第51話 戦闘開始
次の日、私達は朝早くから出発し、昨日見つけたインベーダートレントの本体と思しき、巨大な樹木の元へやって来ていた。
インベーダートレント以外に生物が存在しないため、途中で戦闘になる事も、何かに邪魔されることもなく、ここまで来ることが出来た。
とても楽な反面、それはつまりこの世界はもう死んだも同然ということ。
一刻も早く、ここから脱出する為にも、できることはすべて試してみなければ…
「……何見てるの?」
「アイテムバックに入っていた手紙です。見ますか?」
『M3爆弾』をインベーダートレントの根本に設置して回っていると、かずちゃんが何かを見ていた。
手紙と言うには小さく、ただの紙切れに見えるが…何か書かれている。
『俺にはこれを使う勇気がない。自衛隊の基地に盗みに入る勇気はあったのにコレで現状をどうにかしようとする勇気はない。奴等はどれか1つでも攻撃すると全てが攻撃してくる。奴等はどこまでも広がっているんだ。そんな奴等を攻撃する勇気なんて 俺にはない。
もしこれを見つけた奴がいたら言っておく。生き残りたきゃ余計なことはするな』
……なんですって?
「『1つでも攻撃すると、全てが攻撃してくる』……そんな事無かったですよね?ここに来るまでに、何度もインベーダートレントと出会ってますけど、1度も攻撃してこなかったんですから」
「……かずちゃん。それ多分フラグだよ」
「え?きゃっ―――!?」
私はかずちゃんを抱きかかえると、全力で走る。
その刹那、バキバキバキッ!!という、何かが割れるような音が後ろから聞こえてきた。
「口と目を閉じて!!」
「え!?は、はい!!」
かずちゃんに口と目を閉じてもらうと、すぐに片手で起爆スイッチを押した。
閃光が後ろから迸ったかと思えば、竜に殴られたかのような強烈な衝撃によって、私は吹っ飛ばされた。
《鋼の体》を発動し、体を守っていなければ、死んでいたかも知れない。
そんな爆風を受け、私はかずちゃんを抱いたまま、かなり吹き飛ばされた。
そのおかげで、なんとかインベーダートレントと距離を取る事に成功し、揺れ動く巨大樹の姿を拝めた。
「植物のくせに…私達人間を、罠に嵌めるとはね」
「もしあの手紙を見つけてなかったら……」
「考えただけでゾッとするわね。さて…どうしたものか」
先程まで、ただの樹木のように突っ立っていたインベーダートレントは、風が強く吹いているわけでもないのに、激しく揺れ動き、根がタコの脚のようにうねっている。
とても近付ける様子ではなく、不用意に接近すれば、あの太い根に押し潰される事だろう。
「そもそも、アイツはどうやって私達の居場所を感知しているのか…」
「触覚…もしくは、魔力を感じているのかも知れません。試しに、『M3爆弾』を、空中で爆発してみてください」
「了解。やってみる」
アイテムバックから『M3爆弾』を1つ取り出し、インベーダートレントへ投げつけると、爆炎が私達に届かないくらいの所で起爆した。
目を瞑って閃光を躱し、インベーダートレントの様子を確認する。
すると、なにやら先ほどと比べて様子がおかしい事に気がついた。
「突き刺さるような敵意や殺意を感じない…私達を見失ったか?」
「植物から敵意や殺意を向けられるって、何気に相当凄い状況ですよね……ですが、確かにそれらを感じなくなったのも事実。あとは、触覚ですが―――えい!」
かずちゃんは、足元の石を拾って、インベーダートレントに投げつけた。
すると、インベーダートレントは石が当たった直後、私達の方向へとんでもないスピードで、触手のような蔦(?)を伸ばしてくる。
「ひゃっ!?」
かずちゃんを抱き寄せて思いっきり横に飛び、その攻撃をなんとか回避する。
「触覚はありそうね。石が飛んできた方向から、私達の位置を割り出したか」
「なるほどです。触覚と――魔覚とでも言いましょうか?その2つで、私達を見つけているみたいですね」
「そうね。なら…『M3爆弾』で魔覚を潰し、アイツに触れないように気を付ければ…なるとかなるわ」
