第52話 予想外の敵

突然現れたモンスター。


今にも私達に襲いかかってきそうなそれらを警戒しながら、私の背中を守っているかずちゃんに話しかける。


「かずちゃん…モンスターのレベルは?」

「………」

「かずちゃん?」


……返事がない。


このモンスター達は、そんなに化け物なのかな?


気配的には、ホラアナイヌジシとそんなに変わらないんだけど…


「…かずちゃん?私の声が聞こえてる?」

「……神林さん。ヤバイ、です…」

「それは、モンスターがって事?」

「いいえ。……このモンスターの現れ方、異常なんですよ」


モンスターの現れ方が?


確かに、煙から生物が生まれるのは変だけど……モンスターは倒したら煙になるし、理解出来ないわけじゃないよね?


「異常って?」

「……その、モンスターってどうやって生まれると思います?」

「どうやって……こう、地面が光ってパーッって感じ?」


なんか、そんな感じで生まれてきそうなイメージはある。


見たことはないけど。


「モンスターは…まずダンジョンの何も無い場所に魔力が集まり、魔石が形成されます。そして、その魔石に不明の物質で構成された煙が集まって、やがてモンスターの形を作ります。魔石を放置しても、同じことが起こるんです」

「…つまり、今起こったことと同じことが起こるって事?」

「そうです。……ですが、このモンスターは……多分、魔石がありません」

「え?」


魔石が無い?

モンスターは、魔石に煙が集まって生まれるんじゃないの?


魔石を持たずに生まれたこいつ等って……


「この現象、他に起こったことはないの?」

「ありません…」

「確かに…異常事態ね。でも、だからって何だと言うの?おかしな事態だけど、気配的に倒せない相手じゃ―――」

「神林さん!避けてッ!!」

「っ!?」


私の言葉を遮るようにかずちゃんが叫び、急に横に飛んだ。


その瞬間、私も猛烈な嫌な気配を感じ、すぐに横に飛んだ。


「チッ!魔力撹乱が薄まったか!」


アイテムバックから『M3爆弾』を取り出し、少し離れたところに居るモンスターに投げつけ、起爆した。


モンスターは木っ端微塵になり、飛び散った肉片が煙へ変わる。


……が、煙がまた一箇所に集まり、木っ端微塵になったはずのモンスターが復活した。


「嘘でしょッ!?」

「無限湧きですか!それは辛いですねッ!!」


私よりも先に回避行動を取っていたかずちゃんは、近くに居たモンスターに襲い掛かり、攻撃を開始しながら斬撃と魔法を叩き込んでいる。


それを見て、負けじとさっき爆破したモンスターに飛び掛かり、顔面を全力で蹴る。


そうして怯んだ隙に懐に潜り込み、回し蹴りでぶっ飛ばす。


モンスターが飛ばされた方向には、インベーダートレントが居る。


そして、そのインベーダートレントにモンスターがぶつかると―――


「グギャッ―――!?」


―――反射で蔦が伸びてきて、モンスターを串刺しにした。


熊くらいの大きさのあるモンスターだったからか、串刺しになってもなかなか死なず、死ぬまでは戦線離脱だろう。


あの重症だ、まともに動けるものか。


「かずちゃん!手足を狙いなさい!!行動不能にすれば、復活を阻止できる!!」

「了解です!!」


私がそう指示すると、かずちゃんの動きが目に見えて変わり、目を見張る早業で相対していたモンスターの手足を全て切断した。


これでまた、相手をしなければならないモンスターが減った。


残りは3体…モンスターの相手は、かずちゃんに任せても問題はないでしょう。


想定外のことは起こったけれど、これなら対応可能だ。


「かずちゃん!私はインベーダートレントを狙うから、モンスターの相手は任せたよ!!」

「はい!すぐにそっちに向かうので、先に攻撃をしておいてください!!」


かずちゃんにこれからの動きを伝え、私はインベーダートレントとの距離を詰める。


そして、根を踏まないように気を付けながら、抉れた幹の奥の方へ『M3爆弾』を投げていく。


「一気に爆破して、中央にドデカイ穴を開けてやる!」


4つの『M3爆弾』を投げ入れた時点で、根の陰に隠れてスイッチを押す。


鼓膜が破れそうなくらいの轟音が鳴り響き、思わず頭を抑えるが、すぐに次の行動へ移る。


さっきの爆破で出来た窪みに、また『M3爆弾』を投げ入れるのだ。


途中、根を触ってしまったときは肝が冷えたが、なんとか回避に成功。


《鋼の体》を貫通し、お気に入りのジャケットに穴が空いて、すこぶる機嫌が急降下した。


その恨みをぶつけるように、今度は6個投げ入れて起爆してやった。


流石にこれは効いただろう。


煙が晴れると、そこには家が庭ごと入りそうなほど大きな穴があり、心做しかミシミシという音が聞こえる。


あと一息だ。

側面に投げつけて穴を広げてやれば私達のか――――――


『ホアアアアアアアアアア………』


「っ!?またか!!」


このままかずちゃんを1人にするのは不味いと思い、すぐさまインベーダートレントの元を離れる。


そして、1人モンスターと戦っているかずちゃんの所へ、全力疾走した。









           ☆ ★ ☆






「増援ですか…面倒な」


ようやく最後一体を戦闘不能にし、一息つけると思った瞬間、叫び声のような音が響き渡った。


インベーダートレントが、攻撃を受けて増援を呼んだらしい。


またもや煙が数か所に集まり始め、生き物のシルエットを形成していく。


「かずちゃん!大丈夫!?」

「神林さん。良い所に来てくれましたね。ちょっと不味いかもです」


神林さんが来てくれた。


神林さんが居れば百人力。

きっとなんとかなるだろう。


……ただ、少し不安な事があるとすれば―――


「なんか…煙の量が多くない?」

「ですよね?明らかに多いですよね?」


出現するであろうモンスターの数は少ないが、それなのに煙の量がさっきよりも遥かに多い。


考えられる可能性は…大きなモンスターが出現するということ。


もう一つは……


「さっきより、強いモンスターが湧いてくるのかしら?」

「強いモンスター…レベル70くらいなら対処できますよね?」

「まあ、ね?」


インベーダートレントの攻撃を躱しつつ、さっきよりも強いモンスターの相手をする。


難易度はかなり高い。


だけど、やらないと帰れないんだ。


刀を握る手に力が入り、嫌な汗が頬を伝う。


煙は数カ所に集まると、何処か見覚えるのあるシルエットになって、肉や骨、血や皮への変わっていった。


その皮を見た瞬間、私は背筋が凍るような嫌な感覚に襲われた。


「っ!!」

「それは…聞いてないわよ……」


どうやらそれは、神林さんも同じだったようで、表情を歪めながら冷や汗を流している。


当然だ……こんなの、私達じゃどうしょうもないんだから。


「さっきよりも強いモンスター……だからって、地竜を出してくる?」

「レベルも…あの時見た地竜と同じです。私達に、勝てる相手ではありません…」


現れたのは…人の何十倍もの巨体をもつ、巨大なトカゲのような化け物。

地竜だ。


昨日ダンジョンで見た地竜と同じレベル、同じスキルの化け物。

それが3体だ。


勝てる見込みが…これっぽっちも湧いてこない。


あまりの光景に、早くも私の心は折れかかっていた。


呆然としているうちに地竜達は動き出し、恐ろしい唸り声を上げて襲いかかってきた。


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