第46話 超速の成長
「ふっ!!」
「ギャッ――――!!」
喉に貫手をくらい、ホラアナイヌジシが大きな隙を見せる。
その隙を待っていたかずちゃんが、背後から高速の居合い切りを放ち、首を断ち切った。
ホラアナイヌジシが灰になり、その場に魔石だけが残る。
その魔石を拾うと、咲島さんが拍手をしながらこっちに歩いてきた。
「流石の成長スピードね。2ヶ月で、第30階層へ到達するだけのことはあるわ」
「ふんっ!私達を、あんまり甘く見ないことですね!」
「ちょっとかずちゃん!」
「ふふふ」
素直に私達のことを褒める咲島さん。
そんな咲島さんに、かずちゃんはまた食って掛かり、挑発的な態度を取る。
そして、それを叱る私。
咲島さんは私達の掛け合いを微笑ましそうに眺め、笑ってくれた。
「そろそろ、レベルが上がってるんじゃない?」
「言われなくても確認しますよ〜……おっ!神林さん!私、レベルが2つも上がってます!!」
「良かったわね。私も、レベル42になってたわ」
――――――――――――――――――――
名前 神林紫
レベル42
スキル
《鋼の体》
《鋼の心》
《不眠耐性Lv3》
《格闘術Lv3》
《魔闘法Lv2》
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
名前 御島一葉
レベル42
スキル
《魔導士Lv3》
《鑑定》
《抜刀術Lv4》
《一撃離脱》
《魔闘法Lv2》
――――――――――――――――――――
「へぇ?スキルレベルも上がったか……やはり、適正より遥かに深い階層で戦わせると、スキルレベルの上昇も早いようね」
「そうかな?神林さんはどう思います?」
「しばらく上がってなかったし、眉唾な話ではあるけど……まあ、今までみたいにダラダラとしてるよりは、上がりやすいんじゃない?」
2人共、全体的にスキルレベルが上がっている。
これが、難易度の高い場所で戦い続けた影響なのか、ただスキルレベルの経験値が溜まっていただけなのか…
どちらなのかは分からないけど、また一歩私達は強くなった。
その事は確かだね。
「しかし、レベル40前半か……私くらいのレベルに達するには、まだまだ遠いわね」
「いや、当たり前でしょ。自分のレベルがいくつか覚えてる?」
「130くらいね。つまり、あなた達は私の3分の1って事」
「……イヤミですか?」
「イヤミじゃないわ。煽ってるの」
「なっ!?」
またかずちゃんが咲島さんにからかわれ、真っ赤になっている。
でも、流石に学習したのか、ぷるぷる震えながらも、声を荒げたり、無礼な態度を取ったりしない。
代わりに、私の方を向いて、助けを求めるような目で見てきた。
「はぁ…咲島さん、ソレくらいにしてあげてください」
「む?流石に学習されたか…仕方ないね。別の方法でからかおうかしら?」
「もうからかわないであげてくださいよ…」
私に抱きついて、深呼吸をするかずちゃんを撫でながら、まだかずちゃんの事をからかおうとする咲島さんに、注意をする。
かずちゃんの反応が面白いのは、分かるけど、私の仕事が増えるから。
「一匹なら2人だけで倒せるようになったみたいだし、ボスに挑んでみる?」
「…手伝ってくれるんですよね?」
「もちろん。心配しなくても大丈夫よ、一葉ちゃん。よしよし〜」
「頭撫でるなっ!」
ボスに挑むと聞いて、すぐに食い付くかずちゃん。
咲島さんに頭を撫でられ、また顔を真っ赤にする。
無理やり頭を撫でる手を振り払い、私の腕の中に逃げてきたかずちゃんは、物欲しそうな目で上目遣いをしてくる。
すぐに意図を理解した私は、かずちゃんの頭を優しくかき回し、お願いに応えてあげた。
「えへへ〜」
私に頭を撫でられて、うれしそうに頬を緩めるかずちゃん。
その様子は、飼い主に甘える猫のようだ。
抱きついて、『もっともっと』と、せがんでくるかずちゃんを私からも抱きしめ、微笑みかける。
「あ〜…アツアツなのは良いことだけど、時と場合は弁えなさい?」
「そうですね。行こうか?かずちゃん」
「は〜い」
私に沢山甘え、機嫌が良かったかずちゃんは、特に何も言わず、私と手を繋いで歩く。
モンスターに出会う事なく10分ほど歩くと、何やら不自然に開けた空間が現れた。
「……ここは?」
なんとも言えない嫌な気配を感じ、臨戦態勢を取る。
かずちゃんも同じなのか、私から離れて刀を抜き、警戒の姿勢を見せた。
「ボス部屋よ。あそこに、見るからに怪しい水晶があるでしょう?アレを壊してごらんなさい」
「え?嫌です」
すぐに拒否するかずちゃん。
申し訳ないけど、今は私もかずちゃんと同じ気持ちなので、諭すことは出来ない。
「神林さんは……ダメそうね。仕方ない。私が壊してくるわ」
そう言って、咲島さんは見るからに怪しい水晶に近付くと、ゴミを蹴り飛ばすように、水晶を蹴って粉砕した。
