第3話 孤独な配信者

 クモに噛まれて不思議な能力を持っているわけでもない。死んだ祖父や両親が見えたりする霊感もない。第六感。光属性の異能力や超能力。何も持っていない。

 きっと前世はミジンコか何かだったのだろう。アニメの世界ならギルドから無能だと追放されているところだ。


 愛花光は自分が嫌いだ。


 悪くもなれず、賢くも、人気者にもなれなかった。

 今はおばあちゃんの家に流れた不登校児。それが私。


「ただいま~」


「おかえりおばあちゃん」


「ただいまひーちゃん。今、夜ご飯作るから待っててね」


「なに買ってきたの?」


「今日はカレーにしようと思ってね。その材料。あとは、ほらひーちゃんが好きなお菓子たくさん買ってきちゃった!」


「やった、ありがとう。カレー手伝うよ」


「あらほんと? じゃあお願いしようかしら」


 線香がほのかに香る居間。隣の部屋の仏壇には祖父、そして両親が笑っている。

 読んでいた本を置き立ち上がる。


 本の表紙には普通の会話の教科書と太字で書いてあった。


 両親が事故で死んでからというものひかりは無気力になってしまった。

 そのせいで転校したっばかりの学校ではいじめられてしまい不登校になった。


 いじめられたせいでひかりは祖母以外と上手く話せなくなった。笑えなくなった。


 アニメの世界じゃなくても追放されるじゃん。じゃあ、あとはスキル覚醒して無双するだけと強がってみても、いじめっ子達の顔、声、振る舞いが頭から離れない。保身しか考えていない教師の対応もそうだ。


 ひかりには奴らが怪物に見えた。


 それから少し外に買い物に出ても、クラスメイトがいるのではないかと気になってしまうし、周りの人がみんな自分を嗤う声が聞こえてくる。いや、勝手にそう感じてしまう。


 どうしてこんなことになってしまったんだろう。

 神様は答えを知っているのだろうか。



 神様がいたらと夢を描く。


 いじめっ子達が他所に転校して、家には学校においでとクラスメイトが会いに来てくれて、私は光ちゃんとなかよくしたかったんだと言われたりなんかして、それから友達と一緒に学校に行くんだ。おばあちゃんに笑っていってきますって言ってね。

 放課後には友達とカフェの新作を飲んだり、家に招待して私の好きなお菓子となぜだか家にストックしてある原液のカルピスを薄めてを飲みながら先生の悪口で遅くまで盛り上がり、また明日ねって解散する。

 

 そんな夢を。



 知ってる。砂糖まみれの想像だって、そんな奇跡が起きないことなんて。



「今日は金曜日だから、面白いテレビあるかね?」


 出来立てのカレーを食べながらおばあちゃんがリモコンを手に取る。


「今日何日だっけ?」


「21日だね」


「あ、なんかの映画やるらしいよ」


「あらほんと、隕石が落ちてくる映画だって見てみようかしら。ひーちゃんもどう?」


「私はやりたいことがあるから」


「またあれ?」


「そう」


「無理しなくてもいいのよ? 時間はかかると思うし、転校とかもさせてあげれないけど、おばあちゃんが一緒にいるからね?」


「うん、ありがとう。でもやっぱりおばあちゃん以外の人と話せるようにならないとだし、これでも相手の顔とか見えなければ話せるようになってきたんだよ。話せるといっても相手の声は聞こえないんだけどね。初めての時から毎回来てくれる優しい人もいるんだ」


「そう、それならいいけど」


「わたしも通ってないけど高校生だからね。いつまでもわがまま言ってられないよ。人としっかり話せるようになったらアルバイトでも始めようかな」


「あら、心配しすぎだったかしら」


「だから、安心してね。――ご馳走様でした」


「はい、おそまつさん」


 食器を片付けるため台所へ向かう。居間からは、食器は水につけといて~とおばあちゃん。


「お風呂沸かしてくるよ~」


 風呂も済ませ準備万端、おばあちゃんが買ってきてくれたお菓子も持った。ストーブもつける。

 初めて食べた時においしいと言ったらそれからおばあちゃんはお菓子と言ったらこればっかり買ってくるようになった。

 もう飽きてきちゃったけど、それでもおいしい。


 穴の開いた障子戸の畳の部屋。いかにもおばあちゃん家といった部屋。おまけに掘りごたつ。

 ひかりは座布団に座りスマホをつける。



 あの人また来てくれるかな。

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