第30話 面倒なの
「はあっ!!」
私は、《鋼の体》を纏った状態でホネノキシを殴り、その体を破壊する。
骨だけあって、硬いけれど壊せないほどではない。
「燃えろ!」
後ろでかずちゃんが魔法を使い、私の方へ近付いてきていた、クサリウマを燃やす。
アンデッド系モンスターには、火魔法が有効らしい。
だから、かずちゃんはよく火魔法を使ってる。
「せいっ!!」
「カカッ!?」
交通事故のような私の蹴りが、ホネノキシの体を粉々にし、頭だけにしてしまう。
その頭も、踏み潰して破壊することで倒し、煙と魔石に変える。
「イィィ……」
「ん?そっちも終わった?」
振り上げると、ちょうどクサリウマが煙になるところで、戦闘は終わっていた。
魔石をアイテムボックスに入れ、私の後ろにいたかずちゃんと合流する。
「楽に倒せるようになりましたね。次の階層にでも行きますか?」
「そうだね。…まあ、まずはかずちゃんの武器を、調整してからかな?」
「また出費が増える…」
今日の狩りで、またかずちゃんの刀は刃こぼれした。
本来、かずちゃん程の技量があれば、刃こぼれは早々起こらない。
それなのに、こんな事になるのは、3つの理由がある。
1つは、かずちゃんが《魔闘法》を習得していないから。
《魔闘法》が使えないと、武器の消耗が激しいらしい。
少しでも武器を長持ちさせるためにも、《魔闘法》は必須のスキルだから、かずちゃんは今必死に習得しようとしている。
2つ目は、モンスターが硬すぎること。
ステータスの恩恵によって、この階層のレベルになってくると、車で突っ込まれても死なないようなモンスターが、沢山いる。
そんな奴らと、刀で戦うわけだから、そりゃあ消耗もする。
だから、武器を消耗するのは当たり前のことなのだ。
最後に3つ目は、経済的な理由。
「早く、高品質な刀が買いたいです…」
「一本100万とかするんでしょ?まだまだ先の話だよ」
そもそも、かずちゃんが使っている刀は、ダンジョンの浅い階層で手に入るような、粗悪品。
量産型の刀と言っても差し支えないような、大したことがないものだ。
名工が造った業物は高いし、ダンジョン産の高品質な刀は、それはもう目玉が飛び出るような値段で売られる。
そのせいで、かずちゃんは粗悪品を使うしかなく、すぐに刀が駄目になるのだ。
「ねぇ…神林さん」
「流石に100万の買い物は無理だよ…」
上目遣いで甘えてくるが、流石に桁が大き過ぎる。
しかも、それだけの大金を払っても、その刀もあまり長持ちはしない。
だから、武器宝箱から良い刀が出ることを、祈るしか無い。
「そろそろ、宝箱が見つかってほしいものだけ、ど………マジ?」
「武器宝箱ですよ!宝箱!!」
かずちゃんの、ウルウルと涙ぐんだ目から、視線をそらすと、そこにはとんでもなく都合よく、武器宝箱があった。
…これ、もはや私のために神様が用意してくれたんじゃないの?
さっき、こんな所に宝箱無かったし…
「……神様って、いるのかな?」
「どうしたんですか?急に」
「いや……この宝箱、さっきまで無かったはずだったんだけど…」
「確かに……」
宝箱を見つけて興奮していたかずちゃんだけど、私に言われて、さっきまで宝箱は無かった事を思い出し、首を傾げる。
……しかし、何処か納得したように、さっきまでのワクワクした表情に戻った。
「きっと、日頃の行いが良いからですよ!さあ、何が入ってるのかなぁ?」
かずちゃんは、下心丸出しの顔で宝箱のところへ行き、蓋に手を掛ける。
そして、私の方を振り返って、視線で私を呼んだ。
軽く溜息をついて、宝箱の前までやって来ると、かずちゃんは勢いよく宝箱を開けた。
「お〜!……お?」
「残念、刀では無かったわね」
宝箱に入っていたモノは、変わった形をした片刃の剣。
青っぽい刀身を持つその剣は、何処か中華な雰囲気がある。
「なんだ、青竜刀か…」
「青竜刀?なにそれ?」
「中国の武器ですよ。これみたいな、ナタのような見た目のものや、薙刀のようなものもあります。残念がら、《抜刀術》は日本刀にしか反応しないので、私には使えません」
ふ〜ん?
