第50話 調査
帰ってきたかずちゃんは、なんとも言えない表情をしながら、私の元へ走ってきた。
「やっぱり、食料はありませんでした。あったのはゴミだけです」
「そう……何か、使えそうな物はあった?」
「魔導コンロと浄水器。あとは、コレですね」
やっぱり食料は見つからなかったらしい。
使えそうなものとしては、魔石を動力として動くコンロと浄水器。
そして、1つの古びたカバンだった。
「これは?」
「アイテムバックです。中には、使えそうなものが入ってましたよ」
古びたカバンは、アイテムバックだったらしい。
かずちゃんは、その中から謎の装置の付いた小包み?のようなモノを取り出した。
「何それ…?魔力を感じるけど…」
「『M3爆弾』って知ってます?」
「知らない」
「そうですか……コレは簡単に言えば、魔石を爆薬に使用した爆弾です。従来の爆薬とは一線を画す破壊力を持ち、戦車を一撃で木っ端微塵に出来ます」
「木っ端微塵…?」
「すいません、盛りました。ですが、一発で戦車が鉄くずに変わるので、破壊力は化け物ですよ」
威力の説明がよく分からないけど、とにかく凄い事は分かった。
だけど、この爆弾を何処に使うんだろうか?
「これ、何に使うの?」
「それはもう、あの侵略植物をぶっ飛ばすのにです!」
「アレをぶっ飛ばす……そんな事できるの?」
あの木は、広がった根から生えてきた、コピーの1つにすぎない。
目に見える場所を破壊しても、大本が残ってるから、大した意味はないと思うけど…
「ふふっ、出来ますとも。ただ、アレがコピーなら、破壊した所で意味はないですが……気持ち程度、霧の発生を抑えられます」
「霧を抑えた所でね…」
「それはそうですが、やらないよりはマシです。それに、経験値ゲットのチャンスですよ!」
確かに…
インベーダートレントのレベルは70だ。
私達よりもレベルが高いから、得られる経験値は多そうね。
やってみる価値はあるか…
「私の成果はそんな所です。神林さんはどうですか?」
「そうね。じゃあ、良いニュースと悪いニュースともっと悪いニュース。どれが良い?」
「じゃあ……悪いニュースで」
なるほど、真ん中から聞きに来たのね。
悪いニュース…正直、この時点であんまり気分は良くないんだけど…もっと悪いニュースよりはマシだ。
「悪いニュース。それは、この世界はもうダメってことね」
「何を今さら…」
「まあ聞いてよ。タワーの下で見たインベーダートレントと同じ大きさのアレが、そこら中にあった。霧で見えない範囲にはもっとある。食料の確保は、絶望的だよ」
「そうですか……じゃあ、もっと悪いニュースを」
もっと悪いニュース。
正直、良いニュースが無かったら絶望してた。
「もっと悪いニュース。それは、帰る方法らしきものは、見つからなかったってこと」
「やっぱり…ですか……」
かずちゃんは、目に見えて落胆している。
ここから探しても、帰る方法は見つからない。
となると、虱潰しに彷徨うか、諦めて死ぬしかない。
ね?もっと悪いニュースでしょ?
