第25話 クランとは?《朱雀財団》
周囲への警戒は怠らず、しっかりと気を配りながらかずちゃんの話を聞く。
「まず、《朱雀財団》のロゴは翼を円状に広げた、オレンジの鳥なんですが…知ってます?」
「あぁー!見たことあるよ!あれなんだ?」
「そうです。あれなんです。《朱雀財団》は、クランというよりは、普通に会社です。それも、日本最大規模の大企業」
日本最大規模の大企業?
え?《朱雀財団》って、そんなに凄かったっけ?
「まずは、構成員人数からですね。《朱雀財団》に所属する冒険者は、12400人。《自警団》のおよそ2倍、《新日連合》が5500人なので、2倍以上です」
「えっ!?」
他の三大クランに対して、ほぼダブルスコア!?
構成人数ヤバくない?
「しかも、この人数は“冒険者だけ”の数字です。冒険者以外の、一般人も所属していて、普通にサラリーマンとして働いています」
「…マジ?」
「なので、全体の人数は私も良く知りません。関連企業が沢山あるので、それも含めると凄いと思いますよ?」
マジかぁ…普通に大企業だなぁ。
私も、《朱雀財団》に入社すれば良かった。
「次は、主な収入ですね。これは……まあ、普通に魔石やアーティファクトの輸出もありますが、《朱雀財団》の場合は別です」
「え?そうなの?……魔石の輸出に匹敵する収入ってなに?」
魔石の輸出は、石油の輸出と似たようなもの。
石油を売っている、中東の国々はなんか金持ちのイメージがある。
とんでもない額の金を持った王子様が居るらしいし、それを企業に考えると、《朱雀財団》は相当な儲けを出しているはずだ。
それなのに、その魔石を超える収入があると?
「魔導機って、知ってますよね?」
「流石にそれはバカにし過ぎ。マナで動く機械でしょ?工場で使うようなものから、家電サイズまで。それがどうかしたの?」
「知ってます?魔導機の国内シェアの9割は、《朱雀財団》なんですよ?」
「……え?」
は…?え?
きゅ、9割…?
店で売ってる、あの魔導機もあの魔導機も、cmで紹介してるアレもアレも…全部、《朱雀財団》?
「海外シェアも凄いですよ。世界中の魔導機の、7割は《朱雀財団》です。魔導機に関しては、《朱雀財団》が世界規模で独占状態です」
「……マジで言ってる?」
「嘘はついてません。それに、そのシェアを誇れるだけの理由もありますし」
理由?
世界中のシェアを独占出来るほどの理由?
……元から大企業だったとか?
「神林さんは、魔導機の作成に必須な資源をご存知ですか?」
「必須な資源?…なんだろう?」
「ヒントは、ダンジョンで取れるレアメタルです」
「ダンジョンのレアメタル…?………あっ!分かった!!」
レアメタルと聞いて、点と点が繋がった。
ダンジョンのレアメタルといえば、アレしかない。
「“ミスリル”だ!」
「正解です!《朱雀財団》は、そのミスリルの採掘権を大量に保持しているんです」
「ミスリルの採掘権?」
そんなのあるんだ?
鉱山を持ってるとか?
「ミスリルの採掘権は、割合で言うと、国が2割、一般企業が2割、クランが6割です」
「…クラン多くない?」
「まあ、冒険者で構成された企業ですから…様々なクランが、その6割の採掘権を持っているんですが……その採掘権の半分は、《朱雀財団》の物です」
「ん…?ん〜……ん?」
えーっと?
おかしいな?耳が悪くなったかな?
6割の採掘権の、半分を《朱雀財団》が持ってるって聞こえたんだけど…?
「…聞き間違いじゃないよね?」
「残念ながら……」
「つまり、それってさ…?」
「国が2割、一般企業が2割、クランが3割、《朱雀財団》が3割です」
……マジか。
なんて言うか……開いた口が塞がらないや。
1企業が、国を上回る採掘権を持ってるだって?
いや、おかしなことじゃないのかも知れないけどさ?
