第8話 ダンジョン配信

「今日はダンジョン配信ですね」

「そうじゃな、今かなりホットなテンプレじゃ」

「新しいんですか?」

「比較的、な。だからこそ、まだ商業誌での結果が未知の部分もあってな、おそらく出版社も様子を見ている部分もあると思う」

「へえ。どんなテンプレなんですか?」

「言ってみれば、ダンジョンの攻略をネット配信するという感じじゃな」

「そのままですね……」

「そのままじゃが、ネット配信をするメリットは何だと思う?」

「メリット……?」


 勇太くんは腕を組んで考え込みます。


「もしかして……。IT革命ですか?」

「ラノベがIT革命してどうするんじゃ?」

「う……。AI的な……?」

「AI要素はテンプレではないな。さつきちゃんはわかるかい?」

「チャンネルフォロアーの増えてアクセスが増えれば、主人公にザックザクお金が入りますよね? 若者がお金をもって好きに遊べるんじゃないかしら?」

「お、いいところをつくね。確かにそれはある。だが、ダンジョン配信の肝はそこじゃない」

「うーん?」


 二人が考え込んでいるのを見て、博士はにやりと笑い、ホワイトボードに何やら書きます。


・冒険者ギルドでベテランに絡まれる→軽くあしらう

・元S級冒険者だったギルド長に稽古の相手をさせられる→軽くあしらう

・ギルドの受付カウンターで、大量の魔物や、強い魔物の素材を出す。 

・学園の入学試験で、前代未聞の成績を出す。


「こういったイベントはどうして起こると思うかな?」

「えっと……。主人公の強さを見せるため?」

「そういう一面もあるが、趣旨としてはちょっと違うな。これらのイベントは主人公の凄さを見た周りが、主人公に対して『すごい』と驚かすためじゃ」

「主人公の強さだけじゃダメなんですか?」

「それじゃ弱いんじゃ。主人公の強さだけで終わったらカタルシスは生まれないんじゃ」

「え?」

「周りが驚いて、びっくりするアクションが必要じゃ。これはなんでだと思う?」

「お、俺つえーするためですか?」

「読者の承認欲求を満たすためじゃ」

「承認欲求……」

「そうじゃ、小説を読んで読者がスカッとしたりするためには、読者が持つ心の欲求を満たすことが一番大事じゃ。『強くなりたい』『モテたい』それらの原始的な欲求もあるが、それ以上に、『キャーキャー言われたい』『尊敬されたい』といった他人から認めてもらいたいという承認欲求が、その上位にあるんじゃ」

「なるほど! 普段うだつの上がらない、職場でも窓際にいる様な使えない駄目陰キャが、せめて小説の中っ。あ! 違う。間違いましたっ! 来ないで! 痛い! 痛いよッ!」


 勇太くんはいつになったら覚えるのでしょう。

 博士は腰に手を当てて上から勇太くんを見つめます。


「何を間違えた?」

「読者様は王様です……」

「そうじゃ。今日家に帰ったら、それをノートに百回書くんじゃ」

「……はい」


「ま、そろそろ分かったじゃろ? ダンジョン配信は主人公の凄さを、インターネッツを通して全世界の人間が見て、掲示板やコメント欄がバズるという反応をすることで、読者の承認欲求を満たすことが出来るんじゃ」

「それって……。超パワフルじゃないですか?」

「もちろん、ものすごいパワーのあるジャンルじゃ。さっきも言ったようにまだ新しめのテンプレじゃからな、商業での結果がそこまで出てないってだけで、もしかしたらこれから王道として固定するポテンシャルもある」

「おお……。僕はこれをやろうかな」

「選択肢としてはありだがな、残念ながらこれは異世界ファンタジーではない」

「え?」

「配信じゃぞ? スマホやドローンで撮影するんじゃ。言ってみればユーチューバーみたいなものじゃからな、現代ファンタジーなんじゃ」

「そっか、転生出来ないんですね」

「ま、現代転生というルートもあるがな。ちなみに異世界ファンタジーでもやろうと思えば出来なくも無い、ダンジョン配信物の走り的な作品は、異世界を舞台にしていたくらいじゃからな。ただ自然に配信できるとなると、やはり現代ファンタジーになるのかな」

「やろうと思えば何でも出来るんですね」

「そうじゃ、それがライトノベルの可能性というやつじゃ」

「おおお!」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る