じゃあ、これは売るかな?
「ゲートウェイで売る?どうせ使わないだろうし」
「そうですね。鑑定だけして、特殊な効果がないか調べてから、売りに出しましょう」
そう言って、かずちゃんは青竜刀に《鑑定》を使った。
すると、何故か固まってしまい、目をパチクリさせている。
「……良いものだった?」
「いえ……まあ、良いものですけど、その……見て下さい」
鑑定結果が共有され、私もその内容を見る。
―――――――――――――――――――――――――――
武器レベル2
種類 青竜刀
状態 呪い 《吸精の呪い》
付与スキル
《吸血》
《邪触》
―――――――――――――――――――――――――――
「呪われてるじゃん」
「そうなんです。これ、使うと持ち主の精気が、吸われる呪いなんですよ」
「……売れるの?」
「売れませんよ、呪われた武器なんて」
見た目は青っぽくて清廉なのに、その
呪われてるせいで、売れないそうだ。
「どうする?捨てる?」
「…一応、残しときます。なにかあった時、投擲武器として使うかも知れないので」
呪われてるから売れない。
しかし、捨てるのは勿体ない。
だから、一応残しておいて、投擲武器として使う。
「じゃあ、今日は帰りましょう。刀を修理に出したいので」
「その為に、今日の取り分は消し飛びそうだね」
「うぅ…言わないでくださいよ、そういう事」
初心者の宿命だね。
武器の維持費で、苦しい生活を強いられるのは。
かずちゃんも、早くいい武器を見つけられると良いんだけど。
出口の空間の歪みへ飛び込み、ゲートウェイに戻ってくると、魔石を換金し、刃こぼれした刀を修理に出して家に帰る。
そう、なるはずだった。
◇◇◇
「ん?なにアイツ等…?」
「……チッ、面倒なのに出会いましたね」
駐車場にやって来ると、何やら複数の人達が揉めている様子。
それを見たかずちゃんは、舌打ちをするほど嫌悪感を顕にし、足を止めた。
「モンスターも生きてるのです!無用な殺生はしてはいけません!」
「だ〜か〜ら〜!こっちは生活のためにやってんだよ!お前等にあーだこーだ言われて、『はいそうですか』でやめられないって、何回言ったわかるんだ!!」
……モンスターを殺すなぁ?
そんな、冒険者に対する宣戦布告とも言えるような事を、よくも言えたものだね?
「何なのあいつら…」
「反冒険者協会。略して反冒の連中ですね。いわば、動物愛護団体の一種です」
「はぁ?」
動物愛護団体かぁ…
まあ、彼等の言い分はわからなくはない。
人間の都合で生み出され、人間の都合で太らされ、人間の都合で殺される。
そう聞くと、家畜は途端に可哀想に見えてくる。
だから、まあ彼等の言い分はわからなくもない。
ただ、モンスターは別だ。
「モンスターって、放っておいたら地上に出てきて、災害を引き起こすんだよね?」
「はい。地上に出たモンスターなんて、百害あって一利なし。ただただ被害が出るだけです」
冒険者のお陰で、ある程度モンスターの地上への進出が抑えられてるのに、それをダメだとか…いや、その為の間引きは良いけど、それ以外の金稼ぎのための狩りは、ダメって言いたいのかな?
