アシキリ【ホラー】


カラン、コロン……




「むかし、この村で幼い娘が足を切られたという話があります」


「しかし誰も娘の足を切った人間を見ていないと言います」


「人間の仕業ではない悪い妖怪の仕業だ、と言う人も現れました」


「その事件をキッカケに村人たちは互いに疑心暗鬼に陥ったそうです」


「平和な村は深い闇に染まり始めました」


「その娘はその後しばらくして亡くなってしまいました」


「手の施しようがなかったと言います」


「それから1年が立とうとした頃、」



カラン、コロン……




「下駄の音が聞こえると言うのです」



カラン、コロン……

 カラン、コロン……




「徐々に近づいて来ている、と」


「そのうち下駄の音は聞こえなくなったと言います」


――おかあさん……

 ――おとうさん……


「夜も遅いというのに、戸の向こうから娘の声が聞こえたそうです」


「恐る恐る戸を開くと下駄と切り落とされた生足があったと言う」


………………

…………

……



「その娘だけでは終わらなかったんです」


「今度は別の娘が足を切られてしまったんです」


「奇跡的に命は助かりましたが、」


「そしてまた、」



カラン、コロン……

 カラン、コロン……



「深い夜に下駄の音が聞こえてきたのです」


「戸口の前には下駄がありました。その娘のものです。けれどその娘には足はすでに無く、歩くことは不可能なのです」


「それはすでに焼き捨てたはずの下駄だったのです」


「そして、」



カラン、コロン……

 カラン、コロン……

  カラン、コロン……



「ひとりでに動き出しました」


「その下駄は闇に溶け、音だけが聞こえていました」



カラン、コロン……

 カラン、コロン……

  カラン、コロン……



「その後もやはり娘の足が切られる事件が続きました」


――あいつがやったんじゃないか

――離れの老婆がやったんじゃないか



「村には悪い噂が広まっていきました」


「さらに子供たちを失い、村の存続の危機に陥りました」


「やがて、村人が殺されるという事件が次々と起き、徐々に人が減っていきました」


「そして最終的に残ったのは、たった一人のまだ若い女でした」


「その女は唄うのです、」


貴方が歩くこの道は

私にゃもう歩けない

誰もいない夜の片隅

月影照らす我が身かな



「そして、」


カラン、コロン……

 カラン、コロン……

  カラン、コロン……



「下駄の音が静まり返った夜に聞こえるのです」


………………

…………

……




「今、村のすみに小さな森があり、その中に昔からの鳥居があります」


「森には絶対に入ってはいけないと言い伝えられていて、」


「でもやはり、好奇心旺盛の子供たちはその森に入ってしまうんです」


「すると、」



カラン、コロン……

 カラン、コロン……

  カラン、コロン……



「どこからか下駄の音が聞こえてくるのです」


「そして女の声で、」



貴方が歩くこの道は

私にゃもう歩けない

誰もいない夜の片隅

月影照らす我が身かな

………………

…………

……



「唄が聞こえてくるのです」


ザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ


ザザッザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ


ガッ


………………

…………

……



「森の入り口に子供の靴が落ちていました」


「両親は森の中に入ったに違いないと後を追いましたが、見つかりませんでした」


カラン、コロン……

 カラン、コロン……

  カラン、コロン……



「結局、その家族は今だに行方不明になっています」

………………

…………

……



「この村の片隅に立ち入り禁止の小さな森があり、入ったら最後生きて出られないと言い伝えられています」


「もし下駄の音や女の唄が聞こえたら、すぐに逃げてください」


「あなたの足を持って行かれますよ」

………………

…………

……



カラン、コロン……

 カラン、コロン……

  カラン、コロン……






//////

最後まで読んでくださってありがとうございましたっ!

m(_ _)m



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