第9話夢と現実の狭間
「士郎の話だと昨日この子を殺しかけて、結局お前の判断で血の誓いをしたって話だよね?」
先程まで美味しいロールケーキを食べ、たわいのない話に花を咲かせていた筈なのだが
甘いものを食べ終わった後に、昨日の話の続きがしたいと言われ、ここの店長である白鷺風太郎の自宅へと招かれた。
彼の家はお店と繋がってて裏が自宅らしく、風太郎の後をついていけば、昨日見たやけにおしゃれな部屋へと案内された。
てっきり、ここは猿田の自宅だと思っていたがそれは間違いで、風太郎の自宅だったらしい
ちなみに昨日、血だらけしてしまったこの部屋は特に使っていない様で、たまに猿田が借りているのだとか
あの悲惨な片付けはちゃんと彼が片付けたようで風太郎はその件については特に、怒っていない様だった
しかし、それよりも彼が頭を抱えているのは猿田が行った私との血の誓いというのが問題なのだとか
冒頭に深刻な顔で私の隣にいる猿田強士郎を見つめる白鷺風太郎は、先程までの優しげな雰囲気とは違い、どこか鋭くこちらまで緊張してしまう
隣の彼も苦笑いを浮かべているあたり、彼が行ったことの重大さが伺える
「この責任は、ちゃんとするつもりだし…俺がした重さも理解してるよ」
「お前が理解してても、この子はいまいち理解してない様だけど?」
「うん…それは、俺の説明不足のせい」
「だろうね…とりあえず、俺が説明するよ」
「本当ありがとう風太郎さん…」
血の誓いについてきちんと説明をしたいと風太郎に言われ、彼の方に視線を向ければ彼の翡翠の瞳と目がかち合った。
猿田とはまた違う瞳の色に一瞬だけ体が緊張してしまう。
見るからに優しそうな雰囲気を出しているのに、なぜか体が硬直するほどの圧を感じる
「えっと、海ちゃんだっけ?」
「あ、はい!弱木 海です」
急に自分の名前を呼ばれ変に声が裏返ってしまう
なんだかそれが恥ずかしくてあははと笑って誤魔化せば、風太郎は優しげに目を細めると緊張しなくて大丈夫だよと、落ち着いた声で声をかけてくれる
「えーっと、なんて呼ぼうかな?海、でもいい?」
「あ、はい。大丈夫です」
「うん、じゃあ〜そうだね。まず単刀直入に言うね。この世界には元々2種類の人種がいてね、ひとつが海みたいな人間、もうひとつは俺達吸血鬼、そしてこの2種類の人種から生まれたのが士郎みたいな混血種、今はダンピールって呼ばれてるんだけど、…まぁそれは置いといて、今の海の状態は人でも眷属でもない状態」
「えっと…?」
「わかりやすく言えば、混血種に近い匂いがするけどそうでもない…でもやけに士郎の匂いが滲み出てる、血の誓いをしないとそうはならない状態なんだけど、海の場合はその眷属とも違う」
ちょっと、隣の士郎を殴ってみてと真顔で言われ意味がわからないまま隣に座る猿田の腕を叩いてみる
どのぐらいの加減ですれば良いのかわからず、こう?と何度か力を入れて叩いていれば先程から珍しく黙って話を聞いていた猿田が悲鳴をあげた
「ちょ、痛いから」
「え?だって、風太郎さんが叩けって」
「にしても加減ってもんがあるだろーが」
「はは、もういいよ。やっぱり眷属ではないね」
もう良いよと言われ素直に風太郎の言うことを聞いていれば隣の猿田は何やら納得がいかなかったようで叩かれた腕をわざとらしく摩っている。
隣に座っているので視界に彼の動きが入ってくるものの、気にせず風太郎の言葉に首を傾げた
「あの、眷属って?」
「眷属はそうだなぁ〜、血をもらった人の奴隷だね」
「ど、奴隷?え、私こいつの奴隷ってことですか??」
「おい、てめぇ…こいつって言うな」
