第19話撫子色の青年


「はい、まずは座席表だね。これを覚えたら次はメニュー、その次はお客様を席に案内、メニューを聞いてキッチンの人に伝える…まぁ最初はこんな感じかな。あとは実践した方が早いね。慣れるまでが大変だけど、慣れたら簡単だから」



そう言って紺色のエプロン姿の風太郎は細かく書かれたメニュー表と座席表を差し出した。


お礼を言って受け取り、とりあえずは休憩室で全てのメニューと座席の番号を暗記する為、椅子へ座りひとつひとつを覚えていく。


表に描かれているデザートやドリンクは全てが可愛くてどれも美味しそうだ


正直見ているだけでお腹が空いてくるが、どれも美味しそうなのだからしょうがない



「あれ?新人?」



メニュー表と睨めっこをしていれば、急に見知らぬ少年から声をかけられた。


完全に、この場には自分以外は誰もいないと思っていたからか、急に声をかけられびくりと肩を震わせた。


聞いたことのない声に振り向けば、キャラクターTシャツにGパン姿のピンク頭の青年は、不思議そうにこちらを見ていた




「初めましてかな?…えっとー君、もしかして弱木海さん?」



「あ、はい!よろしくお願いします」




「やっぱりか!うんうん、俺は葉山玲よろしく!」



俺も最近ここでバイトしてるんだー!



嬉しそうに挨拶してくる彼にこちらも笑顔で返した


話してみれば、彼とは同い年で高校も一緒だった様で、初めてだというのにすぐに打ち解けた。


玲と、呼んで良いよと言われこちらも海で良いよと言えば彼は人懐こい笑顔を向け頷く



「で、座席とメニュー覚えてるんだ?」


「うん、大体どのぐらいで覚えるもの?」



「ん〜、俺は2日くらいかかった!でもまじで正直実践した方が覚えると思うよ!そうだ!ある程度、座席番号とメニュー覚えたら出てみる?分かんなかったら俺に聞けば教えるし」



