第28話師匠と同居

「天明さんのお口に合うかしら…」



叔母の手料理を口いっぱいに頬張る天明と猿田を、心配そうに見つめる叔母



今日の夜ご飯は私の大好きなエビチリに猿田が好きな唐揚げと、天明が好きだという天ぷら。


他にも鉄分豊富なレバーの野菜炒めと、たまごのスープを叔母が作ってくれて一緒に夕飯を食べている



なぜ天明と猿田がここにいるのかというと、あれからずっと練習を続けていたのだが、15時に玲はバイトだと途中で抜け、そのまま私は射撃練習を続けていた。



そして気が付けば時計は19時、門限は20時なので急いで、猿田に送ってもらうことになったのだが、なぜか天明も一緒に家まで向かう事になり、今に至る。




「陸さん、コレ美味しいネ」



叔母の名前を呼び、天ぷらとレバーの野菜炒めを指差す天明は、先程からハオチーと繰り返していた


猿田に、師匠…何て言ってるの?と聞けば中国語で美味しいと言う意味らしく、それを聞いた叔母は嬉しそうに笑っており、こちらまで嬉しくなった



「天明さんって良い方ね、おかわり沢山あるから言ってくださいね」



「うん」




叔母と天明のほんわかした雰囲気は、見ていてどこか癒される。


先程からひたすら食べている天明は、本当に叔母の料理を気に入ったのだろう


隣に座る猿田も、黙々と唐揚げを頬張っている

叔母の唐揚げは特に美味しいのを知っているから気持ちは分かる、が



「…すんごい、食べるね」


「んぁ?美味いからな」


「確かに、美味しいもんね。さっきから師匠もずっーと食べてるし…あ、またご飯おかわりしてる」


猿田に見てよと言えば、天明は叔母の出すおかずを食べ、叔母も嬉しそうに天明へ3杯目のお米を差し出している。


陸さん、これ何?と漬物を指差す天明は次は高菜が気になるのだろう



これは、お漬物の高菜だと詳しく説明を始める叔母達を私達は黙って聞いているが、やはり天明の柔らかい声質も相まって、2人の空気は見ていて落ち着く



「もう仲良くなってる…」


「ん?…あぁ、天明さんって人懐こいし陸さんも優しいからなぁ」



まぁ、確かにそう。


天明も武器を扱う以外は優しく、穏やかな性格をしているから、優しい叔母とも性格が合うのだろう。


自分の叔母と、師である天明が仲良くしているのはもちろん嬉しいものだ。



平和な雰囲気だと安心して、私も唐揚げを頬張れば、黙々と食べていた天明は、突然箸を下ろした



突然、箸を下ろす天明に何事かと、驚いて視線を向ければ、彼はとんでもない事を言いだした



「陸さん、僕…泊まっていい?」



「ぶっ!」

「ごほっ!」



急な今晩泊まってもいい?発言に流石の猿田も思わず飲んでいた麦茶を吹き出し、私は唐揚げを喉に詰まらせそうになる。



一体、彼は何を言っているのだろうか?


