第5話 なろうテンプレの楽しみ方。
ホワイトボードに書かれた様々なテンプレを前に博士が説明をしようとすると、勇太くんが手を上げます。
「博士! 色々なテンプレがあるのはわかりましたが、ちなみに、なろうテンプレって言うのはどういうのですか?」
「うーん。なろうテンプレかあ。ここまで細分化される前の言い方とでもいうのかな。なろうテンプレと言われる作品は、ストーリーの流れとして、トラックに轢かれて転生して、チート能力を手に入れて、盗賊に襲われている馬車を助けたら美人が中に乗っていて、冒険者ギルドでベテランの冒険者に絡まれる。そういった必ず発生するイベントがあったんじゃ」
話を聞いていたさつきちゃんが手を上げます。
「なんか、それって転生と転移が混じってません?」
「さ、さつきちゃん、細かい所はいいじゃろう。そういうイベントがよくあるという事じゃ。それでだ。割と同じような流れにのっとって書いていくのがなろうテンプレのイメージでよいじゃろう」
「確かに僕がなろっ……ゲフン。カクヨムを読むとそういった展開が多いですね」
「そうじゃろ?」
「でもなんでだろう、同じ様な展開なのにあまり飽きないですよね」
「ふむ……。良いところに気づいたな」
勇太くんが尋ねると博士はニヤリとわらいます。
「さつきちゃんは、本を読む時、どんな事を考えながらページをめくるかね?」
「本? そうですねえ。このページを捲ったら何が起こるんだろう。殺人鬼が突然登場するのかしら。それとも無事にここから逃げられるのかしら、まさかヒロインは惨殺されるの? ……って感じです」
「あ、ああ……。そうじゃな」
さつきちゃんの返答に博士は目をパチクリさせています。
聞いていた勇太くんもうろたえています。
「ごほん。……というわけじゃ。わかるかな?」
「え? どういうわけですか?」
「さつきちゃんは、ページをめくるときに、小説の先がどうなっていくか、まだ見ぬ知らない世界の扉を開けるような、そんな気持ちなんじゃ」
「本って普通そうなんじゃないですか?」
「でもなろうテンプレというのは、先の展開はある程度予想付くじゃろ?」
「確かにそうですね」
「そういった小説は、先の展開を予想して期待して、それが来るのを楽しみにページを捲るのじゃよ」
「……えっと?」
二人は博士の言っていることがまるでわかりません。勇太くんは少し博士が認知症を患ってしまっているんじゃないかと、心配そうに見つめます。
しかし、博士は自信満々で二人に言います。
「ふふふ。実際に見てみようか」
「見てみるって、なんですか?」
「ふぉっふぉっふぉ。このライノベマシーンに乗り給え」
「な、なんで突然こんな所にボブスレーのマシンが?」
「筐体は四人乗りボブスレーじゃが、中身は別物じゃよ。ささ、乗るんじゃ」
博士に急かされて勇太くんとさつきちゃんはボブスレーの中に入り込みました。
一番前では博士が嬉しそうにハンドルを握ります。
「それじゃあ行くぞ」
「えっと……」
二人が博士の授業を聞き始めたことに後悔をし始めた瞬間、突然ボブスレーがふわりと浮きました。
「え?」
「え?」
ボブスレーマシーンはそのまま浮いたまま窓の外へ矢のように飛び出しました。
……。
……。
「博士。ここはどこですか?」
「ここはのう、浅草演芸ホールじゃ。周りからはワシ等の事は見えないから安心して良いぞ」
「見えないんだ……」
「あ! 落語やってる!」
「お、さつきちゃんは落語を知っていたかな」
「牡丹灯籠とか番町皿屋敷が好きよ」
「お、おう……」
さつきちゃんはぶれません。
横では、勇太くんが不思議そうに噺家さんの落語に耳を向けています。
「あれ? このお話知ってる。やっぱり秋刀魚は目黒だなってやつだよね!」
「おお、そうじゃ。勇太くんも知っとったな」
「そりゃ、有名だもの」
「その有名な落語、どうして何度も見に、こういった演芸場に来ると思うかね?」
「だって、面白い話だから……」
「でも話の展開も、オチもみんな知っておるじゃろ?」
「うーん。いろんな噺家さんで喋り方とか違うから……あ!」
「ふぉっふぉっふぉ。分かったようじゃの」
「え? なになに?」
「それじゃあ、一度研究所に戻るぞ」
「はい!」
「え? 四谷怪談は?」
さつきちゃんの願いは虚しく、ラノベマシーンは再び研究所へ戻ってきました。
「それじゃあ、勇太くん。何が分かったかな?」
「なろうテンプレも、先の展開を分かったうえで、その展開を楽しみにページを捲るんですね」
「正解じゃ。噺家さんごとに表現が微妙に変わるように、作家さんごとに微妙に表現の変わるテンプレ小説を楽しむのが、いわゆるなろうテンプレの楽しみ方なのじゃ」
「はい!」
「それじゃあ、今回はここまでにしようか。この次は、全開ホワイトボードに書いたテンプレを簡単に説明していくぞ」
「はーい」
※個人の感想です。
※ゆるりさんありがとう
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