第10話赤い小瓶と門限20時
「本当に、いいんだな?まじでいいの?本当に?」
暫く、風太郎のカフェで体調の変化を待っていたけれど待てど暮らせど変化はなく、至って健康的なまま時間は19時と門限の時間が迫る
風太郎は流石に匂いの変化はあるものの変化のない私を心配して、とりあえず士郎の血を小瓶に入れて託してくれた。
小瓶に血を入れる過程で、士郎はめんどくさい!と、やいのやいの言っていたが、それは無視して風太郎から今後の注意事項を説明してもらい、もしも枯渇したらこれを飲むと約束をして帰りは猿田に車で送ってもらう事となった。
最後に、それでも枯渇状態が治らなかったら必ず連絡するようにと風太郎に言われ、一応連絡先を交換しておいた。
そして、現在自宅前のマンションの外で車を駐車し、早速シートベルトを外して車から降りようとドアに手をかざせば、猿田から急にSTOPが入った。
突然意味が分からず彼に向き直れば、本当にいいのか?とやけに何度もしつこく確認してくる猿田
しかも、そのやりとりが数分続きうんざりしていた。
「だから、何かあったら連絡するって、そっちこそ連絡したらすぐ来れる?」
「正直、わかんねぇから心配してんの!俺…今日、西の見回りあるからさぁ…」
そんなん知るか、とは思いつつも鴉と言う組織の仕事なら実際しょうがない
「まぁ、でもコレがあるしなんかあったら飲めばいいんでしょ?多分大丈夫」
カバンから赤い血液の入った小瓶を取り出し彼に見せれば、それでなんとかなるならいいけどと、やけに不安げな様子。
何でそこまで不安になるのか不思議に思いつつも早く話を終わらせるべく気にせず話を続ける
「もし、なんかあったら言うよ。それに枯渇って苦しいだけだよね?私そういうのには基本慣れてるから我慢できるよ」
「はあ??お前我慢したら死ぬぞ?」
そう、今までこのか弱い体と何年付き合ってきたと思っているのだ。
それくらいの苦しみぐらい耐えれると、軽く考えていれば、彼から帰ってきた言葉はとても重いものだった。
「…は、死ぬの?!」
「え、死ぬでしょ?!お前俺と会った時のこと覚えてる?あの時の俺みたいになるってことよ?」
ちょっとまって、そんな大事なことなら最初からそう言って欲しかった。
風太郎さんも死ぬなんて一言も言ってなかったはずだ
「風太郎さんも死ぬなんて言ってなかったよね?なんでそんな大事なこと今更言うの?」
「え、俺昨日言ってなかったっけ?あれ?」
「昨日のことなんて正直覚えてないし…てゆーかそれって強ちゃんの説明不足ってことじゃん!」
言った、言ってないで揉めるうちに風太郎がその事を説明しなかった理由は、てっきり猿田が説明済みだったと思っていたのだろう
しかし、肝心な事を説明していないこの男はあれれ?そうだっけ?と惚けている
なんだかむかついて、ついつい彼の腕を平手で叩いて見せれば暴力反対!といかにも私が悪い様に言ってくる、本当にムカつく野郎だ
「とりあえず、それ飲んでたらなんとかなるかもだけど、まじで渇きはきついから覚悟してた方がいい。でもさ、マジで我慢せずにすぐに連絡しろよ」
「…死ぬなら話は変わるじゃん、連絡したら出てよ?もし死んだら一生強ちゃんの事恨むから」
「こっわ!…うーん、分かった。できるだけ電話出るようにするし、早く駆けつけるようには…努力する」
なんだか、猿田の言い方は心許ないが仕方ない
仕事なのだし、少しぐらい遅くなる分には許そう
けれど、この命が尽きるほど待たされるとなると話は違う。
流石に一度命を助けてくれたのだから優しい人ではある筈だ、ほんの少しだけ彼の言葉に賭けるしかない
それにもしもの時は風太郎に連絡するのもありだ。
今は、そのもしもの時が来る事がない様に願うばかりだけれど、とりあえず心構えをすることも大事だ
「うん、とりあえずその時が来たら連絡するしコレ飲む!あとは、もしもの時は風太郎さんにも連絡するから大丈夫」
「そっか、風太郎さんに連絡はありだな!そん時は忘れずに必ず連絡しろよ」
「分かったよ」
2人でとりあえず納得した所で、もう一度ドアに手を伸ばすと、今度こそ彼の車から降りた
振り返って猿田にありがとうまたねと窓越しに言えば黒塗りのプリウスの窓がウィーンと下がっていく
「うぃ、じゃーな!気をつけろよ」
「それはこっちのセリフ」
バイバイと軽く手を振れば猿田も軽く手を振りそのまま車は走り出した
時刻はちょうど20時…腕時計で時間を確認すると門限の時間丁度で、すかさずマンションのエントランスへと駆け込んだ。
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