第20話迎えと鉄分不足
「おぉい!いつまで待たせてんだよ?」
「ごめん!ちょっと話盛り上がっちゃって」
結局、風太郎達と話し込んでしまい猿田を数分待たせてしまった。
慌てて彼の乗る車に乗り込めば、案の定時間に厳しいこの男は不機嫌そうな顔をこちらへと向ける
ごめんと手を合わせ何度も謝罪をするが、特に表情は変わらず不機嫌な表情は変わらずそのまま
「まぁ、いいけどさぁ…で?今日はどうだった?」
不機嫌な表情をしつつも、今日のバイトの事が気になるらしい。
なんだかんだ、こうして気にしてくれているあたりやはり根は優しいのだろう
「うん、まだまだ覚えることは沢山だけど楽しかったよ!」
「ほ〜それは良かったな。で?次はいつ?」
「んーと、明日ネストに行く事になったから明後日!」
「へぇー…はぁ??」
「ん?」
「え?ネスト行くの?」
「うん、玲が色々教えてくれるって…だから強ちゃん明日もお願いします!」
「え、まじで?玲に?!」
「え?うん?」
「お前、明日まじで覚悟してた方がいいよ、あいつはやばいからな」
「うぇ??そんなふうに見えなかったよ?」
「お前どんだけ純粋なんだよ…あんな感じの一見優しそうなやつが、1番やばいんだから」
「へ、へぇ…じゃあ風太郎さんも…?」
猿田の言うやばい人判定が一見優しい人だというならば、当然当てはまるのは風太郎だ。
彼もその類にはいるのだろうか?
「あ、風太郎さんは普通に優しい人」
「…じゃあその考え違うじゃん」
「いや、そう言う奴も中にはいるって事!一応知っといて損はないだろ?みんな優しいわけないんだから」
まぁ、彼は私よりも長く生きているし確かに色んな人を見て来たからこその言葉なのかもしれない。
いつもは、彼の言葉にはあまり重きを感じないが、やけに真剣な表情で語る彼の表情に、私は分かったと一言だけ返した。
しかし、彼の言うやばいとは何がやばいんだろうか、聞きたいけど怖くて聞けない
「んじゃ行くぞ?」
ちゃんとシートベルトしろよーと言われ、カチリとベルトを絞めると、私のベルトを確認し猿田は車を発進させた。
外はあっという間に薄暗くなり、車の中から見える街灯はやけにキラキラと輝いて見える
隣をチラリと見れば相変わらずスーツ姿の猿田
暑くないの?と声をかければこれは夏用スーツだから暑くないらしい。
そんなのがあるのかと、まじまじと見ていれば不意に視線の先にハンドルを握る猿田の手が目に入った。
やけに、ゴツゴツとした手は血管が浮き出ており思わず魅入ってしまうのはしょうがない。
だってあまりに美味しそうに見えたからだ
つい、ごくりと唾を飲み込み喉を鳴らすと私の様子に気がついた猿田がこちらに視線を向けた
ぱちりと目線が重なり、なんとなく視線を逸らす
「お前…腹減ってんの?」
「あ、いや。お腹は減ってるけど…」
確かにお腹は減っている、けれどそれと同じくあの甘い血を飲みたい気持ちの方が正直強い
まだ、喉が渇いているわけではないから枯渇ではないけれど、血管を見て飲みたいと思うのは体が欲していると言うサインかもしれない
「あー違う違う。血が欲しいんじゃないの?」
「…何でわかったの??」
「そりゃ、そんだけガン見してたら気づくだろ」
ガン見…自分ではそこまで見ているとは思っていなかった為改めてそう言われると、恥ずかしい。
そんなに見ていたのだろうか?
「着いたらやるからちょっと待ってな」
「うん…ありがとう」
「いいよ。…まぁ俺は鉄分で補えるけどお前は血だもんな。てか、俺に遠慮せずに飲みたい時は言っていいぞ?遠慮して枯渇進んで死んだら笑えないから」
「…たしかに、ちゃんと言う」
「うん、よろしい」
それは、そうなのだ。
だけど、正直に言えばそんな簡単に血をくれなんて言い辛い
相手からいつでも大丈夫だからと言われれば確かに少しは言いやすくなるけれど、まだ慣れない
かと言って、またあの時の様に枯渇状態になって死にかけるのはもう嫌だ
早く慣れて気安く頼める様にならなければ。
「よし、着いたぞ」
いつのまにか気がつけば自宅のマンションに到着しており、猿田は車を駐車すると腕をまくり私へ差し出した。
差し出された腕は血管がくっきりと浮き出ており、私の食欲は更に増していく
最初の頃と違い、あの味を覚えたせいか拒否するまもなく腕を掴むと、逞しい腕にカプリと齧り付いた
肌を突き刺す尖った歯の隙間から、彼の血が溢れるのを溢さない様に吸えば、口の中に広がる生暖かい血液。
この癖になる甘い味を楽しみながら、ごくりと飲めばすぅーと喉に流れていくのが分かる。
暫く飲むとやけに体が軽くなり、バイトの疲れも癒えた気がした。
腕から手を離し、持っていたハンカチで小さな傷口を拭けば、猿田の腕に空いた穴は既に塞がっていた
「…ごちそうさまでした」
傷が塞がっている事には触れず、お礼を言えば猿田はお粗末様ですと笑った
「なんかさぁ、子供に餌付けする親の気分だわ」
「私が強ちゃんの子供って事?」
「そう」
「…なんかやだ」
「お前ねぇ?感謝しろよなほんと!」
そういうと猿田は、ポケットからサプリを取り出しじゃらじゃらと音を立てて、錠剤を数個取り口の中に頬張った。
ちゃんと鉄分サプリと描かれた小さな袋には、白兎製薬と書いてあり、可愛いうさぎのマークが見えた。
よく、CMなどで見かける会社で薬品以外にもドリンクやフードも扱っている大手会社
でも、鉄分だけのサプリも作っているとは知らなかった。
猿田達が生きていけるのも、このサプリがあるお陰らしい。
これのおかげで、私も彼の血を頂けるのだから考えてみたら白兎様々である
猿田やこのサプリ全てに感謝しなくては。
それにしても、目の前で彼がこれを飲むと言う事は私が彼の血を飲みすぎたと言う事だろうか?
「あの、飲みすぎちゃった?」
「まぁ、確かにめちゃめちゃ持っていかれた感じはするけど、俺そんな貧弱じゃないからさ。このぐらい平気、これは一応飲むだけ」
「持っていかれた感じって、よく分からないけど…そっか、ありがとう」
「あれ、やけに素直じゃん?…どうした?」
「べっつにー!とりあえず送ってくれてありがとう!また明日…えーと9時にお迎え頼んでもいい?」
「9時ぃ?俺今から見回りなんだけど?!」
「そこをなんとか!」
「…まぁいいよ、ネストで寝ればいいし。んじゃ明日9時ね。お前、絶対寝坊すんなよ!」
どうにかお願いをすれば、猿田は結構あっさりと承諾してくれた。
今から夜仕事だと言う彼に、明日の朝からお迎えを頼むのは申し訳ない
しかし、ネストでも寝れると言っていたので安心だ。
とりあえず車を降り、挨拶を済ませ猿田を見送ると私も素早くエントランスへと向かった。
エレベーターに乗り込むと、いつもの様に5階のボタンを押した
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