第3話
昼休み、屋上へ行くと黒崎は何事も無かったかのように私の前に現れた。さっき私を無視したことなんてなかったかのような平然とした顔で。
「……あんた友達いたんだ」
「ん、まあね」
興味がないように素っ気なく答える。私ばかりが意識して、からまわってるのだろう。黒崎は最初から私のことをその他大勢の一人としか思っていない。
「人嫌いって言ってたのに」
「嫌いだよ」
黒崎はヘラヘラと笑いながら言った。
「嘘つき……」
人が嫌いなんて嘘だ。誰とでも仲良くなれような黒崎が人嫌いなわけがない。だって人が嫌いなら、人と関わるのは煩わしいと感じるはずじゃないか。
「なんで私なんだよ。あんたは私とは違うじゃん。友達がいるんだから、私に構う必要なんてないでしょ」
イラつく。こんなこと言うつもりなんてなかったのに、一度口に出した言葉は止まらない。
放っておいてくれればよかったのにどうしていつもいつも私の前に現れるんだ。
「だから?」
「だからって……私じゃなくてもいいならッ!」
――関わらなくていいはずだ。そう続ければいい。それなのに私の勢いはそこで萎んでいく。私の苛立ちの原因は黒崎だ。あいつがわけのわからない言動をするから。
……だけど本当に? この苛立ちの原因は私の中にあるんじゃないか?
「あのさ、君は人が嫌いってわけじゃないよね?」
「は……? 今はそんな話してないでしょ」
「本当は怖がってるだけ。人と関わることが怖いから一人でいる方が楽だって逃げてるだけ。君の言ってることは矛盾だらけなんだよ」
酷く冷たい目をしていた。まるで全てを見透かしたかのような瞳にたじろぐ。初めて黒崎が怖いと感じた。
「ちがう……私はっ……!」
反論が出来なかった。さっきまでの怒りの熱が彼女の瞳で凍らされてしまったかのように萎んでいく。黒崎はそんな私をじっと見て、ふぅと息を吐いて表情を緩めた。
「ねぇ、君はあたしのこと……好き?」
急に投げかけられた質問に息が詰まる。好きなわけがない。だけどすんなりと言葉がでてこなかった。間を置いてようやく口を開く。
「……嫌いだよ」
「そっか」
嫌いと言われたのに黒崎は嬉しそうに笑う。その笑みはいつもの黒崎だった。どうして嫌われてるのに嬉しそうなんだ。
「じゃあね」
黒崎はそう言って去っていく。
『またね』じゃなくて『じゃあね』と言った。つまりそれはもう会う気がないってことだ。
「なんだよ、それ」
嫌いと言ったから会わないつもりなのか? それなら前々から言ってたじゃないか。
……いや、違うのだ。黒崎はそういう奴じゃない。あいつにはなんにも響かない。私の言葉や行動で黒崎の意志を変えることはできないのだから。
「だから嫌いなんだよ……」
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