第39話 仙台へ
翌日、かずちゃんに言われるがままに準備を終えた私は、東京駅のリニア乗り場にやって来ていた。
「……凄いね。本当に、乗車券やホテルの準備もしてくれたんだ?」
「当たり前です!昨日は帰ってから、ずっと探してたんですよ?それは、神林さんも見てましたよね?」
「まあね」
昨日は、ダンジョン探索を諦めて早くに帰ってきた。
そして、私はかずちゃんの指示の元、荷物の準備をさせられる事に。
その横で、かずちゃんは必死にスマホをいじって、ホテルを探してくれたり、リニアの席取りをしてくれていた。
今や、新幹線と同じく日本全国に張り巡らされている、リニアモーターカー。
乗車券はくっそ高いけど、新幹線の倍の速度で走る為、遠出する際は良く使われている。
私も、中学生の頃に、家族旅行で九州に行くために乗ったけど…まあ、めちゃくちゃ速い。
お金が掛かるのが難点だけど…まあ、今の私達なら気にならないくらいの値段だ。
とはいえ―――
「本当に良かったの?私の分まで、出してもらっちゃって」
2人分のリニア代とホテル代を、かずちゃんが支払ってくれたらしい。
私としては、仮にも大人として、9歳も歳下の女の子に、そんな高いお金を支払わせるのはアレなんだけど…どうしても、自分で払いたいらしい。
「大丈夫ですよ。仙台で、その何倍も稼ぐので」
「……いつでも請求してくれたら良いからね?」
「お金に困ったら請求しますよ」
う〜ん…そんな日は、来ないと思うけどね?
例え大怪我を負って、冒険者を続けられなくなっても、かずちゃんには回復魔法がある。
それを使えば、病院で高い給料を貰って働くことが出来るから、まあ、お金に困ることはそうそう無いと思う。
……となると、かずちゃんがナース服を着るかも知れないのか。…いいね、それ。
「……何を、ニヤニヤしてるんですか?」
「別に?なんでもないよ」
かずちゃんから疑いの目を向けられてるけど…まあ、気にしないでおこう。
不機嫌になっても、いつかは機嫌を直してくれるしね?
そんな呑気なことを考えて、かずちゃんの疑いの目を気付かないフリをして、無視していると、リニアがやってきた。
「座席はどこだっけ?」
「Aの12とBの12ですよ。ささっ、早く乗ってください」
かずちゃんに背中を押され、リニアに乗り込む。
高級感のある座席が、ズラーッと並んていて、見るからに高そうな雰囲気を放っている。
私は、かずちゃんを窓側の席に座らせると、すぐに自分も通路側の席に座った。
多分、かずちゃんはリニアは初めてだろうし、外の景色を見せてあげようと思う。
ソワソワと落ち着かない、初々しい姿を見せるかずちゃんを横から見守り、目が合う度にお互い微笑む。
そんな事をしているうちに、出発の時間になり、リニアが動き出した。
私は2回目だから、外の景色に興味なんて無いので、窓の外を、目を輝かせて見るかずちゃんを見つめて、仙台へ着くまでの45分を過ごした。
◇◇◇
「仙台駅。中々綺麗だったね?」
「そうですね。駅も結構大きいですし、ダンジョンがある都市の駅は違いますね」
駅から出てきた私は、かずちゃんにそんな事を聞いてみた。
人生初の仙台。
初めて仙台駅を見た感想は、『すごく綺麗』だった。
つい最近改修工事でもしたのか、どこもかしこも綺麗で、ピカピカな駅。
それなりに規模も大きく、かずちゃんの言う通り、ダンジョンのある都市の駅は違う、という感じだった。
「……にしても、あんなの初めて見たわ。女性専用エレベーター」
私が仙台駅を見た中で、一番驚いたのは『女性専用エレベーター』というものだ。
東京でも、そんなエレベーターは見たこと無い。
最新の駅には、そんな物があるのかと感心していると、何やらかずちゃんがニヤニヤしている。
「どうしたの?そんなに面白かった?」
「ふふっ、どうでしょうね?ところで神林さん。なにか、東京とは違うことに気が付きませんか?」
「はあ?」
東京とは違う?
そりゃあ、都心と東北は違うでしょ?
確かに、かなり発展しているように見えるけど…東京のほうが都会に見える。
…いや、当然なんだけどね?
