リストラされた元社畜OLは、美少女とダンジョンへ行く 〜仕方なくなった冒険者は天職でした〜

第53話 絶望的状況

「ガアアアッ！！」

「チッ！」

地竜が私目掛けて鋭い爪を振り下ろしてくる。

巨木の幹のように太い前脚から繰り出されるその攻撃は、爪の鋭利さが足りずとも容易に私の命を奪うことができる威力がある。

後ろに飛んで前脚の攻撃を躱し、避けられたことで生まれた隙を狙って、一気に距離を詰め、地竜の目を狙う。

しかし―――

「っ！！」

氷風呂に入れられたかのような寒気に襲われ、市制を低くして回避行動をとった。

その次の瞬間、私の頭を正確に狙って蔦が伸びてきた。

しゃがんでいなければ、きっと頭が弾け飛んでいただろう。

「もう魔力撹乱が切れたのか！！」

アイテムバックから『M3爆弾』を取り出し、ボールを蹴るようにそれを蹴り飛ばすと、インベーダートレントにぶつかると同時に起爆した。

「それで死んでくれたら楽なんだけどね！」

魔覚を潰し、インベーダートレントから攻撃されないようにすると、今度こそ地竜の目を潰そうとしたが…

「グルウァアアアア！！！」

「やっぱ無理か！！」

既に地竜に隙はなく、むしろ次の攻撃の構えを取っている。

すぐに横に飛んで逃げるが、地竜は私の動きをよく観察し、追いかけてきた。

流石はドラゴンなだけあって、頭はかなりいいらしい。

「モンスターなら化け物らしく、何も考えず突っ込んで―――っぶな！？」

2体目の地竜が、突然攻撃を仕掛けてきた。

逃げる私を追いかけつつ、なんと誘導までされていたらしい。

「はぁ…はぁ……はめられましたね」

「ええ。見事に囲まれたわ」

反対側から逃げてきたかずちゃんと合流すると、3体の地竜に既に囲まれていた。

「多分、こうなることを狙って動いてたわよね？」

「動き的にそうでしょうね。ドラゴンは他のモンスターと一緒にしちゃ駄目ってことです」

背中をピッタリくっつけて、互いの死角を潰す。

ドラゴンに囲まれたとか、絶望しかない状況だけど、かずちゃんと2人なら――――うん、どうしょうもないね。

「かずちゃん…死ぬ時は一緒よ」

「私まだ死にたくないです」

「私もよ。絶対、生きて帰りましょう」

そう言って、私は『M3爆弾』を地竜の一体に投げつける。

地竜はそれを避けもせず、前脚で叩き落として踏み潰した。

それを見て、思わず笑ってしまう。

「グッ――――――」

スイッチを押せば、地竜が踏み潰していた『M3爆弾』が、激しい閃光を放ち爆発する。

インベーダートレントを吹っ飛ばす破壊力をもつ爆弾だ。

流石の地竜も耐えられず、前脚どころか上半身がほぼ消し飛んでいた。

「よし！逃げるよ！！」

かずちゃんの手を握り、思いっきり引っ張りながら吹き飛んだ地竜の方へ走る。

逃げるが勝ち。

『M3爆弾』を使えば地竜を倒せるけれど、もう『M3爆弾』は使えない。

自分の命を脅かし得るモノを、私が持っていることを見せてしまった。

きっと警戒されて、よほど大きな隙を作らないと次はないだろう。

「これ、逃げられますかね！？」

「やるしか無いのよ！」

全力で逃げる私達を、残り2体の地竜が追いかけてくる。

ステータスで劣っている上に、あれだけの巨体。

全力で逃げた所で、すぐに追いつかれそうなものだけど……それでも、走り続けるしか無い。

地竜の足音がどんどん迫ってくる事に焦燥を覚え、かずちゃんの手を握る私の手がじんわり汗ばむ。

『後でしっかり手を洗ってあげよう』そんな事を考えていると、かずちゃんの息が荒くなり、引っ張るのに必要なも力が増えてきた。

囮にモンスターの相手と、体力を使う事を押し付けてきたせいか、もう走るだけの力が残っていないのかも知れない。

「かずちゃん。私が担ぐから、ジャンプし―――――え？」

「っ！？神林さん！！！」

突然、何者かの攻撃によって《鋼の体》の鎧が破壊され、私の背中が強く押された。

……いや、押されたんじゃない。

「そん、な……」

あまりの突然のことに、一瞬理解が追いつかなかった。

でも、すぐに分かった。

私視界には、血で真っ赤に染まった、いくつもの蔦が絡まって出来た太い棘がある。

その棘は……私の体を貫通して出てきている。

「ごめん……私、駄目かも…」

体を貫かれた私とは違い、まだ走っている最中だったかずちゃんは、私を追い越していた。

そのせいで、はっきりと見せてしまった。

私の体が貫かれている様子を……

「神林さん！喋っちゃ駄目です！！」

かずちゃんが駆け寄ってきて、私の体を引っ張る。

棘から体が引き抜かれると、ちょうど心臓がある場所にぽっかりと穴が空き、そこから血が流れ出している。

「ポーション！早く飲んでください！！」

アイテムボックスから中級ポーションを取り出し、蓋を開けて私の口に無理矢理突っ込んできた。

中からポーションが私の口へ流れ込み、口の中に独特の味が広がる。

それを飲み込み、ポーションの効果で傷が治るのを待つ。

しかし、胸に空いた穴が塞がる気配は無い。

ポーションが効いていないんだ。

「なんで！？どうして！？」

悲痛な叫び声を上げ、2本目のポーションを取り出したかずちゃん。

しかし、今度は飲ませてはくれなかった。

「くっ！！神林さんすいません、自分で飲んでください！！」

そう言ってポーションを持たせると、私を背負って走る。

地竜がすぐそこまで来ている。

ただでさえ疲れている状況で、私を背負うなんて、負担でしか無い。

……まあ、かずちゃんにだけは助かってほしいから、置いていけなんて言えないけど。

「かずちゃん…2人で、帰るのよ」

「っ！！そうですね！2人で！帰る！！」

耳元でそう囁いてあげると、走る速度が上がった。

やっぱり、愛の力は偉大である。

……それでも、私を背負いながらでは速度が出ず、ついに地竜に追いつかれてしまう。

「くぅっ！神林さん、ここに隠れててください」

地竜の攻撃を間一髪で躱し、私を崩れかかった建物の影に隠すと、1人地竜に立ち向かっていった。

「かずちゃん…だめ………戻ってきて」

相手は地竜。

1人では勝ち目なんか皆無だ。

あんなの…死ににくようなもの。

2人で生きて帰るって…約即したのに！

「お願い…戻ってきて…！」

再生が始まらず、力が抜けていく中でなんとか叫ぶが、既に戦闘を始めてしまったかずちゃんには届かない。

私は…かずちゃんがやられていく様子を…見ることしか出来なかった。