第30話きびだんごはいかが?



「あぁ!この子が新しく入った海ちゃん?可愛い〜」

 


肩まで伸びる淡黄白色、梔子色のボブヘアーの女性は、桃色の瞳を輝かせながら、私の名を呼ぶと嬉しそうに笑った







いつも通り、今日も猿田に迎えに来てもらい、ネストに着けば、玲はバイトで居らず代わりに見知らぬ女性がいた


ネストで鉢合わせた女性は、私に気がつくと目を輝かせ駆け寄り、冒頭の通り興味津々に目を輝かせた


何故か、私の事を知っている彼女に首を傾げれば、隣の猿田は鴉は情報共有してるから、お前は知らなくても他は知ってるんだよ、と。


いつのまにか、情報共有されていることを知った




「こいつは犬山マリ、俺と同じ混血で本屋やってて、吸血鬼に関しての本も多く取り扱ってるから気になることあったら犬山に聞いたらいいよ」


「うんうん、私は犬山マリ!犬山書店ってお店やってるから、いつでも遊びにおいで」


「弱木海です!よろしくおねがいします!」



連絡先、登録しよ!とスマホを取り出した犬山と、早速、交換すれば彼女は嬉しそうに微笑んだ


整った顔で、笑う彼女は純粋に可愛いらしい人だと好感が持てる、やはり美人は良い


それにしても、猿田にこんな綺麗な友人がいたなんて、全く知らなかった。


もっと早く教えてくれればいいのにと、ジト目で猿田を見るも、彼はどうした?と首を傾げるだけで、全く伝わっていないようだ




「てか、何?こんな可愛い子いたのに隠してたなんて、士郎さんも隅に置けないねぇ?」


「は?別に隠してねぇーし?何言ってんだ?」


「いやいや、連絡くれればいいじゃん?」


「なんでお前にわざわざ連絡すんの?意味わかんねーだろ」


「はぁー?だって仲間じゃん?!」


「別に、お前に連絡しなくてもそのうち会うだろーが」


「うわーひどい!士郎さんのそう言うところ嫌い!」


「嫌いで結構でぇーす!俺も嫌いだからぁ!」



目の前で繰り広げられる、やり取りに挟まれながらも、彼女と全く同じ事を思っていたので同じく頷いた。


まぁ、結局は美人なお姉さんとこうしてお知り合いになれたのだから良いのだけれど


とりあえず、彼らの言い合いは未だ続いており、静かに見守っていたが、私から見れば二人はどう見たって、仲良しだ。


未だに、ばちばちに言い合う2人は段々ヒートアップしていき、最終的に刀に手をかける犬山には流石に、驚いた


よりにもよってこの場に天明もいない。


彼は、日課のジョギングを終えると朝食をとり、仕事へと出掛けてしまったし、玲も今日は朝からバイトのため、ここにいるのは3人だけ


明らかに、雲行きが怪しくなる2人から少しだけ距離を取れば、刀を手に持った犬山がこちらを向いた




「海ちゃん!このバカになんかされたら、いつでも私に言って良いからね?」




一瞬、巻き込まないでくれ、と思いつつも片手に刀を構えた犬山の圧に、押されるがままこくこくと頷いた。



猿田も犬山に対抗するべく片手に刀を持ち柄を握りしめているのだが、今から死闘でも始まるのだろうか?


猿田は不機嫌な顔でこちらを見ると、口を開いた


しかし、言葉を発する前に丁度良い所で他の人物の声により、猿田の声は綺麗にかき消されてしまった



「あれー?!またやってんのー?」


やけに陽気な声の主に視線を向ければ、緩くウェーブがかった露草色をした青髪の男性が立っていた。


2人の言い合いを聞いていたため、エレベーターのチャイム音に全く気が付かなかった。


初めて見る顔の男は、両耳に金のリングピアス、人差し指には金の指輪をはめておりやけにオシャレ。


黒い無地のTシャツにダメージジーンズ、そして有名なブランドシューズを履いており、カジュアルなのにどこか目を惹いてしまうのは、きっと彼のセンスがいいからだろう


男は、こちらを見ると目を丸くしたかと思えば、急に花が咲くように、ぱぁあと目を輝かせると私の方へと勢いよく歩み寄ってきた


「君!!もしかして海ちゃん!?おおぉ!若っ!女子高生?…いいねいいねー!」



彼の勢いに押され気味の私を、犬山は前へと出ると青髪の男から守る様に私を自分の背中へと隠した。


「了っ!そんなに詰め寄ったら海ちゃんが怖がっちゃうでしょ?」


「え?あ、ごめんごめん!新しい子がこんな可愛い子って知らなかったからさぁ〜、つい…嬉しくて」


「でたでた、チャラ男」


「え?ほんとうだよー?」



猿田のチャラ男発言にも、特に言い返すこともせず、了と呼ばれた青髪の彼は、犬山の背中を覗き込むと、私の髪の毛を指差した



「見てよ、このブルースターみたいな淡い水色の髪に、空色の瞳、肌だって白くてぴちぴちだし、まつ毛も長くて…可愛くない???ちなみに、結構俺のタイプだな〜」



「やば、こいつ…未成年だからね?」


「そうよ!…手を出すのも、指を差すのもやめなさい」



犬山がパシリと、こちらへと指を刺す彼の指を叩けば、可愛らしい音が室内に響いた


男は、叩かれた指を態とらしく摩ると、流石に手なんか出さないよ〜と呑気に笑っている


そんな彼は、初代面だけれどどこか、憎めない人だ



「海ちゃん、この人は鳥居了、生粋の女たらしだから気をつけてね!…なんかあったらすぐに私に言っていいから!」



犬山は、こちらを振り向くとがしりと肩を掴み、 鳥居に何かされたらすぐに私に言ってと猿田の時よりも真剣な表情で語りかけてくる


冗談でもなさそうな彼女の様子に、一応こくんと頷くと彼女は安堵の表情を浮かべた。



隣の猿田も、あいつは見境ないからな。なんて言い出すので流石に、少し心配になる





「ちょっとーそんなこと言ったら海ちゃん警戒しちゃうじゃん?」


「お前は警戒されるくらいが丁度いいんだよ」


「えぇ?…相変わらずひどいなぁ」


「海、こいつ女関係で勘違いさせてよく揉めること多いから、巻き込まれない様に気をつけとけよー!」


「あ、うん。」


「いやいや、信じないでね?そんな揉めてないから、てか…了くん♡って呼んでくれたら嬉しいなぁ」


「あ、鳥居先輩で…」


「ぶっ!くく、よかったなぁー鳥居先輩!」


「うわぁ…なんか、凄い距離感じるんだけど?!」


「あんたとの距離は、そのくらいが丁度いいでしょ」


「うーわぁー…本当冷たい」




犬山の鋭い言葉が刺さり、ショボンと落ち込んだ鳥居の様子が、なんだか可愛くてついつい笑が溢れた


なんだかんだ言い合いしたりはするけれど、きっと、皆仲良しなんだろう


なんでも言い合える仲というのも、羨ましいものだ。


猿田に犬山や鳥居という、友人達がいることもしれてよかったと喜んでいれば、ここでひとつ、面白い事に気がついてしまった


考えてみれば、3人の苗字にはそれぞれ動物の名前が入っており、その動物を3つ合わせると猿鳥犬。


昔話や童話の中に出てくる動物達の名前に

すぐに、隣にいる猿田の袖を引っ張り伝えると彼は、特に驚くこともなく、そうなんだよと呟いた



流石に他にも気がつく人は多いようで、何だか少し残念だが、面白い発見が出来たのは良かった



「よく言われるんだよなぁ…3人で鬼退治いけるじゃん?とかね」


「え?何の話?…あ、苗字??」


「あー!よく言われるそれ!あとさ、鳥じゃなくて、雉だろ!とかも」



たしかに、鳥居の言う様に童話に出てくるのは鳥ではなく、雉だ


しかし、実際は雉も鳥なので何ら変わりはない


てことは、その流れだと、きびだんごもノリで渡されたりするのだろうか?


一応、言われ慣れているとは思いつつも3人にきびだんごはよく貰うかと訊けば、きびだんご?と首を傾げ考える3人。


一瞬、その場が沈黙になり流石にまずい事を聞いてしまったかと、ひとり不安になれば3人は突然、盛大に吹き出し、笑いだした。



「うわぁ!流石にきびだんごは言われたことなかったわ!」


「うん、それされたら笑う!」


「えー俺、海ちゃんからきびだんご貰ったら、どこでもついていくよ?」


3人は流石にきびだんごネタは未経験だったようでケラケラと笑いながらいいねそれー!と楽しそうで安心した。


さっきまで、言い合いしていたはずの3人は今では楽しそうに笑い合っており、なんだか羨ましく思えた。


どうせなら、自分も名前に桃が入ってれば良かったな、と


小さな声で呟けば、私の声が聞こえたのか隣にいる猿田は私の顔を覗き込んだ


「どうした?」



「んー?別にぃ〜…」


「ふーん?……あー今度さ、お前がきびだんご持ってきたら皆で死人狩りでも行くか?」


「ふは!鬼狩りならぬ死人狩りってこと?」


「なら、私達は海ちゃんのオトモってことだね」






その提案には少しだけ、興味が湧いて小さく頷けば猿田はじゃあ決まりな!とはにかんだ。



猿田の嬉しそうな顔を見ていたら、なんだかこっちまで頬が緩んでいくのは、きっと彼の笑いに釣られただけ



あの、ほんの少し漏らした私の言葉を、猿田が聞こえていたのかは謎だけれど、こうして気にかけてくれるのは、正直嬉しい



お前も一緒に行くぞと、言ってくれる彼の言葉に、珍しく胸が温かくなっていくのが分かった



 

「士郎いいこと言うじゃん!」


「ふふ、確かに」





たまには、いいことを言う猿田にうんうんと頷けば、彼はドヤ顔で、いつもだろぉ?!と声を荒げた


 

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