そして、かずちゃんの言いたいことは、そういう事じゃないと思う。
私は、かずちゃんの言っていることの意味が分からず、街を見渡してなにか違うところを探す。
しかし、あまり差異は見られず、それらしいなにかも見当たらない。
「う〜ん……観光しながら考えても良い?」
「良いですよ。では、適当にブラブラしましょうか」
駅前だけじゃなく、街全体を見て回ったら、なにか分かるかもしれない。
そんな訳あって、私はかずちゃんを連れて、特に目的地もなく仙台の街をぶらつく。
「東京との違い……化粧品店が、若干多い?」
「まあ、確かに多いですね。この場所から見えるだけで、十件近くありますし」
「ホントだよ。ちょっと多すぎない?」
仙台の人は化粧が大好きだね?
男の人も、化粧が当たり前だったりするのかな?
それくらいの量の店があるよ…
「他に、なにか気になることはありませんか?」
「服を売ってる店も多いね。良くあるチェーン店やブランド物の店。聞いたこと無いような店も沢山あった」
「良い着眼点ですね!答えに近づいてますよ!」
これが?
ちょっと衣類販売店が多いだけで、正解に近付く……なんだろう?
ファッションの街とかかな?
「もしかして、ファッションの街?」
「う〜ん…まあ、そういう側面もありますね」
「違うのか……じゃあなんだろう?」
改めて街を見渡して、なにかヒントになるものがないか探す。
すると、近くにあったファミレスの張り紙に、変わった言葉が書かれているのを見つけた。
「『女性給』?…なんか、一般より50円時給が高い」
「ホントですね。ここでバイトしてる女性は、多そうですね」
窓に貼り付けられていた、アルバイト募集の張り紙に、『女性給』という文字があった。
一般給と比べて、時給が50円高く設定されている。
女性の雇用を増やすためや、男女の格差を少しでも無くすための方針かな?
前々から、男女の給料格差は騒がれてた問題だし、それに対応するために、こういうことをしてるのかも。
「他の店は……うん?ここも女性給がある」
「こっちは一般より100円高いですよ?まあ、隣と時給は同じですけど」
一般給が、隣より50円低い…
でも、女性給は変わらないと…
男性からの、批判の声が大きくなりそうだね。
「見てください、神林さん!こっちも女性給がありますよ?」
「ホントだ。ここは、一般給より30円高いだけか…見劣りするね?」
「そっちの2つは、一般給との差が大きいですから」
かずちゃんが見つけた張り紙には、確かに女性給が書いてあって、時給が一般より30円高かった。
たかが30円かも知れないけど、ちゃんと女性給がある事に変わりはない。
しかも、女性給は都心のバイトの給料と、そんなに変わらないのがまた…
「やっぱり、儲かってるんだね。仙台」
「そうですけど…どうしたんですか?急に」
「ほら、この女性給。都心のバイトの給料とそんなに変わらなくない?」
「確かに……やっぱり、ダンジョンがもたらす利益は、すごいですね」
都心とほぼ同じ給料が支払われるって事は、都心並みに経済が発展してるって事で…
東北の都市でそんな事が出来るあたり、本当にダンジョンの利益とは凄まじい。
「それで、私の言いたいことは分かりましたか?神林さん」
「いや?まだなんのことだが……まあ、でも何となく予想は出来てる」
「お?それは良いですね。この調子で、どんどんヒントを集めましょう!」
かずちゃんは、私の手を引いて進む。
もちろん目的地なんて無いし、ただ街をブラブラするだけだ。
私は、かずちゃんに引っ張られながら、今思っている事が確信に変わるような、決定的な証拠を探す。
色々な看板を見たり、電柱に貼られているポスターにも注意を配っていると、急にかずちゃんが立ち止まる。
「ちょっと、小腹が空いてませんか?」
「え?まあ…そうだね」
「それは良かったです!じゃあ、この店に入りませんか?」
そう言って、かずちゃんが指差したの喫茶店。
何処にでもありそうな、普通の喫茶店に見えるが―――明らかに違うところが1つ。
「『女性専用喫茶 ゆい』…?」
「そうです!女性専用のお店なんです!」
「そんなのあるのね…」
看板には、目立つ色で『女性専用』と書かれていて、異彩を放っている。
更に、狙っているのか知らないけど、百合の花のイラストが描かれていて、なんだかそっち系のニオイがする。
「……健全なお店よね?」
「大丈夫ですよ。“ごく普通”の女性専用喫茶店です!」
「“ごく普通”、ねぇ?」
今の御時世、こんなことを言うのはアレだけど、女性専用の喫茶店は普通じゃないのよ。
少なくとも、京都や東京では見たこと無い。
女性専用エレベーターに、女性専用の給料、今度は女性専用の喫茶店か……
そこまでして、『平等』とやらを実現したいのかな?
