第37話不吉な予感


中国、赤龍市にある大きな屋敷の中で一際目立つ白髪の美しい女性は、赤い瞳をしており、どこか天明とよく似ている。


しかし、ツンとした吊り目に鋭い瞳は天明とは違って凛としており、気が強そうだ。


彼女は、割れた陶器を見つめながらお手伝いの女性に片づける様に指示をした



「…陶器が割れるなんて、不吉ね」


お気に入りの陶器だったのにと、先程まで置いてあった陶器を見つめながら恋しく思っていれば、急にスマホの音が鳴り、電話相手を見れば珍しく王蓮から


王蓮の名前を見た瞬間に、花が咲いた様に満面の笑みで電話に出れば、相変わらず落ち着いた声の相手に、頬が緩んでいく



「やっと連絡くれたわね?」


『しつこいから…で、なに?』


「もうすぐ叔父様の命日だけど、今年も来ない?」



亡くなった前当主であり、王蓮の父の命日だからと、連絡していた事を言えば、彼は一言行かない、と。


予想していた言葉に小さく微笑み、でしょうねと返すと、じゃあねとすぐに電話を切られた。



いつもは中々連絡しても返事を返してくれないが、こういう時だけは、ちゃんと電話をくれるのは嬉しい



「はぁ〜相変わらず痺れるわ」



今年も王蓮は、命日に来ないと思うといつまでもここに留まっているのもつまらない


年も200を超えたというのに、王蓮が日本にいるために、結婚もできずにだんだん結婚適齢期を過ぎていきそうで、嫌になる


弟の、天明と言えば現当主にも関わらずここを私に任せて王蓮のいる日本へと会いに行ったきり戻ってこない。


いや、戻って来てもすぐにまた日本に行くから一体どこが故郷なのか分からなくなる


私よりも自由にしている天明に腹が立つが、だからと言ってここを空けて日本に行く訳にも行かず、結局はここを守っている。



しかし、最近では龍家の会社も安定しているし、少しぐらいここを空けてもいいんじゃないだろうか



たまには弟の様に自分も王蓮に会いに行きたい

でもどうせ行くなら、ただ王蓮に会いたいだけではなくて、弟を連れ戻す名目で、日本に行っちゃおうかと考えた。















「え?日本に??なんで?」


『なんでってなによ?あんたはここを空けすぎなのよ!一体、いつになったら帰ってくるわけ?」


海の家でくつろいでいれば、久しぶりにかかってきた姉からの電話に、急いで出れば開口一番日本に行くからという姉


なんで?と返せば、相変わらず怒り気味に攻めてくる姉の言い方には、ため息がでてくる



「はぁ…だったら、もう当主は姉さんにあげるよ」


『はぁ?!ちょっと、私に丸投げしないでよね?』



「丸投げなんてしてないよ?姉さんの方が向いてるからいってるの」


『…ふーん、向いてるねぇ。まぁいいわ、とりあえず明日そっちに行くから、会って話しましょう』


「え、明日?むり!」



『無理って何よ?!もう行くからね!天明…あんた、逃げたらタダじゃおかないわよ!わかった?!』



電話口でも分かる、姉の怒った表情が浮かび頭が痛くなる。


いつもは日本に来るなんて事ないのに、なぜわざわざ来ようと思ったのか…


しかも、結びの誓いを姉に知られたらまずいと思った矢先に、これだ。


姉に隠し事ができたタイミングで、日本に来るなんてタイミングが悪すぎて更に頭が痛くなった





「師匠?どうしたんですか?大丈夫?」



姉との電話が終わり、ソファーで頭を抱えていれば海が、心配そうに顔を覗き込んで来た


透き通る様なスカイブルーの瞳を見ていると、さっきまでの暗い気持ちは消え去って行く


「大丈夫だヨ、姉さんと電話してただけだから」


「あぁ〜!だから中国語だったんですね?何言ってるか分からなかったけど、お姉さんか!」


「うん、明日姉さんがこっちに来るらしくて」


「え?!明日?楽しみですね?!」


何も知らない海は、姉が来る事を伝えると嬉しそうにしている。


純粋な海に、姉は鬼の様な人なんだと伝えた方が良いか迷う


けれど、僕よりもウキウキと姉が来る事を喜んでいる海にそんな事は言えずに、一言そうだねとだけ返した。



姉が来たら、極力海には会わせないようにしよう


感のいい姉だから、もしも知られたら姉から海を守らなければならない





あの時王蓮でさえ、海を殺す選択をしなかったのだ


僕は、海を守るつもりだったけど王蓮は殺すまでもないと言った






「殺す?…殺さなくても、俺は自分の血は飲ませないし、海の血も飲まない」



「うん、なら安心。王蓮がそう言ってくれて良かったよ。流石に王蓮と殺し合いはしたくないからネ」


「お前こそ…やけに、あいつに熱が入りすぎじゃない?」



「うん?熱は入るよ。だって僕の弟子なんだから」


「あっそ…」





とにかく、姉は王蓮とは違ってそんなに優しくない

できるだけ早く、中国に帰らせるしかない

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る