第48話 本日の成果
「かずちゃん!!」
「はいッ!!」
私の合図と共にかずちゃんが飛び出し、ホラアナイヌジシを切り裂く。
ホラアナイヌジシは、体がほぼ真っ二つになるほど切り裂かれ、一撃で瀕死。
「燃えろっ!」
そこへ、炎魔法の追撃が入り、煙とかした。
第50階層でひたすらモンスターを狩り続け、ボスが復活すると多少参加することで経験値ゲット。
それを繰り返した結果、あの咲島さんが引くほどの、異常なレベルアップに成功した。
その恩恵が、さっきのかずちゃんの攻撃にある。
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名前 神林紫
レベル52
スキル
《鋼の体》
《鋼の心》
《不眠耐性Lv3》
《格闘術Lv4》
《魔闘法Lv3》
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名前 御島一葉
レベル53
スキル
《魔導士Lv4》
《鑑定》
《抜刀術Lv4》
《一撃離脱》
《魔闘法Lv4》
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時刻は午後6時半。
そろそろ撤収の時間です。
今日1日の成果は、大量の魔石と大幅なレベリング。
たった1日でレベルが10以上上がり、スキルレベルもかなり上がった。
そのお陰で、かずちゃんはほぼ一撃でホラアナイヌジシを倒せるようになり、私はタンク役として、守りが堅くなった。
来たばっかりはほぼ全て削られていた《鋼の体》の鎧も、今ではほとんど削られない。
削られたとしても、かなり魔力に余裕が出来たから、全く問題ないけどね。
「今日はこのくらいにしましょう。流石のあなた達でも、レベルアップの速度に陰りが見えてきたようだもの」
「そうですね。今日のところは、これくらいで許してあげます。私達の有能さも、存分にアピール出来ましたし」
「そうね。それに関しては、私にとってもあなたにとっても、大きな成果だと思うわ」
私達が今日得たモノの中で、一番の成果と言えば、やはり後ろ盾だろう。
私達は、咲島さんを味方につけることに成功し、背後には咲島さんが居る状態になる事に成功した。
これにはかずちゃんもニッコリで、分かりやすくアピールしてきている。
「……何かまだ、狙いがありそうね」
「はい。これまでは、色々な理由で売れなかったモノが、売れるようになったので」
「へぇ?何を売りたいの?」
「アイテムボックスですよ。容量がお化けのね」
後ろ盾を手に入れた今、私達に恐れるものは何も無い。
ずっとアイテムボックスの奥底で眠っていたコレを売るには、絶好のタイミングだろう。
アイテムボックスを取り出し、咲島さんに見せると、なにやら不思議なメガネを取り出し、それを掛けてマジマジと観察し始めた。
そしてすぐに、目を見開いて驚いている。
「嘘でしょ…?こんな大容量、見るのは何年ぶりかしら…」
「前にも見たことが?」
何年ぶり…その反応から察するに、以前にも見たことがあるんだろう。
やっぱり、20年以上冒険者を続け、最強であり続けるこの人クラスになると、1度や2度は見たことがあるらしい。
「この手のアイテムボックスは、表沙汰には取引されないの。発見者が使うか、クランに徴収されるか、ギルドで買い叩かれて、裏取りに使われるかだからね。私達みたいなのじゃないと、そうそうお目にかかる事はない品。オークションに出すなら辞めたほうがいいわ。いくら私が背後にいるからと言っても、何もされないとは言い切れない。こういうのが欲しい人間は、強欲で手段を選ばない事が多いからね」
マジか……それは普通に想定外。
後ろ盾の中でも最上と言える咲島さんでさえ、完全には機能しない品。
じゃあ一体、どうしたものか……
「どうするかずちゃん?」
「…背に腹は代えられないです。もう少し待って、強くなってからにするというのも……あるいは―――」
そう言って、かずちゃんは咲島さんを見る。
すると、咲島さんはフッと笑うと、待っていましたと言わんばかりの笑みを浮かべる。
「私が買い取る。これが一番安全ね。アイテムボックスは、単純に値段に出来ないほどの価値がある。大金を得られる上に、恩を売れるんだから…ねぇ?」
「それくらい考えてますよ。約束、しっかり守ってくださいね?」
「ふふっ。そこは任せなさい。『花冠』の重要護衛対象リストに加えておくわ」
そんなリストあるのか…
その護衛対象って、他にはどんな人が居るんだろうか?