「じゃあ、最後に良いニュース」
「良いニュースは……インベーダートレントの本体と思われるやつを見つけた」
「っ!!本当ですか!?」
「ええ。今から見に行く?」
私がインベーダートレントの本体を見つけたと聞き、かずちゃんの表情に僅かな希望が見えた。
本体と思しきものを見た望遠鏡の所へ連れて行くと、かずちゃんはすぐにその望遠鏡を覗き込み、表情を明るくする。
「アレを倒したら、帰れるかも知れません!」
興奮気味にそう叫ぶかずちゃんは、ぴょんぴょん跳ねながら、私の手を握りしめる。
それに対し、私は険しい表情を見せ、肉眼では見えないインベーダートレントの本体の方を見る。
「帰れるかもしれないけど……スカイツリーより高く、ビルが数個纏まったのと同じくらいの太さがある樹をどうやって倒すの?」
「それは……これで、頑張るしかないです」
そう言って見せてきたのは、『M3爆弾』
コレを使って、本体を爆破しようって事か…
「…倒せるの?」
「巻き付けるように貼れば、行けるはずです」
「そうね。それが成功する事を信じましょう」
期待は薄いが…やらないなんてあり得ない。
とりあえずやってみて、駄目なら他の方法を試す。
その前に――――
「威力確認だけしましょう。コレが、本当に使えるのか、ね?」
『M3爆弾』の威力を確かめる為、また長い階段を降りると、インベーダートレントの前にやって来た。
「本当にこれでいいの?」
「はい。根本にスッと置いておけば、それだけで十分です。さあ、押してください」
『M3爆弾』をインベーダートレントの根本に設置し、少し離れたところにあるビルの中に逃げ込むと、かずちゃんは起爆スイッチを渡してきた。
いざ押すとなると緊張し、手汗が出てきて滑りそうになる。
1度深呼吸を挟み、気持を落ち着かせると、思いっきりスイッチを押した。
その刹那、鳴り響く轟音。
ダンジョンですら聞いたことがないような、とてつもなく大きい爆発音に、私は反射的に《鋼の体》を発動し、耳を塞いでしゃがみ込む。
爆風が私達を、横から殴りつけてきたせいで、ビルの中に居るのに倒れそうになったが、人並外れた身体能力で耐える。
爆発音と爆風が過ぎ去った事を確認した私は、恐る恐る顔を上げる。
すると、ニヤニヤ笑いながら私を見下ろし、立っているかずちゃんの姿が目に映る。
かずちゃん……アレで驚かないとかどうなって――――うん?
「……コレは、どういうことかしら?」
「ふふっ、いいものが見れました。ありがとうございます」
『耳栓』を外し、責めるようにそう訊ねると、かずちゃんはより一層笑みを深めた。
そうして、今更耳栓を差し出してきた。
……ハメられたらしい。
「いい度胸してるじゃない……今日は、一人で寝る?」
「むぅ〜…そんなにカリカリしないでくださいよ〜」
体を擦り寄せて、猫のように鳴きながら甘えてくる。
私を嵌めた事は許すつもりはないけれど、この可愛さに免じてお仕置きはよしてあげよう。
「さてと……本当に、木っ端微塵になってるわね」
「ふふ…だから言ったじゃないですか。威力は本物だって」
気を取り直してインベーダートレントの方を見ると、そこには先程まであった奇妙な樹の姿は影も形もなく、ただ、爆発によってかなり深くまで抉れた地面があった。
「これなら…あのデカブツも倒せるかも…」
「ですね〜。そうと決まれば出発です!早くアレを倒して、元の世界へ帰りましょう!!」
インベーダートレントの、本体の所へ向かおうとするかずちゃん。
私は、そんなかずちゃんの襟を掴み、その場に留まらせる。
「もう暗いわよ。出発は明日」
「えー?」
「じゃあ、オバケが出るかも知れない廃墟の街を歩いて、今から向かう?」
「むぅ…分かりましたよ。今日は寝ましょう」
私にそう言われ、仕方なく行くのを諦めた。
近くにあったホテルの、比較的キレイな部屋を探し、今日はそこで休むことにした。
夕食を食べて、そのままベットに倒れ込むと、かずちゃんは私の服を掴んで、顔を埋めている。
……汗の匂いを嗅いでいるらしい。
「…目の前に本人がいるんだから、本人のニオイを嗅げばいいのに」
「そんな事したら、神林さんは逃げるじゃないですか」
「当たり前でしょ?何されるか、分かったものじゃないし」
前に疲れて帰ってきて、面倒くさかったからお風呂に入らなかった日は、布団の中で服を剥がれた。
それ以来、私はかずちゃんを信用してない。
夜にそれを許したら不味いから。
「明日もあるんだから、早く寝なよ。私はもう寝る」
「抱き枕にして良いですか?」
「好きにしなさい。……間違っても、変に私の体を触らない事ね。追い出すから」
「むぅ…私のこと、本当に愛してます?」
「愛してると、それは別問題なのよ。私が牢屋にぶち込まれたらかずちゃんも嫌でしょ?」
「またそんな事言って……もう知りません。私も寝ます」
わざわざ私の腕の中に潜り込んできたかずちゃん。
私もかずちゃんを抱き締めると、少し汗の匂いがする頭に顔をくっつけ―――
「お休み。愛してるよ」
―――そう言ってあげた。
すると、かずちゃんはぷるぷると震えて、全身で喜びを表現する。
「私も愛してます。お休みなさい」
かずちゃんも私に囁やき、2人で眠った
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