どうやら、触覚と魔力で私達の居場所を探知しているらしい。
なら、今言った方法を使って、うまく立ち回れれば…勝てない相手じゃない。
―――――ただ、1つでも問題があるとすれば……
「このデカブツを……どうやって倒そうか?」
「そうですね……こんなの、切れる気がしませんよ。魔法も効かないでしょうし、何より探知されかねません。神林さんは…」
「触ったら、反射で蔦が飛んでくるわ。串刺しになってお陀仏よ。もちろん、かずちゃんが近接戦を仕掛けてもね?」
「ですよね…」
インベーダートレントに物理攻撃をすることは、それ即ち死を表すと考えた方が良い。
魔法も位置を探知されかねないから、当然却下。
となると、やっぱり『M3爆弾』を使うほかない。
常に動き回って、『M3爆弾』を投げつける。
そして、上手く起爆すれば…いつかは倒せるだろう。
「多分、かずちゃんも同じことを考えてるよね?」
「はい。じゃあ、始めましょうか?」
そう言うと、かずちゃんは一気に加速して私から離れていく。
そして、それなりに距離を取った所で、アイテムボックスからナイフを取り出し、インベーダートレントに投げつけた。
ナイフが幹に刺さると同時、ぎりっぎり見えるレベルの速さで、かずちゃんへ迫る蔦。
しかし、そこにはかずちゃんはおらず、鉄板すら貫けそうな一撃は、空を切った。
かずちゃんが囮役をしてくれている。
その隙に、私はインベーダートレントの根本―――もっと言えば、さっき爆破した場所目掛けて『M3爆弾』を投げ、サイドステップでその場から離れる。
すぐに私のいた場所に蔦が伸びてきたが、そこには誰も居ない。
同じように、常に動きながら『M3爆弾』をいくつも投げると、スイッチを押して一気に起爆。
爆炎が晴れると、そこには抉れた幹があった。
「効いてるようね。あとは、これを繰り返す!」
今起爆したばかりだから、魔力撹乱も出来ているだろう。
触りさえしなければ、インベーダートレントは、私を見つけられない。
『M3爆弾』を抉れた幹の中と、その付近に投げつけ、起爆する。
無駄に良い色をしている組織が見える範囲が増え、着実にインベーダートレントにダメージが入っている事が伺い知れた。
どんどん攻撃を続けようと、次の『M3爆弾』を取り出した時、かずちゃんが私の所へ走って来た。
「この調子なら、そのうち勝てそうですね。『M3爆弾』の残数は?」
「まだまだいっぱい。削れ方からして、余裕はあるわ。あまりが出そう」
「なら勝てます。攻撃も単調ですし、回避も思ったより簡単。肩透かしを食らいましたよ」
インベーダートレントは、私達が警戒していたよりも、ずっと弱かった。
『M3爆弾』もまだまだあるし、これなら勝てるだろう。
問題は……これで帰れるかどうか。
このインベーダートレントを倒すことが条件じゃないなら……盛大に時間と体力を無駄にすることになる。
……もしそうなったら、もう我慢するのをやめてもいいかもしれない。
まあ、とりあえず倒さないと話は始まらない。
さっさと倒してしまって、帰れるかどうかを――――
『ホオオオオオオオオオオオオオ………』
「「っ!?」」
突然、なにかの鳴き声のような音が鳴り響き、嫌な気配がそこら中に現れた。
「この気配…モンスター!?」
「ですが、さっきまでちっとも……なっ!?」
周囲を警戒し、互いに背中を預けて戦闘態勢を取っていると、黒い煙がいくつかの場所に集まっていくのが見えた。
その煙を凝視していると、煙が貌を作り、見覚えのあるフォルムになってきた。
「……モンスター?」
やがて、煙は骨になり、肉になり、血になった。
そこには私達がよく見るモンスターがおり、私達に牙を向いている。
さっきまで何もいなかった場所に、突然モンスターが“生まれた”。
その異常事態に、私は冷や汗を流していた。
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