法事

桜盛鉄理/クロモリ440

第1話

 夜。自宅から兄に電話しているケンジ。


「あ、兄さん、ちょっといい?」

「おまえは誰だ」

「誰だじゃないよ。ケンジだよ。ケ・ン・ジ!」

「サッチョウが何の用だ。ガサ入れか。銃は処分してここにはないぞ」

「その検事じゃないよ! 何言ってんだよ。しかも銃ってなんだよ」

「引き金を引くと弾丸が出て人を殺せる道具だ」

「知ってるよ!」

「日本で所持することは禁止されてる」

「だからそういうことを言ってるんじゃなくて」

「冗談だ。ケンジ、どうした」

「来週の田舎の法事、おれも乗せてってほしいんだけど」

「ん? お前の車どうした」

「うん、ちょっとぶつけちゃって」

「事故か。で、どこのコンビニだ」

「コンビニにつっこんでねーよ!」

「じゃあ路上か。何人ひいたんだ」

「ひいてねーよ! 何さらっと恐いこと言ってんだよ」

「てっきりムショに行くお別れの電話かと思って」

「ムショに行く奴が法事の相談なんかしねーよ!」

「そうか。で何があったんだ」

「うん、隣の車の助手席の犬が吠えてきてさ、よそ見してるうちに前の車にぶつけちゃって」

「犬? 犬ぐらいなんだ。オレなんか車の屋根で寝てるバーサン見たことあるぞ」

「恐いよ! それ幽霊じゃないの」

「どうだろうな。布団も敷いてたしな」

「えっ、布団込みの幽霊なの?」

「そんで寝返り打って自分で落ちてた」

「落ちた?」

「そのあとすごいスピードで走ってその車追いかけていった」

「そんなアグレッシブな幽霊見たことないよ!」

「だろうな。オレもまだ見たこと無いな」

「嘘じゃねーかよ!」

「それで? 前の車は大丈夫だったのか」

「ちょっとこすっただけだから。でもびっくりしたよ。軽の中から5人も人が出てきてさ」

「5人? 少ないな」

「どこが? その時点で定員オーバーだろ」

「いや9人は乗らないと動画にイイネつかないだろ」

「動画関係ねーよ! 大体どこに乗るんだよ」

「まず屋根に2人だろ」

「また屋根かよ」

「あとエンジンルームに2匹かな」

「2匹? ネコじゃねーかよ!」

「ケンジも気をつけろよ。奴ら春になるとわっと出てくるからな」

「カマキリかよ! もういいよ。で、来週は大丈夫そう?」

「ああ、いいとも。通り道だしな」

「よかったー。本当助かったよ」

「それで、ケンジは屋根とエンジンルームどっちにするんだ?」

「いや、そこは普通に乗せてくれよ!」

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法事 桜盛鉄理/クロモリ440 @kuromori4400

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