マジでどうなってるの?《朱雀財団》。
「…つまり、魔導機の製造に必須なミスリルを、《朱雀財団》は大量に自前で用意できると?」
「はい。その為、《朱雀財団》は魔導機の大量生産が可能なんです。おまけに、そもそもミスリルを使うのは、冒険者の武具か魔導機くらいなので、需要が《朱雀財団》に集中してるんです」
「…他に売れないの?」
「どこに売るんですか?ミスリルは、ダンジョンでしか取れないレアメタル。普通の金属や、その他のレアメタルのように使うには、あまりにも高価です」
ミスリルは、高価なせいで魔導機以外に殆ど使い道がない。
武器防具も、原料がクソ高いからなかなか売れないだろうし…それを買えるなら、それまでに武器宝箱でいい武器を見つけてるはず。
「そもそもの話、海外ではマナのライフラインは日本ほど発展していません。そして、魔導機が売れなければミスリルも売れません」
「…つまり?」
「ミスリルは現状、《朱雀財団》の採掘権3割で、事足りてるんです。魔導機製造のため、他のクランや一般企業、国から買う必要がないんです」
…じゃあ、ミスリルってあんまり売れてない?
レアメタルなのに?
「じゃあ、ミスリルの採掘権を持ってても、あんまり意味ないって事?」
「そうですね。だから、いくつかのクランや企業は、採掘権を売っています。それを買うのはもちろん…」
「《朱雀財団》と…」
少しずつ、ミスリルの採掘権が《朱雀財団》へ集まっている。
これが、何を意味するか?
「時が経ち、世界的にマナのライフラインが発展したら…魔導機は売れるようになる」
「その時、《朱雀財団》はどれ程のミスリル採掘権を、持っているのでしょうね?」
「もし殆どを握ってたら…そもそも原料を管理するのも《朱雀財団》だから、外国の魔導機製造企業にいくらでも圧力を掛けられる」
「やがて他の企業が消えた時、《朱雀財団》は全世界の魔導機の利益を、独占するんでしょう」
…ヤバイなぁ。
世界的大企業の誕生だぁ。
いつか、世界一の企業になるぞ、《朱雀財団》。
「ちなみに、何も魔導機だけが《朱雀財団》ではありませんよ?」
「他にもなにかあるの?」
「ダンジョン資源の利益は…殆どを《朱雀財団》が握っているようなものです。それ以外にも……基本的に、なんでもやってます。いくつかの有名チェーン店は《朱雀財団》に吸収されていますし…あと、言い忘れてましたが、マナ車のシェアもほぼ《朱雀財団》です」
「だよね〜…」
魔導機の利益を独占してるんだから…当然といえば当然だ。
脱炭素化で、EV車やマナ車が注目される昨今。
マナ車の利権を支配してる《朱雀財団》は、相当稼いでるだろうね。
「海外だと、有名な車メーカーがいくつか開発し、売りに出しています。しかし、その販売が軌道に乗る前に《朱雀財団》が何かしないといいですけどね」
「…もしかして、ミスリル採掘権?」
「はい。マナ車の販売が世界的に始まれば、ミスリルが売れます。しかし、そうなる前にミスリル採掘権の殆どを《朱雀財団》が握ってしまったら……」
どうなるかは、想像に難くないと…
ヤバイね、《朱雀財団》。
どうしよう?私も就職するなら《朱雀財団》にしようかな?
絶対に、給料良いでしょ?
どうせなら、高収入が見込めるクランに所属したいからね。
「…やっぱり、神林さんも《朱雀財団》ですか?」
「そうだね~。《新日連合》も悪くはないけど…あんまり給料は高くなさそう」
「《新日連合》は、給料というよりは社会貢献をしているという、満足感が得られるのがいい事だと思いますよ。私達が魔石を売ることで、子供たちが元気に育てるんですから」
…そっかぁ。
そういうのも考えると、《新日連合》は全然アリだね。
給料は高くないだろうけど…国に売るよりは稼げるはず。
《新日連合》も候補に入れておくとして―――――まあ、その事は今度考えよう。
「かずちゃん、団体様だよ?」
「そうですね。というか、お客さんは私達だけどね?おもてなしをされるのは、私達ですよ」
「そっか。じゃあ、存分に暴れて困らせてあげよう」
「嫌な客ですね。ここの従業員が可哀想です」
私は、ホネノキシとクサリウマの群れを見て、かずちゃんと軽口を言い合う。
《鋼の体》を発動して前に出ると、かずちゃんも魔法の準備をする。
この魔石をクランで売ったら、いくらになるんだろう?
まだ、モンスターが持っている魔石の値段を想像しながら、私はモンスターの群れに殴りかかった。
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