転生令嬢アイリーンは名探偵にされそうです ~事件を解決したらイケメン公爵から溺愛されるようになりました~

ケロ王

犯人は……私?

第1話 冤罪

「アイリーン・レナード! 本日をもってお前との婚約を破棄する!」


 一週間前、私は婚約者であるレオルド・グランゼア公爵令息から婚約破棄を告げられた。


 彼が言うには、親しくしているイリーナアイビー男爵令嬢に嫉妬して、数々の嫌がらせをしていて、それが貴族として相応しくないということであった。

 嫌がらせの内容と言っても、私が彼女に注意したことを悪く取られたり、全く身に覚えのないことを私のせいにされたりといったものであった。

 そもそも、貴族の婚約など家同士の取り決めであって、私の一存でどうにかなるものではないのだが、『真実の愛』を見つけた彼にとっては自分の意思でどうにかなるものだと思っているらしい。


「わかりました。婚約破棄をお受けいたします」


 私がそう告げると、先ほどまで煩いくらいに喚いていたレオルドも、すぐに静かになった。


「わかったなら、それでいい。お前のしたことは不問にしてやるから、この学園から出ていけ!」


 学園から出た私は、あらかじめ用意された馬車に乗り込んだ。


「やったー! これで私は自由だ! あとは領地に帰って小説をひたすら書き上げるだけね!」


 私もバカではないので、彼がしばらく前から『真実の愛』に目覚めているのは知っていた。

 しかし、婚約破棄までするとは思っていなかったので放置していたが……なかなか思い切ったことをしたものである。


「まあ、そのおかげで心置きなく執筆活動に精を出せるってものね」


 とは言うものの、この日は既に日も沈んでいたため、領地に帰るのは明日にして、この日は王都にある別邸に戻った。

 そして、翌日、公爵から直々に緊急訪問をいただくことになるのである。


 内容は、今回の一連の経緯についてのお詫びがてら、一週間後に行われる晩餐会に招待したいとのことであった。

 もちろん、私は辺境伯家で相手は公爵家である。

 招待とは言うものの、その実態は強制連行である。



 こうして仕方なく、私はグランゼア公爵家で行われる晩餐会に出席することとなり、あろうことか、その晩餐会の中で、元婚約者であるレオルド・グランゼアが何者かに殺害されてしまったのである。


 密室だったことと、ナイフを逆手に持って心臓に突き刺していたことから、自殺の可能性も疑われたが、凶器となったナイフが離れた位置に落ちていたことから、他殺の線が濃厚とされた。


 しばらくして保安官数名がやってきて現場検証などを行い、彼が即死であったことから、自殺の線はほとんどないということになった。


 そこで登場したのが、エドワード・ホームズ公爵である。

 元々は晩餐会の来賓だった彼は、これが殺人事件だとわかると、すぐさま関係者に事情聴取を行った。


 そして、「犯人が分かりました」という彼の言葉によって、私を含む関係者が一堂に集められたのである。


 集められた人間は私の他に、婚約破棄の際に被害者の隣にいたイリーナ・アイビー男爵令嬢と、彼女の義理の父親のロバート・アイビー男爵。

 また、被害者との関係が噂されるクリシュナ・ポート子爵令嬢とカティア・オランド伯爵令嬢。

 それから、被害者の親友であるジョセフ・ジョロキアン侯爵令息。

 あとは、被害者の親族である父親のオスカー・グランゼア公爵に、長男のリチャード・グランゼアと三男のリディス・グランゼア。

 最後に、晩餐会の支度を担当していた執事のジョージとメイドのアンナの合計11名である。


 集められた彼らの前をエドワードは左右に歩きながら、自慢の推理を披露していた。


「この事件はですね。とてもシンプルなものでした。んん、それだけにですね。私以外には……そう、誰も真実に気付かなかったのです」


 そもそも司法関係者でもない彼が、まるで探偵のように推理を披露しているのは、間違いなく私が原因だった。


 私には前世の記憶があって、前世の時はミステリー小説が好きで色々な本を読み漁っていて、中でもアーサー・コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズの大ファンであった。


 そんな私が、ホームズ家の若きイケメン当主を見て、何もしないということがあるだろうか――もちろん、彼を題材とした小説を書いたのである。

 元々は知り合いにしか見せないつもりで、前世の記憶を頼りにパク――リスペクトして書いた小説なんだけど、いつの間にか知らない人がいないほどに有名な小説になっていた。

 その結果、いつの間にかエドワードはあらゆる難事件を解決に導いた名探偵ということになっていた。


「いやいや、フィクションと現実を混同してはいけないわ!」


 私がそのことを知った時、思わずそう叫んでしまったが、結局は後の祭りである。


「そして、えぇ、彼が殺されたとわかった時ですね。んん、私は閃いたのです! この事件の犯人が。えぇ、それを裏付けるためにですね。んん、聞き込みをしました。そして、私の閃きは正しかったと証明されたのです!」


「早く犯人を言えや!」


 延々とくだらない話を続けてきた彼にしびれを切らしてしまい、ついに本音が漏れてしまった。

 しかし私の言葉を聞いて、彼は不敵に微笑む。


「わかりました。この事件の犯人はあなたです!」


 そう言って、この自称名探偵は私を指さした。

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