第31話 《ジェネシス》

駐車場を出ると、私は隣りに座っているかずちゃんに話しかける。


「で?《ジェネシス》って何なの?」

「ダンジョンを創った存在」

「ふ〜ん……ん?」


ダンジョンを…創った?


へ?


あ、あのダンジョンを…?


「それって、つまり神様ってこと?」

「どうでしょうね?《ジェネシス》は、ダンジョンの創造主にして、全てのモンスターの生みの親であり、私達にステータスを与えた張本人。まさに神のような存在であり、もしかするとこの世界を創ったのも《ジェネシス》かも知れない。そんな存在です」 


…つまり、《ジェネシス》は文字通り『創造主』ってわけね?


なるほど……それなら、常識扱いされててもおかしくないか。


実在したらね?


「でも、それって実在するの?人類の勝手な妄想とかじゃなくて?」

「《ジェネシス》は実在しますよ。ギルドが保有する最上級アーティファクトに、《キラメクサカズキ》というものがあります。これは、《ジェネシス》が直接ある冒険者に与えたもので、最上級ポーションと同等の回復力を持つ液体を、無限に生成できます」

「ん…?最上級ポーションを…無限生成…?」


な、なにそれ?


そんなとんでもアーティファクトと、本当にあるの?


「他にも、《朱雀財団》が所有する最上級アーティファクト、《タイヨウノイシ》。《自警団》の《アルクワクセイ》。女性最強冒険者の、『咲島恭子さきしましきょうこ』さんの持つ、《ゼロノツルギ》など、様々なものがありいます」

「……強いの?」 


他にも、沢山のアーティファクトが、あるのは分かった。


でも、肝心なのは強いかどうかだ。


「《タイヨウノイシ》は、使用すると小型太陽を出現させ、その熱で相手を焼き尽くします。《アルクワクセイ》は、ネックレスのような見た目をしていて、着用者に星の力を与えます。《ゼロノツルギ》は、湖を全て凍らせたという逸話を持つ剣で、発見されている武器としては、最強です」

「あー、うん…」


太陽を作り出すアーティファクトに?


星の力を与えるネックレス。


おまけに、最強の武器まで…


間違いない、《ジェネシス》は実在する。


「いつ発見されたの?」

「初めて遭遇したのは、30年前だと言われています。その時は、傷付いた冒険者達を癒やし、《蝶の神》と名乗って、《キラメクサカズキ》を冒険者に与えました」

「《蝶の神》?」

「《ジェネシス》は、ギルドが名付けたモノ。本人は《蝶の神》と名乗っていますが、世間的には《ジェネシス》の方が広まっています」


なるほど…


本人は、自分のことを《蝶の神》と呼んでいるけれど、私達は《ジェネシス》の方が呼び慣れてると…


「次に現れたのは25年前。当時まだルーキーだった咲島さんに、《ゼロノツルギ》を与え、咲島さんの質問のいくつかに答えています。ことの時になって、ダンジョンを創ったのが《ジェネシス》だという事が明らかになりました」

「ふ〜ん………ん?25年前?」


え?待って?


咲島さんって言ったよね?


咲島さんが、25年前に《ゼロノツルギ》を受け取ったの?


「え?何かと順番間違えてない?」

「間違ってませんよ?咲島さんは、今年で50歳になる、超ベテラン冒険者です」

「えぇ…?」


50歳って……え?


そんなおばさんが、女性最強冒険者?


そんな人、テレビでも見たこと無いんだけど?


「何か勘違いしてるかもしれませんけど、咲島さんはこんな人ですよ?」

「……えっ!?」


どんなおばさん何だと、かずちゃんが見せてくれた写真を見ると……そこには、私とそんなに変わらないくらいの女性が写っている。


「最上級ポーションの1つ、《フェニクス》を使用した事で、老いない体を手に入れ、更には覚醒者の力で少し若返っています。なので、見た目は普通に神林さんと変わりませんよ」

「なるほどね…《フェニクス》を使ったのか。……ん?その、覚醒者の力で若返ったってのはなに?」


若返りの力。


そんなものがあるなら、覚醒者は引っ張りだこなんてレベルじゃない。


若返りたい人が、いくらでもすり寄ってきて、金を積むだろう。


…私も、もう少し若返りたいし。


「魔力操作の応用です。魔力を上手く扱えれば、いくらか若返る事が出来るそうですよ?」

「どうやって?」

「魔力操作で新陳代謝を操り、若々しい肉体の構成を維持するそうです。そして、強くなればなるだけ生命力が増え、その後は魔力操作で若さを維持せずとも、勝手に生命力が若さを維持してくれるとか…?」

「……なにそれ?」


ちょっと、なに言ってるかわかんない。


えーっと?魔力操作で、新陳代謝を操る?