偉い人とか、『花冠』幹部の家族とかかな?
そんな人達と同じ重要度になるとはね……やっぱり、残しておいて良かった。
「買い取りに関してだけど…いくら欲しいの?」
「そうですね……相場でお願いします。神林さんもそれでいいですよね?」
「そうね。このアイテムボックスの相場が、どれくらいなのか分からないけど……まあ、億を超えた時点でお金には困らなくなるし、それでいいと思う」
生涯年収よりも遥かに高く売れるだろうから、正直もうお金には困らない。
足元を見られ、多少安くなったとしても、何ら問題はないわ。
むしろ、そうなったら今日みたいに私達のレベリングに付き合わせれば良いし。
「分かったわ。相場ね?なら、30億くらいでどうかしら?」
「……もっと高くても良いんですよ?」
「これ以上になると、流石の私でも厳しいわ。30億が限界よ」
「オークションに出せば、100億は行きますか?」
「行かないでしょうね。高くて50億よ」
そうなのか…
かなりの価値があると思ったんだけど……案外、届かないモノだね、100億。
「《フェニクス》は4000億ですよ?それなのに……」
「あれは、世界的な富豪達が、値段を釣り上げていった結果よ。『不老』になるというのは、富豪達にとってメリットのある話だけれど、このアイテムボックスはそこまでね。たかが10トンだもの」
「……じゃあ、30億で」
「オーケイ。全く、高い買い物になったわ」
確かに、たかが10トン程度のアイテムボックスを買う為に、30億も払うなんて、かなりのボッタクリかも知れない。
咲島さんには、悪いことをしたかも…
「さてと…誰にあげようかな、このアイテムボックスは」
「沢山の物を運ぶ人に渡すのはどうですか?確か、『仙台ダンジョン』にはかなり大きな石炭鉱脈があったはずですよね?」
石炭鉱脈!
ここにはそんなモノがあったのか…
確かに、それなら30億も元が取れるかも知れない…
「石炭鉱脈ね…まあ、そこか伐採場で使わせるのが妥当ね。考えておくわ」
伐採場って事は、木材として価値の高い木が沢山生えたエリアが、何処かにあると……
《渋谷ダンジョン》の、第1階層から第10階層みたいな感じなのかなぁ…
「さて、時間もいいし、帰りましょう。神林さんも一葉ちゃんも、もういいかな?」
「私は良いですよ。神林さんはどうですか?」
「私も大丈夫。十分過ぎる成果があったからね」
満場一致で撤収することになり、私達は咲島さんの案内の元、出口へと向かう。
入り組んだ坑道を、迷うことなく歩き続ける咲島さん。
その後に続いてい歩いていた時――
『そろそろ良いかな』
――そんな、呟きのような声が聞こえた。
「……かずちゃん、なにか言った?」
「え?何がですか?」
かずちゃんが何か言ったのかと思い、聞いてみるが、反応的に違いそうだ。
「違うか……じゃあ、咲島さん?」
「私は何も……あなた達、なにか言ったかしら?」
咲島さんも違うらしい。
そして、私達の後ろに居た『花冠』の人達も違うと、首を横に振っている。
「空耳じゃないですか?神林さん、疲れてるんですよ」
「かもね…何処かの誰かさんが、あんな朝早くに起こさなければ、違ったかも知れないけど」
「うぅ…まだ根に持ってるんですかぁ?」
呟きの割には、ハッキリ聞こえたような気がするけれど……多分、それも空耳だからだろう。
あれは空耳だと結論付け、歩くのを再開すると、すぐに出口が見えてきた。
「着いたよ。1日お疲れ様」
咲島さんはそう言って、出口のワープポイントに入るよう、促してきた。
先に通してくれるらしい。
私とかずちゃんは、手を繋いでワープポイントに入る。
その瞬間、視界が真っ赤な光に覆われ、私達は同時に声を上げた。
「なっ!?」
「えっ!?」
すぐに、『これは不味い』と理解出来たものの、転移は始まっている。
ワープポイントから飛び出す事は出来ず、私達と同じように目を見開いて驚いている咲島さんの姿が、一瞬見え、何処かへ飛ばされた。
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