第9話 スローライフ
待ちに待った日曜日、勇太くんは朝からライトノベル研究所のドアを叩きます。
……。しかし鍵はかかったまま。博士も出てきません。
どうしようと悩んでいると上の階からさつきちゃんが降りてきました。
「あれ? さつきちゃんおはよう」
「あ。勇太くん……。おはようぴょん」
「……ぴょん?」
「な、なんでもないわ……」
さつきちゃんは勇太くんに自分の技術をフル動員してブリッコ攻撃を仕掛けましたが敢え無く玉砕しました。
勇太くんは気づきもしません。
「なんか博士が留守みたいなんだよ。今日も教えてもらおうと思ったのに」
「博士は留守なんかじゃないわ」
「え?」
「朝からうるさくてたまらない……。どんどんと釘を打つ音がずっと聞こえるのよっ」
さつきちゃんは怒りを込めて扉を叩くけど、博士は出てきません。すると、さつきちゃんがポケットから鍵束を取り出して一つづつ確認していきます。
「これね……」
そう言うと、鍵を開け、ずんずんと中に入っていきました。
中では、ガンガンに音楽をかけながら博士が何やら作っています。
「博士!」
「……」
「博士!」
「っうぁあああ!」
勇太くんとさつきちゃんに気が付かず作業に熱中していた博士は、突然の声にびっくりしました。
あまり高齢者にこんなびっくりをさせると心臓が止まっちゃうこともあります。みなさんは気をつけてくださいね。
「まったく、驚かせおって」
「博士、何を作っていたんですか?」
「これはのう、リバースのとまり木を作ってたんじゃ」
「とまり木?」
「ああ、最近ワシの頭に止まってる事が多くてのう。その足でむしっているのか、リバースの巣の掃除をしたらワシの毛が大量にあったんじゃ」
「あ……それで最近」
「……やっぱりか? 慌てて代わりの場所を作ろうと思ってな」
出来上がったそれは、見た感じハンガースタンドのようでしたが、博士がリバースに何か言うと、リバースはバタバタとそのとまり木に止まります。
リバースも新しいとまり木を気に入ったようです。
ようやく博士も一息つきました。
「ということでじゃ。ついでじゃから今日はスローライフの話でもするか」
「スローライフですか、博士は苦手といっていましたね」
「ファンタジージャンルでも少し毛色の違うものじゃからな、あまり得意じゃないんだ」
「でも、ついで、って何でです?」
「スローライフにもある程度ジャンルがあるんじゃが……」
そう言いながらまた博士はホワイトボードに書き始めました。
・グルメ
・クラフト
・領地経営
・農業
・友達
「スローライフの基本は、戦いを主体としない異世界ファンタジーと考えている」
「モンスターと戦わないんですか?」
「厳密に言えば、戦うこともあるがな。隠居生活のようなものをゆるく書いていく話が多い。モンスターと戦うのは現役の冒険者、と考えて、その隠居した冒険者は戦わないわなって感じじゃな。しらんけど」
「隠居してグルメにはまったり?」
「隠居といっても実際に老人が主人公になることは少ない。ブラック企業で死ぬほど働いて、むしろそれで過労死した主人公が異世界に転生して、この世界ではのんびり暮らす。とスローライフを始めたりする、そんな流れもあるんじゃ。しらんけど」
「あ! もしかして知識チートってやつですか?」
「お、勇太くんもだいぶ分かってきたな。そうじゃ、日本で趣味でやっていた料理の知識などを、異世界に持ち込んで周りにふるまったりな、そういう話を主体にしていたりする。しらんけど」
「クラフトもそんな感じなんですか? 今とまり木を作ってから『ついで』と?」
「ま、そんなところじゃ。クラフトや農業などは、趣味が高じたり、クラフト系のスキルがあったりするんじゃと思うがな。結局はグルメと大筋ではかわらん。しらんけど」
「領地経営も?」
「領地経営は迷ったんじゃがな、スローライフじゃない物も多いが、スローラーフとして使われることもある。僻地のド田舎でのんびり領主として暮らしながら、チートを発揮しているうちに少しづつ村が発展して、村人からも好かれ尊敬され、楽しい人生を送る。まさにスローライフと言って良いと思うのじゃな。しらんけど」
「なるほど、戦争とか絡めなければスローな感じになりますね」
「そうじゃな、友達というのもそうじゃ、引退賢者や、勇者、がのんびり暮らし、これまた伝説級の仲間が訪れたりして、ハプニングも日常生活のようにチートで解決しちゃう、そんな流れかな。集まる友達もチート級が群れるというのも、パターンとしては王道じゃと思う。しらんけど」
「なるほど……」
「後は忘れてしまってはいけない要素として『モフモフ』がある」
「あ、見たことがあります。毛足の長い犬とかモフモフして楽しむんですね」
「スローライフの重要なポイントは癒しじゃからな。モフモフは癒し要素として最高級の素材なんじゃ」
「おお、なんとなくスローライフが分かってきました!」
「ただな、ワシはやっぱりスローライフはちょいと苦手でな。スローライフ専門家の知り合いにつっこまれたら、こっそりこの話の内容を変えたりするつもりじゃ」
「こっそり、ですか?」
「ああ。こんな偉そうにハウツー小説を書きながら、適当に書いちまってるからのう。ニキやネキに怒られたらかなわんからな」
※個人の感想です。
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