そんな技術、どうやって手に入れるのか?


ていうか、そのレベルで魔力を操れたら、怖いものなしじゃない?


「咲島さんって何者なの?」

「女性最強冒険者で、総合ランキング3位化け物です」

「総合ランキング?」

「アーティファクトや魔導具等を含めた、冒険者同士で戦いで、3位って事です。……ちなみに、対戦相手を殺さないようにという配慮で、最強の武器である《ゼロノツルギ》を使っていません」

「……うん?」


えーっと?ちょっと待って?


それってつまり、相手はガンガンクソ強いアーティファクトを使ってる中で、アーティファクトに頼らない自分の強さだけで3位ってこと?


「それ、実質日本最強じゃない?」

「そうですよ?しかも、他の一桁台冒険者は、みんな神林さんの《鋼の体》レベルのえっぐいスキルを持ってるのに、咲島さんは持ってないんですよね。そういうスキル」

「……スキルの恩恵もなく、アーティファクトにも頼らず、己の技と魔力だけで戦って、3位?」

「はい」


あの、《ジェネシス》とかどうでも良くて、そっちのほうが遥かに気になるんだけど?


なに?その化け物。


その人、本当に人間ですか?


「噂では、《魔闘法》のスキルがカンストしてるらしいですよ?」

「そうなの?」

「あくまで、“噂”ですけどね?……私は、絶対に噂じゃないと思ってますけど」


それでカンスト出来ないなら、もう誰も無理なのでは?


この道25年の最強大ベテランがそれなら、多分無理だと思われます…


《ジェネシス》さ〜ん?スキルの調整お願いしま〜す。


「とまぁ……話を戻しまして。13年前に《アルクワクセイ》が与えられ、11年前に《タイヨウノイシ》が与えられました。その度に、《ジェネシス》は人類の質問に答えています」

「あっ、そういえばそんな話だったね」


咲島さんに全部持っていかれてたよ。


そういえば、最上級アーティファクトと、《ジェネシス》の話だったね?


「かずちゃんは、《ジェネシス》の答えた質問について、知ってるの?」

「いくらか知ってますよ?まず、ダンジョン及びステータスを創ったのは《ジェネシス》です。そして、ダンジョン内に出現する全てのものは、《ジェネシス》が創っています」

「ほ〜ん?」


凄いね、まさに創造主。


「何故日本にのみ出現したのかは、特に理由は無いそうです」

「あっ、そうなの?」

「そもそも、日本を選んだ事に大した理由はなく、なんとなく日本を選んだそうです」

「なんとなくで、世界のパワーバランスは変わったわけね…」


そんな適当な理由で世界を傾ける辺り、やっぱり《ジェネシス》ってマジの神なのかなぁ?


「死者を蘇らせることができるのか?という問いに対しては、『容易いこと』と、答えています。しかし、死者蘇生が可能なアーティファクトの存在に関しては、『探せ』の一言です。何処かにあるんでしょうけど、見つからない事には、あるのかどうか分かりません」

「いや、あるでしょ?死者蘇生出来るんだから」

「『出来る』とは言ってますけど、アーティファクトでも、同じ事が『出来る』とは、一言も言ってませんよ?」

「屁理屈じゃん…」


そんな屁理屈言われても、困るんだけど?