「本当?ならもう少し覚えたら出てみる!」



「OKー!風太郎さんにも伝えとくよ」



「ありがとう」


玲はそう言って更衣室へ行きエプロンに着替えるとお店の方へと向かった


初対面にも関わらず彼は話しやすく、やけに明るい人だなと思いつつも、またメニュー表へと視線を戻した。




ある程度、食べ物やドリンクを覚えた頃に風太郎がやって来てホールに出てみる事になり、緊張しながらもお店の方に行けば、やはり人気店だ。


お店はほぼ満員、玲や他のアルバイト生2人で慣れたように接客をしている姿はかっこい。


早く自分も、あのぐらい出来たらいいなと口に出せば、隣の風太郎は大丈夫、すぐに慣れるよと優しく微笑んだ



「私、頑張ります!」



「はは、そんなに力まなくても楽しんでくれたら良いよ」


「楽しむ…確かに、楽しみます!」


「うん、ほら玲とか見てよ。すごい楽しんでるでしょ?」



ほら、見てみてと言われホールでお客さんと楽しそうに笑っている玲に視線を向ければ風太郎の言うように彼はとても楽しそうにしている


あの人懐こい性格の彼はここの人気店員なのだろうか、若いお客さんからよく話しかけられている



「すぐ、玲みたいになるよ。はい、いっておいで」


風太郎はそういうと、キッチンからパンケーキを受け取り私に渡すと、これを8番テーブルへと持って行くようにと。


8番テーブルを確認して、持っていけばパンケーキを見たお客さんは喜んで受けとった


マニュアルに書いてある挨拶をしてパントリーに戻れば、風太郎からグーサインをもらいホッと胸を撫で下ろした。



「よしよし、上手く出来てたよ。これを繰り返していけばすぐに覚えるから」



「よかった〜!」


「なら、次は14番テーブルにケーキを持って行ってね」



「はーい!」



その後もせっせとキッチンからあがるケーキや風太郎さんが作るドリンクをお客さんへと届ける、を繰り返していくおかげでテーブル番号を覚えることができた。


メニューに慣れたら次はドリンクは自分で作れるように作り方のメニューを渡された


これを覚えるにはまだ時間はかかるものの、今日は確実に前に進んだ気がする。



14時から始めたバイトは気がつけば18時、覚える事に必死でこんなに時間が経っていた事に驚いた


初日のバイトが無事に終わるり、着替えを終えて休憩室へと向かえばピンク頭の例が既におり帰る準備をしていた。



「おつかれー!結構できてたじゃん!」



先に休憩室にいた玲に先ほどの接客を見てくれていた様で初めにしてはと褒められた。


自分よりも出来る人に言われると嬉しいものだ



「本当?よかった〜。玲はすごいね!人気だった」



「そぉ??俺の場合はね〜お客さんと喋るの好きだからさ、ついつい喋っちゃうんだよね。よく風太郎さんに仕事しろって怒られるよ」



「ふはっ、怒られるんだ?」



「うん。だから、俺は見習わない方がいいかも」



俺の真似したら怒られちゃうからねと彼は悪戯っ子の様に砕けた笑いを浮かべた。




「話に夢中で配膳遅れなければいいんだよ」




「ぎょ!びっくりした〜風太郎さん脅かさないでよ」



休憩室の扉が開いたと思えば、風太郎が入ってきており、扉側を見ていた私は気がついたけれど、こちらを見ていた玲は気がついていなかった様で。


風太郎さんの声に玲は肩を震わせ驚くと変な声をあげた。


驚き方がなんだか面白くて、くすりと笑うと笑わないでよと不貞腐れた顔を向けられた。


ごめんと軽く言ってはみたものの、先ほどの彼の驚き方を思い出し、また笑いが込み上げてくる


玲は流石に恥ずかしかったのかやめてよと言うが、更に風太郎の変な声だったねの言葉に我慢ができずに吹き出しかけた。


どうにか吹き出し笑いは我慢できたものの、玲はムッとした顔でこちらを見た。



「ひどいなー2人とも」



彼は、中性的な顔をしているからか、拗ねる顔も可愛く見えるが、男の子に対しては可愛いよりも美青年と表現した方がいいのかもしれない

 


「あ、そうだ。士郎が迎えに来るから待っててって」



「あ、わかりました」



帰りは猿田が迎えに来ると言っていたのを思い出し風太郎へと返事を返せば隣で聞いていた玲が士郎さん?と不思議そうにしている


知ってるの?と聞けば、風太郎は私を見て首を傾げる



「え?玲言ってないの?」


「え?言っていいの?」


一体何を?と2人の会話を聞いていれば風太郎は横の玲を指差した



「こいつ、吸血鬼の混血なんだよ」


「ごめん、伝えるタイミングなくて言ってなかったけど、混血でーす!」


あははと軽い感じの彼に、ええ?と声を出して驚いてしまう


正直、普通の人だと思っていたから、衝撃だ

もう正直、血さえ吸わなければ人間と吸血鬼の区別なんて分からない


こんな身近に4人も吸血鬼がいるとは、気づかないだけで実は結構周りに沢山いるのかもしれない



「ちなみに、今はこんな感じだけどうちの戦力でね色んな扱いに長けてるから教えてもらうといいよ。同い年だから話しやすいと思うし」



「うんうん、俺でよければ今度教えるよ」



「戦力?!凄い人だ!」



「凄くないよ?ただ強いだけ!ね!風太郎さん!」



「まぁ…否定はできないね」



鴉のメンバーで尚且つ、彼はこう見えて武器の扱いや、戦力に長けているらしく戦闘員としては上の方なんだとか…見た目はこんなに人懐こそうで可愛いのに、そんな一面があるなんて思いもしなかった


風太郎も、認めるほどの強さと言うことはすごい人なのは間違いないだろう



「じゃあ、鴉のネストにおいでよ。教えてあげる」




楽しみだねと、にこりと笑う彼はとても嬉しそうに見えた。

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