猿田と顔を合わせ、どういうこと?と驚いていれば、叔母は天明の言葉を静かに繰り返した




「…ここに、泊まる?」


「うん、朝ごはんも食べたいから」


「あらぁ、そんなに気に入ってくれたの?それは嬉しいわね」


「うん…もうここに住もうかナ?」


「ちょ、え?天明さん??」


「ど、え?住むの???」



叔母の料理を気に入った天明は、泊まる発言から最終的に家に住もうかな…と言い出した


この発言には、猿田と共に声をあげるが、天明本人は、至って落ち着いておりダメなの?と首を傾げている



ダメというか…急に住むなんて、流石に叔母も返事に困るだろう


猿田と共に、叔母がどう返事を返すのか答えを待つが、叔母は流石に驚いている様で暫く考え込んでいる。


そりゃ、初めて会った中華イケメンに、急に一緒に住みたいと言われれば、その反応が正しいだろう


叔母は、暫く返事を考えると天明へと綺麗な笑みを浮かべた



「そうねぇ、住むとなると引っ越しとか大変じゃないかしら?お泊まりじゃだめ?」



「…じゃあ、週に5日ここに泊まる」


「うーん…分かったわ、そうしましょう」


「えぇ?!叔母さん?!」「り、陸さん?!」


「じゃあ、今日は泊まる日だ」


「いやいや、待って天明さん…?週5ってほぼ住んでない?」




猿田の言うとおり、5日はもうほぼ住んでいるのと変わりない。


同じく、うんうんと頷くが天明は首を振る




「…お泊まりだよ、士郎なにいってるの?」


「ええぇ?俺がおかしい?」



「ふふ、じゃあ明日鍵を作りにいくわね」




なんと、天明のために叔母は合鍵を作りにいくと言い出した。


鍵を作る時点でもう、お泊まりではないと思う


叔母も素直で可愛い天明のことを気に入っているのか、結構乗り気である


いや、気に入ってるから許可したのだろう


それにしても、2人の話のテンポが早すぎて私達は話について行けず、あわあわと未だ困惑しているだけ。


その間にも2人は、家の家賃をどうするか話し出しており、天明がここに泊まるのは決定らしい





「家賃僕が払おうか?」


「あら、仕事はしてるの?」


「うん、仕事あるよ。だからお金の問題は気にしないで」


「でも、急に家賃を払ってもらうのは悪いわ…」


「んー…じゃあご飯代を払うのは?」


「そうねぇ、まぁ…それならいいでしょう」




2人で着々と進めていく話しに本気で戸惑っているのは私達だけ。



「いや、週5って住んでるやん」


「うん、もう同居だよ」




泊まるだけと言いながら、家賃を払うと言い出した天明に、確実に同居だよねと言えば隣の猿田もだよな…と同意見らしい。


それにしても、今日出会ったばかりの天明が我が家に泊まる事になるなんて、一体誰が想像できただろうか?


しかも、相手はボスの従兄弟でなんなら純血の吸血鬼、全てを知っているからこその判断なのだろうが、やけに天明には寛容な気がする





まぁ、うちは3LDKで家の中は狭くはないけれど、それにしても急すぎる話だ、それに弟子の家に師匠が住むのも変な関係である。


私が、師匠の家に修行として住み込むならまだ分かるのだが。




「士郎も泊まる?」


「いや、俺…家ありますよ?」



「でも、海に血をあげるならそばに居ないと。僕は師匠だから側にいるよ」



あれ、天明が住みたいという理由はもしかして

プライベートでも鍛えあげようとしているからか?



もしや…家でゆっくりしていても、突然天明から縄跳びしようとか、ジョギング行こうなんて毎回誘われたりするのだろうか?


いや、もしそうなら正直きついぞ…





「俺、ただでさえこいつの足なんですよ?毎日会ってるし必要ないっす」



「…ふーん?じゃあご飯食べたら早く帰りナ?明日もまた来るんでしょ?」



「…え、なんか急に冷たくないすか???帰るけどさ…」



確かに天明が言う様に猿田もここに住んだ方が色々面倒ではないが、猿田の言う事も理解できる


結局は毎日会っているし、送り迎えはいつも彼がしてくれているので全く苦ではない。



むしろ移動にはかなり助かっている方だ



「強士郎くん、きつい時はここに泊まってもいいのよ?部屋もあるしリビングも空いてるからいつでも気兼ねなく居ていいからね」



「えぇ、そんな甘えちゃって…いいんすか?」



「ええ、いつも海の面倒を見てくれてるんだもの」



「じゃあ、そん時はお世話になります!…でも今日は帰ります、…この後見周りなんで」




叔母の優しさが嬉しい猿田は、その時はよろしくお願いしますと丁寧に頭を下げた。


釣られて、天明もぺこりとお辞儀をしているがなんだか可愛らしい



「強ちゃん、良かったね〜」


「…お前、陸さん見習えよ?」


「あら」


「…え、どう言う意味?」



せっかく、良かったねと言ってあげたというのに、いちいち一言多い隣の男にイラつき肘鉄を喰らわせれば、いてぇとわざとらしく唸り声をあげた 



叔母は確かに優しくて美人ではあるが、猿田に言われると、やけに腹が立つのはどうしてだろうか




「あぁ…士郎が余計なこと言うから」


「そうそう!」


「え?天明さん、なんでそっち側なの?!」 


「まぁまぁ、仲良くしなさい」



海も、強士郎さんに乱暴な事したらダメよ。いつもお世話になってるんだからと、やけに猿田にも甘い…


確かに、猿田には普段お世話になっているが叔母が彼の味方をするのはなんか悔しい


それに、猿田の言葉はいちいち鼻につくのだ




「陸さん…俺には陸さんだけです」


「はあ?叔母さんはあげないよ!」


「そうだ、陸さんは海のものだヨ」


「…いや、冗談ですやん」




猿田は真顔で冗談じゃん、真面目に返さないでよ!と言うが、そんな冗談は許されない


叔母は絶対に、こいつにはあげたくないと真面目に返せば、天明も同じくあげないよと返すので面白くなり天明と目を合わせて笑うと猿田は2対1は酷い!と言い、いじけだした。



隣でいじける猿田を呆れて見ていれば、ふと大事なことを思い出した


彼が帰る前に、私の日課である血をもらわなければならない。



忘れない様に、彼の腕をトントンと軽く叩いて呼べば、なに?と不貞腐れた顔で振り向く猿田



彼にだけ聞こえるように小声で、『帰る前に血をちょうだいね』と言えば、次は猿田が呆れた顔でこちらを見ていた




「お前さぁ…お金ちょうだい!みたいなノリで

言うなよ」


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