第7話痛みと古傷
結局、一旦話を持ち帰ることとなり、手渡された服に素早く着替え、強士郎に車で家まで送ってもらう事になった。
もちろんまた会う約束をして、彼とはその場を別れた
家に帰れば、叔母に急いでメールを送る
連絡が遅くなった理由を、花火大会で歩き疲れた事にして、そのまま帰宅後すぐに寝おちしていた事にした
本当は、叔母に嘘をつくなんて、胸が痛いけれど、流石に先程の事を細かく説明すれば、きっと叔母を心配させてしまうだろう
それに、自分でも未だに強士郎が言っていた話を信じきれていない。
だからこそ、それをありのまま伝えるのは難しい話だ
とりあえず気を取り直し、汗で気持ち悪い体を清める為に、お風呂に入る準備をした
夏だから、シャワーだけで済ませようと脱衣所で、強士郎からもらった服を脱げば、洗面台の鏡に映る自分の姿が目に入った
さっきは急いで着替えたせいで、胸の傷を確認する暇なんてなかったが、改めて傷口があるであろう胸元に視線を向けると、胸には傷どころか何の痕も残っていない
手を添え、確かに痛みがあった箇所に触れてみるけれど全く痛みもなく、それどころかどこかいつもより血色が良い様に思える
ふいに、幼少期に交通事故で得た、脇腹にある傷口へと視線を向け、目を見開いた。
一生消えないと言われていたあの長年のコンプレックスであった傷は、どこにも見当たらなくなっていた
記憶はないけれど、両親を亡くした事故で得た傷らしく、それはもうざっくりと、窓ガラスの破片で得た傷痕
高校生になってから、いつもこの傷を見るたびに複雑な気持ちになっていたあの傷跡は、もうどこにも見当たらない
流石に、あの傷が綺麗に消えているとなれば、強士郎が言っていた話は、あながち本当かもしれない
それに、実際あの胸の痛みは時間が経った今でも鮮明に覚えている
体調を崩し寝込む辛さとはまた違う、命の危機を感じる痛み、あの辛さを忘れることはない
もし夢であるならば、あの痛みで目が覚めるほどだ
実際、強士郎が言っていた事をひとつも信じていない訳ではなかったけれど、さすがにこの古傷が消えたとなると、彼を信じるしかない
とりあえず、明日改めて昨日の場所で会う事になっている。
その時に詳しく話を聞かなければならない
今は夏休みで時間はたっぷりある、それにきっとあの男といれば、退屈な夏休みにはならないだろう
少しばかり期待を込めて、お風呂場に向かいシャワーのノズルを力強く捻った。
おまけ
早速次の日の朝、叔母が帰ってきて、昨日の連絡の遅さに怒られたのは言うまでもない
たまたま浴衣は友人の姉から貰った物だったので友達が一緒にクリーニングに出してくれると言えば信じてくれた様で、何も言われずにすんだ。
しかし、門限は21時から20時になった
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