第7話 無自覚無双

「無自覚無双も追放ザマァと同じ様な感じなんですか?」

「無自覚無双は、自分がチートだと気が付かないで話が進んでいくパターンじゃ。チートはチートだがその表現が変わる感じじゃな」

「それで無自覚なんですね。でも無自覚の何が面白いんですか?」


 勇太くんはチンプンカンプンです。強いなら強いで良いじゃないかって感じです。


「こういう言葉を聞いたことが無いかな『え? 俺何かやっちゃいました?』」

「あ! あります。そうか、あれが無自覚無双ですか、でも少し古いですよね?」

「そうじゃな、でも今でも現役で大ヒットしてるシリーズもあるからな、有力なテンプレとも言える」

「おお、じゃあ、僕も無自覚無双をやってみようかな……」

「ふ。実は無自覚無双はとてもむつかしいジャンルなんじゃよ」

「ほえ?」


 勇太くんのやる気に、突然博士が水をかけます。

 キョトンとする勇太くんをよそに、博士はさつきちゃんに尋ねました。


「さつきちゃん。すごいチート能力を持って俺は強いって感じを満々に出した主人公はどう思うかね?」

「え? うーん。良いんじゃないですか?」

「男としての魅力はどう思う?」

「え? 博士は私にマイナスなことを言ってほしいんですか?」


 さつきちゃんは目を細めて博士を見つめます。

 女の子は男の意図などすぐにわかってしまうのです。


「ま、まあ、そうじゃな……。何か気になりそうなことがあれば」

「じゃあ、鼻につく、かしら? オラオラ系イケメンはホストっぽいわよね」

「そうじゃ! 鼻につくんじゃ。周りに対しても自信満々しか見せない主人公というのは、かっこよさを見せるだけなら良いのじゃが、読者の共感性は少なくなってしまう」


 話を聞いた勇太くんもようやく分かったようです。


「なるほど! 本しか読まない陰キャはウジウジと自信が無いカスばかりだから、そんなイケイケ、、、、痛い! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 またやってしまったようです。まるで無自覚無能です。


「勇太くん、読者は?」

「王様です!」

「その通りじゃ。心して発言しなさい」

「申し訳ありません」


 そして再び話が再開します。


「読者の中には、自分を主人公に投影して楽しむという人が少なからず居る。イケイケな主人公だとそれが難しい場合がある、でもチート能力は与えたい。じゃあ、どうすればいいか。そこで考え出されたのが無自覚無双じゃ」

「自分に自信のない……。少しナイーブなキャラは受けそうですね」

「うむ。テンプレ以前もガンダムのアムロさんとか、エヴァのシンジ君みたいな少し引いたキャラは割と人気が出るのじゃ」

「でも何で無自覚無双は難しいんですか?」

「ふむ、さつきちゃん、ものすごい強くて、誰にでも勝ってしまうのに無自覚故に『僕は弱いんだ』と言っている主人公がいたらどう思う?」

「頭が弱いんだって思います」

「ぐはっ。直球過ぎるが……。まあそんなことじゃな」


 それを聞いて勇太くんは頭が「?」状態です。


「……えっと、じゃあどうすれば良いのですか?」

「こればかりはなんとも言えんが、作者の力量が問われるんじゃ。なぜ主人公は無自覚をキープできるのか、それを自然に、かつ巧妙に見せることに非常に繊細な感覚が必要となる」

「確かに難しそうですね」

「そうじゃろ? ただ、話の最初の段階で、無自覚でチート能力を周りに見せるシーンは

読者に大きなカタルシスを与える。その周りの驚きとともにな。そして無自覚主人公はそれに気が付かない、そのギャップがパワーとなり、そのパワーがこのテンプレの旨味なんじゃ」

「最初の段階は。になるんですね」

「そうなんじゃ、そのギャップをキープするのが非常に難しい」

「なるほど、もっと筆力が上がってからチャレンジします」

「そうじゃの。……ふむ、無自覚無双だけで、だいぶ尺を使ってしまったな」

「次の話は……」

「そう、次回じゃ」




※個人の感想です

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