すかさず、隣の猿田を指さし嫌そうな顔を向ければ指を刺すなと横から口出しが入る
みるからにアホそうでめんどくさいこの男の奴隷になんて死んでもなりたくない
「だと思ったけど、普通に殴れてたし士郎のやめろにも何も反応しなかったから、それは違うと思う。普通は眷属になったら血の誓いを行った主人には絶対服従になるからまぁ、もしかしたら士郎が純血じゃないから眷属にならなかったのかもしれないね」
「よ、よかったぁー!!強ちゃんの眷属になんて死んでもなりたくない」
「おーい!?お前なんてこと言うの??心ない??」
「士郎、お前本当に血の誓いしたの?」
「え?うん、したよ」
「その時の海の状態はちゃんと生きてた?死んでから飲ませてない?」
風太郎の死という言葉に一瞬ヒヤリとしながら、隣に視線を送るが隣の猿田は風太郎の言葉に詰まることなく、はっきりとそれはないと言い切った
「それは大丈夫、死んでない。ちゃんと意識はあったし誓いも生きてる時にしたから」
「まぁ。確かに死人からだと、こんなに意識もはっきりしてないか…」
正直あの時の記憶はあの激しい痛みの方が強くて彼がその後、血の誓いをしたのは記憶にない
だけど、気を失う前に首筋に痛みがあったのは確実に覚えている。
もしあの時のあの行動が血の誓いであるならば、私は生きていたと思う
それに、彼が生きていたと言っているのだからさすがに今はその言葉を信じたい
正直、めんどくさいしアホそうだけどきっと、嘘だけはつかないはずだ
「あー、あの生きる屍??」
「生きる屍?」
風太郎の言葉に猿田は苦い顔をしながら、あれはまじでめんどくさいと苦い顔をした
生きる屍がなんなのか全く理解ができずに風太郎を見れば彼は落ち着いた声で分かるように説明してくれる
「俺達吸血鬼はね、人間に血をあげることで眷属にして吸血鬼化したりできるんだけど、一つだけ人間をもっと俺らに近い状態にできる方法があるんだよ。それが死んだ人間と誓いをする方法、でも正直これは絶対お勧めしないし、俺達はしないね」
「お前、ホラー好き?」
「大嫌い…」
「じゃあ無理だな、お子ちゃまはあいつらにあったら腰抜かすよ」
なんとなく風太郎の説明で何が言いたいのかは予想はつくけれど、そんな映画みたいな話あるはずがない
実際、今の自分の状況も十分映画みたいな話ではあるけれど、ここ何年もこの国に住んでいて
そんな都市伝説のような話は一度も聞いたことがない
「俺ら以外の吸血鬼達はそいつらを自分達の縄張りに放って襲わせたりしてるからタチが悪いんだよ。実際あいつらは意思もなくただひたすら血を求めて彷徨うから、見たままだと死人っていうか、まぁ、…ゾンビだな」
「ゾンビ…」
「まぁ、そんなビビんなくてもアレは太陽に弱いし、昼間は出歩けないからお前が見かける事はないし大丈夫だろ!それに人間の血は求めないから安心していいぞ。…つっても今のお前に言っても、もう遅いか」
「え、どーいうこと?!」
「吸血鬼化した死人は人間の血は求めないけど代わりに吸血鬼の血を求めるんだよ。彼らにとってはそれが生きる為に必要だからね」
「ってことは、今の私の状態って結構、不味かったりしますか?」
「そうだね、結構どころか、かなりまずいね」
「あいつら混血の血も吸うから普通にやべーな」
「さいあく」
血の誓いについて詳しく聞いていくにつれて今の自分の置かれている立場がどれだけ危険な状態なのか身にしみて理解できた
大体、ただでさえこの状態事態が不安だと言うのに、人は襲わないゾンビみたいな吸血鬼がいるなんて誰が想像できただろうか?
ましてや、吸血鬼がゾンビに襲われるなんて、一体誰が予想出来る?
