第49話 荒れ果てた世界
「――ここは…?」
真っ赤に染まった視界が戻ってくると、そこには異様な光景が広がっていた。
「仙台…?いや、あんな建物無かったはず…」
「全く別の世界でしょうか?しかし、この荒れ具合は……」
私達が転移してきた場所。
そこは、まさに『荒廃した世界』というにふさわしいものだった。
◇◇◇
血のように赤黒い雲に、スプレーが空中を漂っているような、鮮やかな赤の霧。
見渡せば、ボロボロになったり、崩れていたりするビルが立ち並ぶ、おそらく都会であった街並み。
見たこともない植物がアスファルトを突き破り、無秩序に生えているせいで、荒れ果てている雰囲気が強調されている。
「これ…不味いんじゃないの?」
「こんな階層、聞いたこと無いです。ステータスがあるのは幸いですが…もしかしたら、ここは異世界なのかも知れません」
異世界、ね…
確かに、この荒れ果てた街並みを見ていると、強ち間違いでもないと思えてしまう。
だって、こんな赤い雲や霧は聞いたことがないし、この植物も明らかに地球上に存在するとは思えない見た目をしている。
ダンジョンにそういう領域があるのか…はたまた異世界なのか。
どちらにせよ、今すべきことは、どうやって元の世界へ帰るかを探すことだ。
「強いモンスターの気配を感じます。ここにも、モンスターはいるみたいですね」
「それは、レベルアップが出来るという意味では嬉しいけれど…最悪でもあるわね」
「モンスターは、倒しても食料になりませんからね。幸い、アイテムボックスに食品はそこそこあります。ちょっとずつ、ゆっくり食べていきましょう」
一応、手持ちはある食料はある。
量を考えるに、2人で5日は持つだろう。
水は少ないけど…まあ、ちびちび飲めば、なんとかなるはず。
「かずちゃんの、万が一に備えてを聞いておいて正解だったね。予測不能の事態が起こった時、最低限なんとかなる用意はしておくべきってことか」
「ふふふ。その通りですよ、神林さん。とはいえ…これからどうしましょう?これ、どうやって帰れば良いんでしょうか……」
周りを見渡しても、ワープポイントは見当たらないし、何かわかりやすい目標もない。
どちらも、1から自分で探さないといけないようだ。
「とりあえず、あの東京タワーモドキの所に行ってみましょう」
「そうですね。見るからに何がありそうですし、無くても登れば見晴らしは良さそうです」
帰る方法を探すためにも、よく目立つ建物――――東京タワーモドキへ向かう事にした。
あんな目立つモノがあるんだから、きっとあそこには何かあるはず。
そんな思いで、歩き続ける事30分。
東京タワーモドキの下までやってきた私達は、崩れたビルの陰に身を隠し、入口の様子を伺っていた。
――――――――――――――――――――――――――
種族 インベーダートレント
レベル70
スキル
《光合成》
《触腕》
《柔軟体質》
《放出》
――――――――――――――――――――――――――
「あの奇妙な植物の正体はコレか…」
「ストローのような枝から、赤い煙を吐いてますね…この世界が赤いのは、おそらくこの樹のせいでしょう」
謎の樹―――インベーダートレントは、ストローのようになっている枝から、赤い煙を吐いていた。
おそらく、《放出》のスキルを使って、何かしら有害な物質を放出しているに違いない。
にしても、
ここは、モンスターの侵略に耐えきれず、崩壊してしまった世界の日本なんだろうか?