「あっ!貴方がたも冒険者ですよね?もう、モンスターを殺すのはやめて下さい!」
「……なんで?」
冒険者と揉めていた反冒の一人が、こっちに気付いてそんな事を言ってくる。
理解は出来るけど、全く共感できないお願いに、思わず聞き返してしまった。
「モンスターだって生きてるのです!それを人間の都合で殺すなんて…可哀想だと思わないんですか?」
「全然?」
「不憫に、思わないんですか?」
「全然?」
「守ってあげたいとか…」
「どうしてそんな事しなきゃだめなの?」
「………」
いや、答えられないのかよ。
そこは、『余計な殺生から、モンスターを守るためです』とか言えや。
色々理由はあるでしょうが。
頭使え頭。
「……モンスターは、生き物と呼んで良いのか、些か怪しいですけどね」
それまで、嫌悪感丸出しで黙っていたかずちゃんが、急に口を開いてそんな事を言い出した。
モンスターを生き物と呼んでいいかは怪しい?
あんなに、自立して動いて、襲ってくるのに?
「モンスターは、《ジェネシス》が生み出した肉の玩具。生物とは呼べないのでは?」
「違います!モンスターは、自分たちで動いて餌を食べ、排泄をし、眠ります!立派な生物です!!」
「…じゃあ、アンデッドは?」
「っ!!そ、それは………」
…確かに。
その理論でいくなら、アンデッドはどうなるんだろう?
アレは動く屍で、食事もしないし排泄もしないし眠りもしない。
心拍もないし、呼吸してる訳でもない。
『アンデッド』って言うくらいだし、とても生物とは思えない。
そこのところ、反冒的にはどうなんだろう?
「どうなの?アンデッドは生き物?」
「それは……今、頻繁に議論されているもので、私の口からはなんとも…」
痛い所を突かれたのか、言い淀む反冒。
これには、他の奴も口ごもり、一気に勢いを失った。
「今の日本は、モンスターが持つ魔石によって支えられている。あなた達の生活も、モンスターによってもたらされたものだと言うのに…今の快適さを捨ててまで、守りたいの?」
「もちろんだ!無益な殺生は何があっても許されない!!」
「無益?有益だから、毎日のように沢山の冒険者がダンジョンに行くんじゃないの?そして、その利益は巡り巡ってあなた達の所へもやって来る」
日本が世界一の大国になれたのは、ダンジョンのお陰だ。
モンスターは、日本の経済を支えるのに欠かせない存在であり、世界の経済にすら大きな影響力を持っている。
反冒の言っていることは、国の損どころか世界の損。
何なら、国の経済を破綻させかねないから、普通に反逆行為じゃない?
「そもそも、モンスターは《ジェネシス》によって、いくらでも生み出され、尽きることがない。この世界の常識に囚われない存在であり、倒されることを前提に設計されている」
「そうなの?」
「そうですよ。じゃなきゃ、どうしてダンジョンなんて、狭い世界に閉じ込められているんですか?」
「お宝の守護のためとか?」
「ダンジョンのお宝は、私達覚醒者を引き寄せるための甘い蜜。お宝に釣られ、欲を掻いた愚か者を嵌める為の罠です」
まあ、そうだね。
それは、私達だってわかってる。
ワーウルフの件で、嫌と言うほどね?
「ふ〜ん…そうなんだ。…ところでさ?さっきから何度も言ってる、《ジェネシス》って何なの?」
「「「え?」」」
「「「ん?」」」
「……あれ?知らないのは不味かった?」
私の質問に対し、かずちゃんも、冒険者も、反冒も、皆首を傾げて、『何いってんだコイツ』という目を向けてくる。
「神林さん…そんな事も知らないんですか?」
「《ジェネシス》って、学校で教わる話だと思うんだけど…」
「それすら知らないで冒険者をするって……あんた、大丈夫か?」
揃いも揃って私の世間知らずさをバカにしてくる。
…しょうがないじゃん。
元々、ダンジョンには興味なかったんだから。
「と、とりあえず、その話は帰りながらしましょう。これ以上話すと、ボロが出そうなので。さあ、車に乗って下さい」
「え?うん…」
かずちゃんに押されるように車に乗せられ、エンジンをつける。
冒険者も反冒も、なんとも言えない空気になって困っているけれど、見なかったことにして出口へ向かった。
……あれ?これ、私恥かいた!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます