第29話血の能力者
ストローを咥え残り少ないメロンソーダーをずずずと勢いよく飲み干すと、空になったグラスの中で氷がカランと、可愛らしい音を響かせた
バイトの休憩中に、風太郎に昨日の出来事をこと細かく話せば、彼は声を上げて笑いだす
「あはは!じゃあ、天明は昨日から海の家に泊まってるの?」
「そうなんです!なんか、毎週5日泊まるって」
「あいつ…本当、自由だからねぇ」
風太郎は、あははと笑いを浮かべるとルイボスティーの入ったグラスに口をつけた
あいつがいて迷惑してない?と、楽しそうに聞いてくる風太郎へ、一応そんな事はないですと返す
正直、天明が家にいるのは迷惑ではない、むしろ居てくれて助かっている。
今まで女性だけで暮らしていたから、天明がいると高い所にある荷物をとってくれたり、力仕事など率先して手伝ってくれて、叔母が喜んでいた。
だから別に、天明が泊まるのを迷惑とは思っていない。
けれど言いたい事ならある、それは天明の朝が早い事だ。
それだけ聞けば、それのどこが悪いの?と言われそうだけれど、問題はそこではないのだ
「あの、師匠めっちゃ朝が早くて…」
「あー…もしかして、朝から走らされた?」
そう、天明は4時に起床したかと思えば寝ている私を起こして「海、いまから走りに行こう」と、誘ってくる。
その為私は、走り込みが終わってから朝ごはんを食べ、未だくたくたの状態でバイトへと来ていた
「その通りです…これって毎日続いたりしますかね?」
流石に、毎日はきつい。
今はまだ、夏休み期間中だからやっていけるだろうが、学校が始まったらと考えるだけで、睡眠不足と筋肉痛で倒れてしまいそうだ。
「うーん、天明の日課だからね。俺は続くと思う」
「…うわぁ、学校始まったらきつくて授業中寝そう」
「でも、毎日続けてたら慣れるかもよ?」
「…はは、てことはこれを避ける方法はないって事ですね」
「ないね〜」
風太郎曰く、天明の日課を避ける方法はないらしく、唯一のアドバイスは慣れることらしい
こうなる事を分かっていれば…なんて今更考えても仕方がない
とりあえずは、師匠のスパルタな訓練から逃げる道はなさそうだ
「でも、天明に鍛えられたら間違いはないよ。あの玲も耐えて強くなったんだし、頑張ってね」
「そ、そっかぁ…玲、これに耐えたんだ」
「うん、それにあいつ今でもちゃんと走り込んでるよ」
あいつはチャラチャラしてる様に見えて、案外真面目なんだ、意外でしょ?と風太郎は笑う
確かに、意外ではあるが玲はこんなにも過酷な訓練をしていたにも関わらず今でも続け、あんなに明るく楽しそうにしているのか
私もこうしてないで、見習わなければ…自分も負けてはいられない。
「風太郎さん、私頑張りますね!」
椅子から立ち上がり、目の前の風太郎へと拳を握り頑張る宣言をすれば、優しく微笑んでくれた
「うん、海を応援してるよ」
疲れたら、ここに甘いものを食べにおいで
俺が作ってあげるからと言われれば、更に頑張るしかない、風太郎さんの作る甘いお菓子は私の好みだから。
午後のバイトも、メロンソーダと風太郎のおかげで頑張れそうだ。
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午後19時、あたりは段々と薄暗くなっており、太陽の番は終わり今からは月の出番
高い、高層ビルの屋上で夜風にあたりながら
黒いスーツに身を包んだ王蓮は、キラキラと光を灯し始めた夜景を静かに眺めていた
夏は特に、日差しが強く昼よりも夜の方が目が冴え過ごしやすい。
日差しに弱い為、朝からはめていた革手袋を外しポケットにしまうと、代わりに胸ポケットから煙草を取り出し、カチカチとライターを鳴らして火をつけた
煙草を咥えゆっくりと吸い込み、ふぅーと軽く息を吐くと、白い煙が風と共に流れていく
もう一度、煙草を吸い同じ様に吐き出せば、カチャンと金属音が聞こえた。
音の正体は、黒いカラスが王蓮の側にある手すりへと留まった時にあたったカラスの爪の音
微かに甘い血の匂を漂わせるカラスへと視線を向ければ、どこかふらついた様子
王蓮はカラスへと手を伸ばすと慣れた様にカラスの頭を撫でた。
全く逃げも嫌がりもせず、カラスは王蓮に随分懐いているのか、気持ちよさそうに目を瞑った
「お前…また怪我したの?」
カラスの足へと視線を移せば、怪我をしており何かで、擦り切れたのか皮膚がめくれ血が出ていた
今は、そこまで酷い怪我ではないけれど、このまま放っておけば、菌が入りいずれは致命傷になりかねない
王蓮は、自分の親指の皮膚を自身の尖った歯で噛めば、親指からつー…っと少量の血を垂らした。
その血を溢さないように、人差し指で拭うとそっとカラスの傷口へと塗り込んだ
すると、じゅぅううと音を立てカラスの傷はみるみるうちに治り、綺麗に元に戻っていく
カラスは傷が治ると、嬉しそうにトコトコと歩き暫くするとバサバサと音を立てて、どこかへ飛んで行った。
「また、やってるの?」
後ろから、聞き慣れた天明の声が聞こえ振り向けば相変わらず、パオを着た従兄弟がニコニコと頬を緩ませ立っていた
「どうした?」
「ちょっと、風にあたりにきただけ。そしたら王蓮がまたカラスを助けてた」
「助けてたわけじゃない…世話してただけ」
「ふーん?そっかそっか」
素直じゃないなと、隣で笑う天明へと持っていた煙草を差し出し、いるか?と聞けばもらうと一言いい、煙草を受けとった
「僕ねぇ、海の家に毎週5日泊まることにした」
王蓮が2つ目の煙草に火をつけていれば、隣の天明は突然、海の家に泊まっていると言いだした
ふぅーと煙を吐き、そうなんだと返せばやけに楽しそうに昨日の話を始めた
興味はないが、天明には甘い王蓮は適当に相槌を打つ
「あの子、才能あるヨ。僕の弟子にしたから強くなるはず」
「…へぇ〜」
「2週間後に死人狩りに連れていくから、王蓮も暇だったら来てよ」
「死人狩り?…まぁ、暇だったらね」
元人間を、2週間で死人狩りに連れ出すとは、天明は、なかなか酷な事をすると、ほんの少し哀れに思えたが王蓮は何も言わなかった
王蓮にとっては、殆どが弱いのだから比べても仕方がないのだが、天明が楽しそうに話しているのならば期待はできそうだと少しだけ頬を緩ませた
「そう言えば、話変わるけど…白蛇も僕たちと同じ、血の能力者って話だネ?」
突然、真面目な表情で話を変えた天明へと視線を移せば、白蛇の噂
血の能力者、純血の吸血鬼の中に稀にいる能力者のことだ。
今では、純血の数も減りあまり見かけることはないが、龍王蓮の故郷だった龍家は、能力を持った一族
龍家は代々傷や病を癒す万能の血、血薬の能力を持っており、決して混血などは許さない
今の時代は、混血ばかりが蔓延り龍家の先代がもし生きていれば、怒り狂っていたことだろう。
最古から純血だけにこだわり、龍の血を絶やしたくない一族は、近親婚をさせてこの力を保ち続けていた
しかし、現当主はそんな龍家から離れ今や日本へと移住し、弟子の家に泊まり込んでいる。
今は亡き王蓮の父、陽炎が知れば頭を抱え血眼になって連れ戻しに来ていた事だろう。
「あぁ、洗脳の血ね。」
「知ってるの?」
「その血族は知ってる。赤梨アダム」
「あ〜配信サイトEden作った人ネ、僕見てるよ」
赤梨アダムは、今や人気の配信サイトEdenの創立者。
料理、ゲーム、都市伝説、音楽など様々なジャンルを扱うこの配信サイトは老若男女問わず人気がある
それを、見ているという天明にあっそ、とだけ返事を返した。
「…あいつはどこにも属さないって言ってたから、白蛇じゃない」
「じゃあ、別がいるってことだ」
アダムと同じ能力者が、もしもいるとすれば同じ血族か、その子供だろう
しかし、だいぶ昔にイギリスへと移住すると連絡がきたのを最後にアダムとは一度も会っていない
けれど、確認のために面倒だが白蛇の創設者がアダムか、確認するのはありかもしれない
もともと狼のボスとは王蓮は仕事上、顔見知りだけれど、白蛇は死人ばかりしか出てこない為実際、裏にどんな人物がいるのか分からない
そもそも、3年前から急に現れた新参者だ
確認しようとしても、死人しか出てこず話にもならないのだから、そんな相手とは王蓮も話す気にはなれず、最近はうんざりしていた所だった
「…とりあえず、連絡取ってみるわ」
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