そもそも、死んだ人を生き返らせるのもおかしな話だ、摩訶不思議すぎる
「でも大丈夫、ここ一帯は鴉の縄張りだから他の組織がそう簡単に入ってくる事はないよ」
「そうそう、俺ら鴉が許さねぇよ」
「えーと、鴉ってあの黒い鳥…?」
「あー、俺が所属してる組織の名前ね。で、この人はボスの次に偉い人」
鴉というのが何なのかいまいちピンとこないが、あの真っ黒いカラスとはまったく違う事は分かった
とりあえずその変な吸血鬼達からこの一帯を縄張りとして守っているのが彼ら鴉と言われる組織でこの、いかにも人の良さそうな顔した風太郎がその鴉のNo.2らしい。
正直、猿田よりも説明も上手く、商売も人となりも完璧だろうことは、初対面だがよく分かる。
「まぁ、そんな大それた事はしてないんだけどね」
明らかに凄い人なのに、風太郎は威張る事なく謙遜している。人として…いや人では無いが、この人は尊敬できる人だ。
「で、1番大事な話してもいい?」
「え?まだあるんですか?」
1番大事な話がまだあった事に驚き、聞き返せば風太郎は、真剣な表情で私と猿田を交互に見やる
「俺たちは枯渇状態ならない様に常に鉄分のある食べ物を摂取しないといけないんだけど、海の場合は眷属や死人に近い状態だから吸血鬼の血を飲まないと体が枯渇状態になって苦しむ事になるんだ」
「それって、昨日言ってたやつ??」
風太郎の説明は分かりやすく、すぐに理解ができたがどこかでその話は聞いたことがあった
確か、昨日猿田が俺の血を飲まないとと言っていた事を思い出し、隣の彼に問えば猿田は頷いた。
彼の説明では、いまいち理解はできなかったはずだと風太郎に言えば、笑いながらこいつは説明が下手くそなんだと笑っていた、やはり下手くそらしい
「今は、喉が渇くとか変化はない?」
「今は、無いですね?それより私、もともと体が弱いのか結構熱が出たり、普段からちょっと無理をしたら頭痛くなったりとかしてたんだけど、昨日から逆に体調が良くて…あ、それと傷跡が消えてたんです!」
風太郎が心配そうに体調を伺ってくれているのだが、今は全くそんな予兆はなく、むしろ元気だ、いつもよりも数倍体が軽く走り回れるほどに。
それに、なにより昨日夜見た昔の古傷が消えていた事を思い出し2人に説明をすれば、吸血鬼と同じく吸血鬼化したら治りが早いと教えてくれた。
吸血鬼はどんなに、銃で撃たれても刺されてもものの数分で全て綺麗に治癒してしまうらしい
さすがに、昨日のことが無いならば信じるはずもない話なのだが、あの大怪我と古傷が治った今は彼らの言葉を信じるしかなかった
「でも、油断はしないほうがいいよ。今はまだ士郎からもらった血の匂いがするからまだ体内に残ってるだろうけど、最初会った時よりは確実にその匂いが薄くなってきてる。油断して苦しむ事になる前に早めに士郎から血をもらったほうがいい」
「さすが風太郎さん、鼻がいい」
風太郎は匂いで状態を察するらしく、猿田の匂いが薄まっているのが分かるらしい
特に体調の変化は感じないが、2人して油断するなよと、言われると少し不安になってしまうのはしょうがない
「あの、ちなみに血ってどうやって飲むのが正解?」
「基本は首だけど…」
猿田にどうやって?と聞けば自身の首を触りながらここ噛むのが普通だよ、なんて言い出す。
しかし、どう考えてもそんな急に他人の血を吸うなんて無理だ。
本音を言えばまず飲みたくない、血を想像するだけでも気持ち悪くて無理だ
ましてや、昨日会ったばかりの年上の男の首筋を噛むなんて年頃の女の子にできるわけがない
それを知ってか知らずか猿田は全く気にしていないようでココ!なんて言いながら自身の首に浮き出る動脈を見せつけてくる、なんなんだ。
「ここが1番飲みやすいけどな?」
それは流石に嫌だと首を振れば風太郎は察してくれたのか、首じゃなくてもいいよと言ってくれる。
その言葉を聞いてか、猿田は首以外?としばらく考え私に人差し指を突き出してくる
「…え、なにこれ、かみつけってこと?」
流石に犬じゃないんだからと、目の前に差し出された指を見ながらドン引きしていれば風太郎も猿田のデリカシーのなさには呆れていた
大体、相手は女子高生なのだ、22の男の指を咥えるなんて、おかしな話だ
呆れて、目の前の男を白い目で見るが猿田は全く理解しておらず、なんで?と首を傾げている
根っからの鈍感でやはり変態らしい
「だーー!わかんねぇ!じゃあどうやって飲むんだよ?」
「いや、知らん!てか血なんか飲まないよ」
「…だったら、一度枯渇状態になってみる?すぐ飲ませれば何ともないし、一度経験してみて辛さを知るのもありだよ。そしたら血の大事さも分かるだろうし、ただそれまで待たなきゃいけないけど」
「経験…でもその間こいつとずっと一緒とかむりです!!」
「おいおいおい!それはこっちのセリフぅ!!!」
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