もしくは、まったく別の目的か…
「神林さん?行きますよ」
「そうね。行きましょう」
またもやかずちゃんに引っ張られ、私達は喫茶店へ入る。
中は、至って普通の喫茶店。
店員さん含め、女性しかいない事を除けば、別になんてこと無いただの喫茶店だ。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
店員さんにそう言われ、私達は奥の席へ座る。
アイスコーヒーとチーズケーキを注文し、店員さんが戻っていったのを確認したかずちゃんは、ニコニコしながら軽く身を乗り出す。
「どうします?答え合わせしますか?」
「…かずちゃんが、我慢できないなら?」
「むぅ…その言い方はずるいです」
もう少しだけ考える時間が欲しかったけど…まあ、仕方ないか。
大方予想はついてるし、何となく分かる。
「……多分だけど、『女尊男卑の街』とかじゃない?」
「……それはどうして?」
「あまりにも、女性が優遇されてるから、かな?後は、街で見かけた人の殆どが女性だったし」
触れていなかったけど、街で男性を殆ど見かけなかった。
8割どころか、9割は女性で、本当に女性しかいない。
そして、数少ない男性は女性を避けている様子で、何やら警戒心が異常に強かった。
「それに、ここはそういう喫茶店だとしても、間違いじゃなければ他にも女性専用の店はあった。エレベーターならまだ分かる。でも、そういう目的がないのに、女性専用の店を作るのは、ちょっと不思議だと思う」
「ふむふむ…他には?」
「他は……観光案内のポスターに、『女性の街』って書かれてたり、主に女性に需要のある物が沢山売られてたり…そもそも、観光客と思う人達ですら女性しかいない。男性を寄せ付けない、異様な雰囲気を感じた事とかかな?」
日本人の観光客はもちろん、外国人の観光客も女性しかいない。
あまりにも男性が少なすぎる上に、女性を優遇しすぎている。
ここまで来ると、いくら『男女平等』を謳っても無理だ。
「というのが、私の予想なんだけど…正解は?」
「ふふふ。流石は神林さんです。正解ですよ」
やっぱりね…
流石に、バカな私でも、あれだけ女性が優遇されているのを見れば、何となく分かるよ。
にしても、どうしてこんな事になってるんだか。
「仙台は、およそ20年程前から女性が優遇されているようになり、男性は虐げられる立場になっていきました。そして今では、『女尊男卑の街』と呼ばれる程には、女性優位の街になりました」
「何があったのよ…その20年」
20年で仙台が変わった。
決して短い時間ではないけれど、国が動いた訳でもないのに、これだけの時間でここまで変わるのは異常だ。
「そうですね〜……まあ、この変革は、あの方だからできた事ですね。神林さんも、名前は聞いたことがある人が、起こしたことなんですよ?」
「個人の力で成されたことなの?」
「そうですよ?まあ、今に至るまでに多くの人の協力がありましたが……個人の力で成されたことです」
個人で、街全体を変えてしまう程の影響力を持つ人。
そして、私が名前くらいは知ってるとなると……誰だ?
「……咲島恭子さん。覚えてますか?」
「う〜ん……あっ!思い出した!」
確か、なんか凄い剣を持ってる人だ!
「何だっけ?なんか凄い剣を持ってたよね?」
「《ゼロノツルギ》ですね。その、咲島さんが主に活動し、拠点を置いているのが仙台なんです。そして、仙台を変えたのも咲島さんです」
なるほど…最強格の冒険者という、凄まじい影響力を持つ人物だから成し得たこと。
しかし、どうしてそんな事を?
「咲島さんは、どうしてそんな事を?」
「それには、咲島さんの子供時代から若手時代に理由があるんですが―――――ケーキが来たので、食べながら話しましょうか」
「そうね。ここに置いてもらえる?」
運ばれてきたチーズケーキと、アイスコーヒーを自分の前に置き、一口食べてその味を堪能してから、また話すことになった。
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