粉々になった水晶がキラキラと輝きながら、舞い散っていく。
ソレを、口を開いて呆然としながら眺めていると――――
『オオオォォォォォオオオオ!!!』
周囲を揺らし、体内まで振動が伝わってくるような、低く大きな絶叫が聞こえてきた。
「な、なんですかこれ!?」
「かずちゃん!私のそばから離れないでね!!」
なにかが、ここへ来ようとしている事は確かだ。
だけど、気配を全く感じない。
なにかあった時、すぐにかずちゃんを守れるようにしながら、周囲の気配を探っていると、地面の揺れが大きくなっている事に気が付いた。
「まさか…し―――――ッ!?」
「きゃあああああああっ!!!」
『下か?』
そう言おうとした瞬間、地面が崩れ、私達は崩壊した地面と共に落ちていく。
かずちゃんが悲鳴を上げ、なんとかして私を掴もうと腕を伸ばす。
私もかずちゃんに腕を伸ばし、その手を握る。
お互い体を引き寄せ合うと、私はかずちゃんの体を上にして、背中に《鋼の体》の鎧を張る。
そうやって、落下の衝撃に耐えようとしていると、咲島さんが飛んできた。
「全く…着地の姿勢を取れば良いものを」
そう言って、私達を掴むと、その直後に凄まじい衝撃を感じた。
横を見ると、岩がゴロゴロ転がっている地面が見え、穴の底に辿り着いた事を察した。
「ダンジョンには、落とし穴トラップもあるの。それに引っかかった時、着地できるようにしておきなさいよ?」
「そんな練習何処ですれば…」
「適当に飛び降りて練習しなさい。それより……第50階層のボスの登場よ」
私達をおろした咲島さんは、剣を抜いてある方向を指す。
咲島さんが指し示す方向を見ると、そこには巨大な……トカゲとワニを足したような、大きなモンスターが居た。
「ド、ドラゴンじゃないですか…!」
「えっ!?ドラゴン!?」
そのモンスターを見たかずちゃんは、ソレを『ドラゴン』と呼んだ。
そして、すぐに鑑定をしたのか、そのステータスを共有する。
――――――――――――――――――――
種族 地竜(劣化種)
レベル80
スキル
《竜鱗》
《竜力》
《鋭爪Lv5》
《咆哮Lv8》
《土魔法Lv4》
――――――――――――――――――――
「ば、化け物……」
「ヤバイ…ヤバイですよ神林さん!」
「見りゃ分かるよ!あんなの私らの手に負えるのじゃ無い!!」
身を寄せ合って震える私達。
その横で、咲島さんが何処か感心したような顔をしていた。
「まさか、ここで地竜を引くとはね……運が良いのか悪いのか」
そんな事を言いながら、手に持っていた剣をアイテムボックスの中へ仕舞う。
そして、私達の方を向いて笑いかけてきた。
「どうする?戦ってみる?」
そんな、とんでもない事を聞いてくるものだから、私もかずちゃんも一瞬頭が真っ白になった。
そして―――
「「絶対無理ッ!!!」」
口を揃えて、断固拒否した。
「本当に、仲がいいわね。まあ良いわ。ここは私がやる」
咲島さんは、アイテムボックスに手を突っ込むと、中から凍りついた剣を取り出した。
私も、それが何か気付けないほど馬鹿じゃない。
「《ゼロノツルギ》……」
私が口に出す前に、かずちゃんがそう声を漏らした。
咲島さんが、《ジェネシス》より与えられた最強の武器…《ゼロノツルギ》。
その見た目は、とても実戦向きの剣とは思えない装飾がされ、常に冷気が放たれているのか、薄い氷が張り、空気中の水分が凍った事で出来る、白い煙に包まれている。
「これが本物の……」
「ふふっ、いい反応ね?一葉ちゃん」
一般人なら、ただ綺麗で、冷たそうな剣にしか見えないだろう。
だけど、私達冒険者には、別のものが見える。
「凄いオーラ……これが、最上位アーティファクトの力」
「そうよ。凄いでしょ?」
見ているだけで目眩がする程の、濃密で強大なオーラ。
初めて咲島さんと出会ったときの、冷水に飛び込んだかのような、強烈な気配とは比較にならないほどの、圧倒的な力を感じる気配。
もし、オーラで強さを数値化するのなら、この剣は咲島さんの何倍も強い。
人が持つことのできないほどの力を、たかが剣が持っている。
「《ジェネシス》の贈り物は、伊達じゃないって事か…」
そう呟き、神々しい気配を放つ剣に見とれていると、それまで放置されていた地竜が吠えた。
「グガァァァァアアアアアアア!!!」
その咆哮を聞いた私とかずちゃんは、スタン効果によって身動きが取れなくなるが…咲島さんは、涼しそうにしていた。
「ちょうどいいわね。そこで良く見ておきなさい。最強の冒険者の―――“戦い”というものを」
そう言って、咲島さんは地竜に向かって歩き始めた。
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