第16話秘密と告白



「で?どういうことか説明してくれる?」




ここまで叔母の怒った姿を見るのは正直初めてだ


いつもは、優しい叔母も流石に夜中に出歩いていた事を知れば、怒るのも当然のこと。



怒る叔母の前で正座して、すみませんと謝る私と猿田の光景は叔母からしたら、心配になり苛立つのも当然のことだ。




「大変申し訳ないです!娘さんを連れ回したのは俺です、これには…事情があって」




なぜこうなったかと言うと、今から数分前


風太郎さんの家で、バイトの話をして一応、面接の用紙をもらい、記入していけば、保護者の電話番号を書く項目がでて来た。


手元にスマホがない事に気が付き、スマホを部屋に取りに行けば、何件もの叔母からの着信履歴が表示されていた。


これには、驚きすぐに電話をかければ、今まで聞いたこともない低い声で、どこにいるのと一言。



あまりの怖さに、固まるしかなかった


とりあえず、友達といると返せば一緒に連れてこいと言われそのまま電話が切れた。



未だに、冷や汗が止まらずに動転していれば、

後ろからどうした?と声をかける猿田へ

叔母からの電話を説明すれば、すぐ私を連れて家へと送ってくれた。



マンションへ帰るや否や、仁王立ちでホールの前に立ち尽くす叔母の姿、私と猿田を見ると無言でエレベーターに乗り部屋へと向かい、家に入るとリビングに案内された。


その間の無言の空気はそれはもう地獄だった。



そして、今である




「事情?未成年の女の子を連れまわす事情って何?…警察呼びますよ」


「え?!」


本気で、警察に電話をしそうになる叔母を立ち上がり必死に止めるが、どうしても叔母の怒りは治らない



「あ、ちょっと待って叔母さん!それはダメ!この人私のお友達だから!」


「友達なら、夜に連れ回すのを許せとでも?」


「それは…そうだけど」


「ちゃんと、説明しなさい」


吸血鬼の事を説明していいのか分からず、とりあえず友達だと言う事は信じてもらえるように言うものの、事情が知りたい叔母は強い口調で説明してと。



どうしたらいいか分からず、猿田を見れば彼は決心したのか、重い口を開いた



「…多分、絶対に信じないと思いますけど、俺吸血鬼の混血なんです。それで俺ら色々問題あって、争っててその時に助けてくれたのが娘さんで、その時に色々あって俺の血をあげて、大変言いにくいですけど……吸血鬼化、してしまって」


しかし、猿田が頑張って事情を話ても、突然吸血鬼という意味のわからないワードがでた事に、叔母は馬鹿にしているのかと逆効果



「…はぁ?!意味のわからない話で馬鹿にするなら本当に警察呼びますから」


「まって叔母さん、本当の話だから!」


手元のスマホを握る叔母を、どうにか止めようと、猿田の話が嘘ではない事を伝えるけれど、それでも叔母は全く信じてくれない。



「そんなおとぎ話みたいな話信じられるわけないでしょ?」


「でも、本当なんだってば!そのおかげで私もう、体調崩すことなくなったし…それに…あ!そうだ、見て!」



体調の事を伝えるが、いまいち信用していない叔母にどうしたもんかと考えてみる


何か、直接見て叔母が納得するものはないかと。



そして咄嗟に、思いついたのは、あの古傷。


あの、火傷の跡の様に残っていた傷をシャツを捲り叔母に見せれば、急に慌て出す叔母と猿田

 


「え、おい!」

「なにしてるの?!」

 


隣の猿田は、私の行動にギョッとして立ち上がり、叔母は私の行動に目を開いているが、今はそれどころではない、この傷を見て信じてもらいたい




「いいから見て!おばさん知ってるでしょ?ここに小さい時に出来てた傷!これ無くなったの!」



叔母に見える様に、そこにあったであろう傷を見せるが、どこを探しても脇腹に火傷の様な後はない


誰が見ても、あの傷が消えているのはこの傷を知っていた叔母なら直ぐに分かるはずだ。



「…たしかに、消えてる…」



「ね!本当に強ちゃんが吸血鬼って信じてくれた?」



まじまじと、傷を見て未だ探している様子の叔母に、彼の血のおかげで消えたのだと言えば、明らかに先程よりも、気持ちが傾いている様子



「…いや、でも」



「分かった、直接見てもらった方が早いな」



それでも、未だ信じ切れずにいる叔母を見て猿田は、テーブルの上に置いてあるカッターを取り、自身の腕へと刃をたてた



すぅーと腕を切ると、ポタポタと落ちる血液

突然カッターで自身の腕を切るとは思わず叔母は驚いている。


咄嗟に、タオルを取り出し猿田に近寄る叔母は焦りと驚きで猿田を見ていた



「ちょ、何してるの貴方!」


「ほら、どうですか?」


「え?!き、傷が、治ってる…」



深い傷ではなかったにしても、直ぐに傷口が塞がっていくのをその目で見れば、流石に信じないとはもう言えない。




「まさか、こんな事…」



驚く叔母を前に、猿田はポケットから何かを取り出し口に含む。


何それ?と眺めれば鉄分サプリらしく、これがないと俺たちは生きていけないと叔母にも説明してくれた。




「勝手に、娘さんを吸血鬼化させた事は本当に申し訳ない事をしたと思っています。謝って済む話じゃないのも、重々承知してます…」



ここへ来て、いつもふざけた様な男が真面目に考え、謝罪をしている姿を見るのは変な感じだ。


同じ人なのかと、疑うレベルで心配になってしまうが、真面目にそう思ってくれていたのだと知れて、なぜか嬉しかった


きっと猿田は、誠意を見せてくれたのだろう




「叔母さん、この人は私の命の恩人なんだよ」

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