第6話 チートハーレム


 教室に戻ってきた三人は再びホワイトボードに向き合います。しばらくホワイトボードを眺めていた博士が、少し書き直したり書き足したりしました。


・チートハーレム

・追放ザマア

・無自覚無双

・ダンジョン配信系(現ファン

・スローライフ

・美少女に巻き込まれ系


転生先の属性

・悪役転生

・人外転生

・ゲーム転生




「このチートハーレムというのが一番初期のなろうテンプレに近いイメージじゃな」

「昔からあるんですね」

「言ってみればこれをベースとして他のテンプレが作られてるといった感じじゃ」

「じゃあ、他のテンプレもチートハーレムではあるんですか?」

「厳密には、チート要素とハーレム要素は別の属性になるんじゃ」

「え? え? 別なんですか?」

「チートは、周りを圧倒する能力。転生、転移もチートのための設定と言える」

「転生、転移が、ですか?」

「そうじゃ、転生することで、女神からチート能力を貰えるというのが昔は定番じゃったな。それから、現代日本の文明知識を持ったまま文明の遅れた中世の世界に行くことで、知識チートを演出するというのも定番じゃ」

「あ、石鹸作ってお金持ちになったりとかありますよね」

「そうじゃ、そういった知識チートは、作者がウィキペディアを見ながら書くことで、誰にも負けないチート能力を与えることが出来るんじゃ」

「だから転生が多いんだ!」


 勇太くんは手を打って納得します。


「それじゃあ、ハーレムはなんなんですか?」

「ハーレムは、ハーレム自体がチートとも言えるが、主人公がいろんな女性からモテる事で、読者を気持ちよくさせるんじゃ」

「ああ。本ばかり読んでる陰キャは女性にモテるなんて体験したこt……痛い! ごめんなさい。ごめんなさいッ!」


 また勇太くんがNGワードを言ってしまったようです。博士が声を掛けるとリバースは名残惜しそうに、博士の頭にもどります。


「良いか。勇太くん。作家にとって読者様は王様じゃ!」

「は、はい……」

「そんな読者様を怒らせるような事を言えばどうなると思っとる」

「わ、わかりません……」

「炎上するんじゃ!」

「ひぃいいい」

「良いか、読者様は私生活でも女性に苦労しておらんのじゃ。だけどな。良識ある人々は現実世界では一人の女性と付き合うことしか出来ん」

「はい」

「じゃが、小説の中では、色んなタイプの女性に言い寄られるというバーチャルな体験をすることが許されておるんじゃ。ワシらはそれをサポートするだけじゃ」

「わ、わかりました」

「と言ってもな。小説の中でもあまりモラルのない事を書くと、それも炎上案件じゃからな、バランスと加減が大事ということじゃ」


 博士の言うことを神妙に聞いている勇太くんでしたが、まだ小学生の勇太くんには博士の言ってることはあまり理解できませんでした。

 博士も何となくそれを感じていたかもしれませんが、話は次へと移っていきます。


「その下の追放ザマアとかもチートの演出のためのものなんですか?」

「そうとも言えるし、違うとも言える」

「え?」

「そうじゃのう。次の追放ザマアは、一時代を築いたウェブ小説界の大発明じゃった」

「大発明?」

「ウェブ小説の人気のポイントは、如何に読者にカタルシスを味合わせるか、なんじゃ」

「心の浄化をさせるんですか?」

「いや、その本来の意味というより、まあ、言ってみれば心を動かすという感じじゃな」

「じゃあ、感動させる、で良いじゃないですか」

「リバー――」

「ああああ! 嘘です。カタルシスです!」

「そうじゃろ?」


 勇太くんはすぐに調子に乗ってしまいます。博士はそれを駄目だとしっかり教えようと思いました。


「まず追放ザマアは初手に「お前を追放する」というセリフが来る。これが強い引きになる」

「引きってなんですか?」

「ウェブ小説は無料で読めるからな、読者というのはちょっと読んで楽しそうなら読み続けるし、あまり興味がわかなければすぐに次の小説へと手を伸ばすのじゃ」

「客引きみたいなことですね」

「……変な言葉をしっておるな。だがまさにそのとおりじゃな。読み始めていきなり主人公が『お前を追放する』と言われるんじゃ。読者は、何があったのか。どうしてなんだ。そう気持ちを持ってかれる」

「確かに、いきなり主人公が追放されたらびっくりしますね」

「うむ。そして、その理由は大抵が主人公がそのパーティーやギルドに対して皆が気が付かない所で支える縁の下の力持ち的なポジションだったというオチがある」

「その縁の下が居なくなってパーティが瓦解していくんですね!」

「お、分かったようじゃな。まさにその瓦解の場面をザマァといい、主人公に色々と難癖をつけてヘイトを高めた連中が堕ちていくさまが、読者の最高のカタルシスを演出するんじゃ」

「おおお~。確かに面白そうです。ムカつく奴らの泣き顔はメシウマっすよね」

「ただ、この追放ザマアは商業誌としてはいささか苦戦をしやすいと言われておる」

「え? すごいカタルシスなのに?」

「ザマァをした後の展開が難しいのじゃ。大抵はそのままチートハーレム的な流れに行くんじゃがな、残念ながらチートハーレムはもう昔からのテンプレで、追放ザマァ程のカタルシスを演出するのが難しいのじゃ。ウェブでも、ザマァすると読者が満足して離れていくともいわれておる」

「……難しいですね」

「そうじゃ、テンプレも扱いが難しいのじゃ、それでは次の無自覚無双じゃが」

「はい」

「次回に話そう」



※あくまでも個人の感想や、他の偉い作家さん達の話を聞いてのパクリです。

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