…でも、その割にはモンスターが少ない。
気配はするが、数はあまりいないみたいだ。
もしかすると、コイツが関係しているかも知れないね。
「かずちゃん…この霧を鑑定できない?」
「霧をですか?やってみます」
今のところ、吸ってもなんとも無いけれど、明らかに見た目がヤバイ。
何かあってもおかしくないだろう。
「神林さん、鑑定出来ました。コレを見てください」
「どれどれ?――――これは…相当不味いかもね」
―――――――――――――――――――――――――――
《貪欲な霧》
インベーダートレントが放つ、周囲の環境を破壊する霧。
インベーダートレント以外の植物を死滅させ、霧が届く範囲内の全ての栄養素を独占する。
動物には直接悪影響はないが、植物が全て死滅するため、生態系が崩壊し、結果的にネズミ一匹居ない死の大地と化す。
―――――――――――――――――――――――――――
とんでもない霧を放ってるな、このクソ植物。
自らと競合し得る全ての植物を排除し、自分だけが生息できる環境を作り出す。
そこにはネズミどころか、虫の一匹すら居ないという死の大地が誕生すると…
「これ、インベーダートレントで鑑定したらヤバそうね」
「やってみます――――うわぁ…」
インベーダートレントに鑑定を使ったかずちゃんは、思わず声を漏らし、嫌そうな顔をしながら鑑定結果を見せてきた。
―――――――――――――――――――――――――――
《インベーダートレント》
周辺の環境を破壊し、自らのみが生息できる環境へと作り変える生物。
恐るべき生命力で根を広げ、本体から遠く離れた場所にコピーを作るため、放置すれば生息域が拡大する。
また、猛毒を持っているため、生息域の拡大を抑制する生物が存在しない。
大いなる神が、異界の植物を採取し、その生態を改変したことで生まれた、侵略的生命体。
―――――――――――――――――――――――――――
想像の倍はとんでもない植物だったわ…
広範囲に根を広げ、本体から遠く離れた場所に、自身のコピーを置いて、生息域を拡大する。
種を作って、飛ばす必要がない生態をしているんだ。
おまけに、種を作る必要がないから、身を守る為に猛毒を持っていると。
こんなとんでも生物を作った『大いなる神』とやらは、何を考えてたんだか…
「《ジェネシス》が作った植物でしょうか?ステータス上は、『モンスター』ということになっています」
「モンスターは、《ジェネシス》が作った玩具何でしょう?そして、この説明文を読むに……異界に存在した植物を、《ジェネシス》が少し弄って、それをモンスターとしてコピーしたってところかしら?」
「とんでもない事をしてますね、《ジェネシス》は。ですが、私達の世界ではまだインベーダートレントは見つかっていません。私達が種を持ち帰らぬように気を付ければ、安全ですね!」
安全、ね…
果たして、今そんな事を気にしている余裕があるのか?
私には、かなり絶望的な状況に思えるわ。
「そんな悠長なことは言ってられないわよ?」
「え?どうしてですか?」
「インベーダートレントや《貪欲な霧》の説明は読んだでしょう?周囲の生態系を…生物ごと滅ぼすという生態。空が赤く染まるほど霧を吐き出し、私達が転移した地点でも根が見えるほど成長している。…この世界に、私達が食べることが出来るモノが、どれほど残っているか」
「っ!?」
かずちゃんは、ようやく事の重大さに気付いたのか、一気に顔色を悪くする。
食料になりそうなモノが一切なく、これから増やすこともできない状況に、僅かな食料だけを持たされて、転移してきた。
こんなもの、飢え死にする他無いような世界で、どうやって生きるのか…
「……とりあえず、アレの横を抜けて、この東京タワーモドキの上に行きましょう。何か、手掛かりが見つかるかも知れないわ」
「そうですね……もしかしたら、食料があるかも知れませんし」
私達は、藁にも縋るような思いで、タワーを登ることにした。
幸いなことに、インベーダートレントは近付いても攻撃してくることはなく、安全に横を通り抜ける事ができた。
タワーの中に入った私達は、植物に侵食された内部を通り抜け、階段を探す。
壁や床を貫通して生えているこのツタは、そういう植物ではなくインベーダートレント。
こんな形にもなって、建物を侵食しながら育つらしい。
階段を見つけ、足元に注意しながら、時間を掛けて登ると、荒れ果てた展望台にたどり着いた。
「腐敗した肉のニオイ…誰かがここで死んだようね」
「そうなると、期待は薄いですね。…一応、食料になりそうなものがないか探しています」
「じゃあ、私は手掛かりになりそうなものを探すわ。あと、使えそうなモノがあったら拾ってきて。……くれぐれも、死体は凝視しないように」
「分かってますよ」
展望台は異臭で満たされており、私達の精神を削ってくる。
こんな場所で人が死ぬなんて、自殺か餓死くらいだろう。
ということは、食料は残っていないと見たほうが良い。
期待は薄いが、僅かな希望にかけてかずちゃんは食料を探しに行った。
私は、展望台から街を見下ろし、帰還の手掛かりになりそうな何かを探す。
周囲で一番高い建物から見る景色は、この場所の荒れ具合をよく知る事ができた。
荒廃した街が、街が続く限りどこまでも広がっている。
ある程度、等間隔に生えたインベーダートレントが、赤い煙を吐き続け、赤い雲と霧を生み出し続けている。
ディストピアとは、この事だろう。
もしインベーダートレントが私達の世界にも侵略してきたら、私のよく知る街もこうなるのか…
「帰る時は…気を付けないとね」
この世界で使ったものは、この世界で廃棄すべきだろう。
この世界のものなんて論外だ。
もちろん、何としてでも生きて帰るのは大前提。
でも、もし帰れなかったとしたら……
「その時は、かずちゃんと――――いや、そんな未来は、絶対に阻止しないと」
設置された望遠鏡を使い、何か帰還の手掛かりになるものを探す。
それから10数分。
いくつもの望遠鏡を覗き込んだ私は、あるモノを見つけ、それが帰還の手掛かりになるのでは?と踏んだ。
そして、帰ってきたかずちゃんに、その事を共有することにした。
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