第5話成功と失敗
猿田強士郎side
この世がどうしてこんなに平和なのか、それは君が何も知らずに生きているから
毎日特に変わらない日々を平和に過ごしている者はこれからもずっと、知ることもないだろう
この世が一体何で、一体どうなっているのかなんて
人間がいれば、もちろん人間ではない者も存在している、その事実を知る者はほんの少しだけ
昔から映画やドラマにもなった吸血鬼なんて存在は、この世にいるわけがない
君も、そう思う?
俺らは人に害を与えていないだけで、今でもちゃんと、この世界の、この国に存在しているし、生きている。
一般的に吸血鬼は、人の生き血を吸い、人を殺め、人を同じ種に変えてしまう恐ろしい化け物
けど、人間が猿から進化した様に、彼らもそんな化け物から常に進化しているのだとしたら?
人の血を吸わずとも、生きていける吸血鬼がいるなんて、きっと誰も信じないだろうし、むしろ、俺らを見つける事はできないだろう。
俺らはそれぞれ大きな組織へ所属して、吸血鬼同士で縄張り争いを繰り返してる
派閥争いの末、バラバラになった吸血鬼を一つにまとめたい者もいれば、それに反発する者もいる
今、組織は3つに増え、また吸血鬼達も所かしこに潜んで暮らしている
それをひとつに統一しようとする集団、それが鴉のボス、龍 王蓮。
最高にかっこよく、俺がこの世で1番憧れる男で
俺のボス。
ボスの夢の手伝いをする為に、生きるのが俺の夢であり目標でもある。
ただ、俺は名前の割に弱い。
猿田 強士郎なんて、いかにも厳つくて強そうな名前の割に、実力も対して無い
ただ自慢できるのは、人よりも頑丈な体くらいだ
ただ、そんな俺でも拾ってくれたボスの為にも俺は、俺なりに出来ることは全てやりたいと常々思っている
実際、今日も街で起きる縄張り争いに、援護に行ったはいいものの、早速やらかしてしまった
鴉に並ぶ大きな組織、狼【ロウ】にやられた
まぁ、撃たれても吸血鬼の混血はそう簡単には死にはしない。
鉄分さえ取っていれば、物の数分でこんな傷なんて治癒してしまう。
結局仲間をサポートする為に飛び出したにも関わらず、敵に見つからない様ボロボロの体を引きずりながら、路地裏に隠れ、辺りが落ち着くまで身を隠す羽目になってしまった、あー情けない。
とりあえず、いつも持ち歩いている鉄分豊富なサプリを、ポケットの中から取り出そうと探すが、どのポケットを探してもどこにもない。
1番大事なものを、忘れたことに気がついた途端に、全身から血の気が引くのが分かった。
鉄分を補給しなければ、傷口は一向に治癒しない、なんならまじでここで死ぬかもしれない
人の血を吸わない代わりに、鉄分で補って生きているのにも関わらず、その鉄分を忘れるなんて。
このまま体から来る時に飲んだ、残りの鉄分がなくなれば、それはもう、死を意味する。
流石に自分のミスで、こんなところで誰にも見つからずに死を迎えるなんて、あまりにも無様すぎる
きっとこの事を知られたら、ボスには呆れられるし、なんなら仲間からも一生馬鹿にされるだろう。
流石にそれは嫌で、血だらけの手のまま、ポケットの中にあるはずのスマホから、恥を忍んで
仲間を呼ぼうと探すが、それも先程どこかに落としたのか、スマホすらない。
これは、完全に詰んだようだ
流石にここまでくると、自分のバカさに苛立ち段々と情けなくなってくる。
とりあえずは、落ち着けと自分に言い聞かせ
傷口から弾を取り出し、その辺に捨てれば、静かな場所に金属音が響き渡った。
2発の弾が転げていくのをただじっと眺めた。
出来ることはやった、あとはもう運しかない
このまま出血多量で、体から鉄分が尽きて死ぬか、それとも治癒力が先か、はたまた仲間が助けに来るか
運が良ければ、誰かが見つけてくれるかもしれない
とりあえずはこの流れる血を片手で抑え、どうにか止血を試みるが、だんだん冷えが体を襲いはじめる。
