第38話姉弟
天明side
「お前、気にしすぎ」
と、王蓮は言うけれど、海が人間から吸血鬼に変化したことを知れば、姉は絶対に興味を持つに違いない
「もしもバレたら?」
「──心配ならお前が守ればいいじゃん」
「そのつもりだけど…元は王蓮のミスでしょ?」
そもそも、王蓮が血を与えたのが原因なのに、僕が冷や冷やしてるのもおかしな話だ
逆に、血を与えた当の本人は他人事の様に無関心、特に気にする様子もない王蓮の態度には流石に腹が立った。
ムッとして王蓮を見るけれど、王蓮はいつもの様に煙草を吸い全く気にしていない
全く焦ることなく冷静な王蓮には逆に感心する
──まぁ、とりあえず僕が側にいない間は士郎達が海の側に居るだろうし、その辺は大丈夫だろう
そもそも、匂いを嗅いだだけでは気が付かないし、海の血を調べさえしなければ分からない
冷静になって考えてみれば、いくら姉でも王蓮の率いる鴉に手を出す様なバカな真似はしないはずだ。
昔から、王蓮が自分のものに手を出されるのが嫌いな性格だというのは、よく理解しているしわざわざ王蓮に嫌われる様な事はしないだろう
そう考えれば、王蓮が言うように僕の心配しすぎなのかもしれない
こうして考えている間に、姉が亀田空港に到着する時間が迫ってくる。
とりあえず、空港に迎えに行く準備をしなくては
久々に、僕の眠っている愛車を動かさないと
暫く眠っていた真っ赤なポルシェを動かし、亀田空港の国際線、ターミナルの前へと停車させれば、丁度入り口から出てきた姉の姿が目に入った。
相変わらず、赤が好きな姉は真っ赤なジャケットにパンツスタイル、そして日焼け防止のサングラスをかけており、やけに目立っていた。
手には小さな黒いハンドバックしか持っておらず、日本に来たわりにはやけに身軽い
コツコツと、赤いハイヒールを鳴らしながら、颯爽と歩いて来る姿は、まるでモデルの様だ
しかし相変わらず、遠目から見ても姉の気が強そうな態度は変わらない
助手席のドアを開け、ゆっくりと乗り込んできた姉はサングラス越しに、こちらを覗き微笑んだ
「久しぶりね」
「──久しぶりだね、やけに身軽だけど日帰りなの?」
「…はあ?日帰りなわけないでしょ?あんたの家に泊まるし、服は買うのよ!私、荷物多いの嫌いだから」
「あ〜そう言う事か」
やはり、姉は相変わらずだった
それに久しぶりに聞いた、中国語はどこか懐かしく、気が抜けてしまうのはきっと母国語だからだろう
未だに、姉は何か言っているけど適当に相槌を打つと、車を走らせた
姉を自分の自宅へと連れて行けば、客間に案内し、一通り家の中を説明したところで、洋服を買いに行きたいと言いだした。
来て早々姉のショッピングに付き合う事になり
ブランド専門店へと連れて行くと、姉が手掛けるブランド、Chi-Lonへと入っていった。
姉は店員さんと親しげに話すと、何着か手に取り楽しそうに洋服を選び始めた。
ここまできて、自身のブランドを買うのかと思ったけれど、とりあえず機嫌が良さそうなので余計な事は言わずに黙っておいた
その後は、違うブランド店に連れて行かれ、また何着か洋服を選び、その都度荷物持ちにされた
未だに終わらない姉の買い物に付き合うのは、正直退屈でしかない
店には入らず、とりあえず荷物を抱えその辺のソファーに腰掛け待つことに。
暫くすると、姉が店から僕を呼ぶので荷物を持って向かえば、姉はレジの前に立っておりまたこれも持てと。
「これ持って」
「はいはい」
完全に、荷物持ちに使われていると思いながらも、大人しく袋を持てば店員さんは何を勘違いしたのか、素敵な彼氏さんですねと、微笑んだ彼女は、僕達を恋人だと勘違いしているみたい
姉は、日本語を少し理解しているので、にこりと笑うと、僕よりも拙い日本語で弟ですと強めに返事をした
お店を出てすぐに、先ほどの店員さんの話をしてくる姉は、あの発言が余程気にいらなかったのだろう
「どこを、どう見たら私とあんたがカップルなのよ?!どうみたって似てるじゃないの」
「兄弟だと思ったら、カップルだったって事もあるから、敢えて聞いたんじゃない?カップルに思われた方が後々気まずくないし」
「ふぅーーん?…あ、次はここ!下着買ってくるから待ってて」
「はいはい」
両手に袋を持つ僕は、半ば諦めて姉の買い物を待つ事にした。
下着を買うならば、僕は遠くで待っていようと近くを見渡せば、丁度ソファーを見つけた
ゆっくりと、腰を下ろし通りすがる人達を眺めると周りはやはり、カップルや家族が多い
僕は別に買いたい物は無いけれど、他の人達が楽しそうに買い物する姿は、なんだか微笑ましいと思った
買い物が一段落し車に戻ると、姉は隣で満足そうにしており、先程からやけに機嫌がいい
「はぁ〜!いい買い物したわ!天明、また付き合ってね」
「あんなに買ったのに?…姉さん、何日こっちにいる気なの?」
後部座席が袋でいっぱいになる程、買い物をしたというのに、また荷物を増やす姉へ流石に、いつまでここにいる気だと問えば、姉は私が満足するまでここに滞在すると言いだした。
流石に、毎回買い物に繰り出され姉に連れ回されるのは、精神的に疲れる
「なによ?そんな顔するなら…もっと居ようか?」
運転中、そんなに長くいるの?とあからさまに嫌そうな顔を見せれば、姉は急に僕の頬をつねった
ぎゅっと指でつねられ、姉の爪が頬に食い込み地味に痛い。
痛いと視線を向ければ、姉は悪戯な笑みを浮かべ、もっといてあげようか?と僕を揶揄う
久々に会ったというのに、やはり姉は相変わらず意地悪で、それでいて面倒くさい
「あ、天明!次はここに連れてってよ」
姉は、突然思い出した様に、声を上げると今度はスマホ画面を見せてきた。
チラリと見れば、カラフルな文字で描かれた文字とアイスの写真
でかでかと、マジックアイスと書かれた、カラフルなアイスの広告を見せながら、ウキウキと目を輝かせている姉は、このアイスを食べたいらしい。
流石にそんな目で見られたら、無視するわけにもいかず、しょうがないと姉の希望を叶える事にした
「はいはい」
早速、お店があるショッピングモールへと車を走らせた。
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