青い鳥をさがして

佐倉満月

 今より未来の話。

 あるところに、二人の兄妹がおりました。兄妹は両親と四人で仲良く慎ましく暮らしていました。

「ねえお兄ちゃん、青い鳥って知ってる?」

 ある日、妹が言いました。兄は驚愕して問いただしました。

「ミチ、お前どこでそんな話を聞いたんだ」

「あのね、本で読んだの。青い鳥を見つけるとね、幸せになれるんだって」

 妹は知らないのです。青い鳥どころか、鳥と呼ばれる生き物は既にいないことを。かつて核戦争の末に彼らが暮らしていた地球は滅び去り、僅かに生き残った人類は別の惑星へと逃げ延びたことを。二人は故郷から遥かに離れた星で生まれ育ったことを。

「ねえねえお兄ちゃん、あたし達で青い鳥を見つけちゃおうよ。そしたらあたし達、もっと幸せになれるよ」

「ミチ……」

 何も知らない妹の無邪気な願いを無碍にする訳にはいきません。兄は了承しました。

 とはいえ探すあてもない二人は、とりあえず居住区と呼ばれるエリアから出ることにしました。兄は、大人達に聞いてみれば何か手がかりが得られると考えたのです。

 居住区の外は大人達が働くエリアでした。地球とは異なる環境の星に降り立った人類が暮らすコロニー、その整備を行う整備区。食料を生産、管理する生産区。普段居住区から出ない妹にとって、他の区画を練り歩くことは大きな冒険でした。輝く瞳を彷徨わせ、興味深くあちこちを眺めています。

 兄妹は大人達に青い鳥のことを聞いて回りました。けれど両親を含めた大人達は皆、見たことがないと首を横に振るばかり。実は大人達も兄妹同様にコロニーで生まれ育っており、誰も本物の鳥を目にしたことがないのです。

「青い鳥? そんなもんいる訳ないだろう」

 頼みの綱である最年長のお婆さんに訊ねてみると、にべもなく言われてしまいました。

「青い鳥、いないの……?」

 妹は意気消沈して今にも泣き出しそうでした。兄は困ってしまいました。

「アンタら、その本は最後まで読んだかい」

 不意に目尻を優しく下げたお婆さんの問いに、妹は頷きました。

「青い鳥は見えないだけで、あたし達の近くにいるんだ。それを忘れちゃあいけないよ。さ、居住区にお戻り。お母さんが心配してるだろうよ」

 その時は結局、青い鳥には会えず仕舞いでした。

 時が経ち、兄は整備区で働くようになり、お婆さんの言葉の意味を理解しました。

 彼らが暮らすコロニーはかつて故郷から辛々逃れてきた先祖達が乗っていた宇宙船を改造したものであり、船の名前は『ブルーバード』――青い鳥。

 そう、幸せの青い鳥は彼らのすぐそばにあったのです。

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青い鳥をさがして 佐倉満月 @skr_mzk

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