものだけど…この程度の痛み冒険者なら耐えられて当然。
……それは嘘だね。
全身ボロボロの状態で無理に動くなんて、冒険者でもそうそうしない。
骨折くらいでも冒険者業を休むことだってあるし、私の状況は普通に耐えられないレベルの重傷だ。
「グルルルルルル……」
「っと……余計なことを考えてる余裕はないか…」
すぐそこまで迫ってくる地竜。
どうやって抵抗しようかと、有効そうな方法を模索する。
……が、何一つそんな物はない。
「はは……私もそっちに行きます、神林さん…」
諦めて刀を手放し、その場に膝をつく。
もはや余計なことを考えることをやめ、愛する人のことを思う。
神林さんとの思い出がフラッシュバックし、胸が一杯になった。
地竜が私を口を開く。
そのまま私の体が口の中へ隠れる――――
「『風撃』!!!」
―――ことはなく、横からの魔法攻撃を受け、吹き飛んでいった。
「……え?」
顔を上げると、誰かがこっちへ走ってくる様子が見える。
「大丈夫!?すぐにポーションを使うから、もう少し頑張って!!」
私のもとに駆け寄ってきた女性が、ポーションを私の口に突っ込む。
口の中に流れ込んできたポーションを飲み干すと、あっという間に効果が現れて、怪我が簡単に治ってしまう。
……ん?なんか怪我の治りが良すぎるんだけど……まさかッ!?
「これ、上級ポーション!?」
「ええ。気にしないで、これも先行投資の一貫だそうよ」
「先行投資……そうか、あなた達は『花冠』?」
「いいえ。『花園』よ」
なるほど……咲島さんが救援を送ってくれたのか…
そうだ!神林さん!!
「神林さん!!えっと、もうひとりの女性は―――」
「大丈夫よ。かなり危ない所だったけど、回収に完了しているわ。集中治療を受けてるから安心して」
見ると、白衣を着た数人の女性が神林さんを取り囲み、治療を始めている。
きっと助かる。
そう持ったら、急に力が抜けて、私は意識を手放してしまった。
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