しかも、『言ってやったぜ!』って、誇らしげな顔してるし…


別にカッコよくないよ?そういうの。


……まあ、指摘したら、かずちゃんが不機嫌になるし、私もそっち側になるから言わないけど。


「あとは……そうですね。覚醒者の基準について、ですね」

「あ、そんなのあるの?」

「あるそうですよ?《ジェネシス》が言うには、『血統か、ある程度の才能があるか』だそうです」

「世の中、血と才能なんだね……」

「残念ですが、それが現実です……」


結局は、人生ガチャの当りを引けるかどうかって事だね。


才能がない人は、覚醒者にはなれないと。


「努力で覚醒者にはなれないの?」

「《ジェネシス》に、認められる程の努力をすれば、直々にステータスが与えられるそうです。…まあ、努力出来るのも才能ですけど」

「それはそうだね。どれだけ努力出来るかってのも、結構才能な所あるし…」


努力は才能だよ。


大抵の人は、何処かで諦めて努力することを、辞めちゃう。


諦めずに、ずっと努力し続けるのは、ある意味才能だ。 


他には、覚醒者になる方法は無いのかな?


「…気分で日本を選ぶような存在だし、気分で覚醒者を作りそうなものだけど…」

「そこは、徹底してるらしいですよ?あ、あと可能性としては、ダンジョンに放り込まれて、生き残れたら、と言うのがあるそうです」

「なにそれ?」

「非覚醒者をダンジョンに連れ込むのは、犯罪ですが、その状態で一人にして生き残れたら、ステータスを貰えるらしいです」


なるほどね……非覚醒者ながら、ダンジョンで生き残れたら、適性ありと見なされて、ステータスを貰えるのね。


……でも、第1階層に放り込んだくらいだと、絶対に貰えないよね?


「それって、どれくらいの水準を求められるの?」

「……50階層以降で、3日以上です」

「…無理じゃない?」

「無理ですね。それでステータスを得られた人、聞いたこと無いですし」


《ジェネシス》さん、要求水準が高過ぎますよ?


いや、無能をダンジョンに入れたら、死ぬだけってのは、分かりますけど…


そもそも、人口1億5000万人に対して、約5万人しか冒険者居ないんだから、もうちょっとくらい増やしても、問題ないんじゃない?


例えば、外国人にもステータスを与えるとか?


…ん?言われてみれば、外国人の覚醒者って聞いたこと無いような…?


「……そういえば、外国人の覚醒者っていないの?」

「あぁ、言い忘れてましたね。『純日本人で、血統かある程度の才能があるか』だそうです。なので、過去に外国人の血が混じってると、その人はいくら才能があっても、覚醒者にはなれません」

「純日本人って、どれくらいの純度?」

「確か……1000年以上、日本以外の出身を持つ人の血が、混じっていないか。だったはずです」


なんか、日本人と外国人の間に産まれた子が、いじめられてた理由が分かった気がする。


親から、『間違っても純日本人以外と結婚するな』って言われてた理由が、分かった気がする。


「そのせいで、日本では外国人に対する、差別意識が強いんですよね。あと、別に覚醒者でも、何でも無い人間に限って、自分達を優等人種扱いするんです」

「確かに、言われてみればそうだね」


居たなぁ…やたら、『俺は日本人だぞ!?』って、留学生に威張ってたクソジジイ。


あいつ、絶対に覚醒者じゃないよなぁ?


もし覚醒者になれても、あの齢じゃ無理でしょ?


「逆に外国では、可能性がないのに、日本人と子供をつくれば、覚醒者の子供が生まれるという迷信が消えないんです。日本人と結婚できた時点で、勝ち組みたいな」


何故か光景が目に浮かぶ。


そして、覚醒者の子供が生まれなかったら、『どうなってんだ!?』って怒るまで。


容易に想像出来ちゃうわ…


……人種差別って良くないね。


「私達は、人種差別するような人間に、ならないようにしようね?」

「しませんよ。今時、差別なんて時代遅れです」

「…日本人で、覚醒者で、しかもギフターっていう、恵まれまくりな私達が言っても、説得力ないね」

「差別する人間の代表例みたいな肩書ですね」


そうだよなぁ…


こんな事外で言ってたら、『それをアンタに言われても…』って、言われること間違いなしだ。


私なら言うね!


「とまぁ、全体的に《ジェネシス》は適当で、未だに『ダンジョンを創ったのか?』という謎は、答えられていません。まだまだ謎が多い存在ですよ」

「とりあえず、不思議で適当な存在って訳だね。でも、その力は確かで、凄い存在であることに間違いはないと…」

「そうなります」


《ジェネシス》は、謎多き適当な存在。


……もしこんなのが神なら、世も末だね。


せめて、私が生きてる間は、平穏に暮らせますように。





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