立っているのも、やっとで壁に寄り掛かり座り込めば、近くにあった箱が音をたてて落ちていく
本来なら静かに隠れるべきなのは分かってはいるけれど、さすがに今の自分にそんな余裕はなかった
もう、誰でも良いから見つけてくれ
そう願ったと同時に、カラン、カランと下駄を鳴らしながら歩いてくる誰かの足音が聞こえてきた
「大丈夫ですか?」
不意に横から心配そうに声をかけてくる、鈴の音の様に可愛らしい声
返事をしない俺に死んでる?と物騒なことを呟いている
生きてる、そう返事をしたいが、正直体がだるい。
俯いたまま、じっと黙っていれば、声の主が側に近づいて来たのが分かった。
その瞬間、視界に白く細い腕が伸びて、咄嗟にその腕を掴めば、少女は痛いと悲鳴をあげた
余裕がないせいで、力の加減を間違えてしまい、少女の腕を折るところだったと、内心ゾッとしたところで、少しだけ我に帰った。
申し訳なく謝罪の意味を込めて、少女を見れば
優しげな水色の髪をおしゃれに編み、少女によく似合う浴衣を着た、可愛らしい子が俺を心配そうに見ていた
その目は真っ直ぐで、海の様に鮮やかな瞳
しかし、あまりにも血が流れ過ぎて、視線はどうしても、その白くて細い首筋に目がいってしまう。
本能がついつい彼女の血を求めてしまい、知らぬ内に、小さな声で、血が欲しいと呟いた
途端に彼女は、俺から立ち去ろうと背を向けたが、咄嗟にこれを逃したら、もう次はないかもしれない。
そう思い、必死に彼女の足を掴み、助けてくれと恥ずかしさを捨てて頼み込む
「ちょ、変態!はなせー!」
足を掴んでしまったからか、急に変態だと叫ばれ、正直強く否定したい
変態の意味がわからず、首を傾げれば、血が欲しいを、乳が欲しいと勘違いしたらしく、勝手に変態扱いされた様だった
どんな間違いだよと、普通ならば突っ込みたいのは山々だが、とにかく今すぐにでも血が必要だ
意外と、落ち着いている彼女に、事の経緯を話せば、なんとなく血をくれそうな雰囲気へと持っていった
早く欲しいと思うほどに、彼女の首筋から目が離せない
やっと少女が納得しそうになった時、少女の後ろから、グレーのパーカーを着た先ほどの相手が奇声を上げ、銃を構えていた。
彼女ごと、俺を撃ち殺す気満々の男から、少女を守る様に自身の体に引き寄せると、来るであろう衝撃に備えた
パンパンッと2発音が鳴ったと思えば、案の定俺の腕に1発が命中。
そのまま撃ち終えると、男は嘲笑うかの様にその場を駆けていく。
流石に人間を巻き込むわけにはいかないと、彼女の安否を確認しようとした時、急に少女が体重をかけてきた
不思議に思い腕の中に収まる彼女を見れば、やけに不安気に俺を見上げてくる
その、どこかおかしい様子に、まさかと思い起き上がらせると、背中に1発銃弾を受けているのが分かった。
胸からは大量の出血、不安そうにこちらを見上げる少女に、流石の俺は自分が死ぬのとはまた違った焦りが募っていく。
ただ、ほんの少しだけ、血をもらうだけでよかった。
決して彼女を巻き込むつもりはなかった、しかし、腕の中には、今にも息絶えそうな、まだ若き少女。
自分の愚かさで、関係のない人間を殺めてしまう焦りで、冷や汗が止まらない
どうしたら彼女を助けられる?
「クソ…」
どうにかして、助ける方法を考えてはみるけれど、あまりにも血を流しすぎて、喉の渇きが治らない
その上、うまく頭も回らないが、こうやって考えている間に、腕の中でうっすらと意識の残る少女の命は、消えそうだ
流石に、申し訳ないと思いつつも、いちいち許可を貰う余裕はない
一刻も早く、彼女の血が必要だと、そう自分の本能が訴えている。
もう限界が近い意識の中、体は無意識に視線の先にある、白く細い少女の首筋へと、迷うことなく歯を立てた
ごくりと、初めて飲んだ少女の血はやけに甘かった
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