危なっかしい友人

そばあきな

危なっかしい友人

 俺の友人は「とりあえず」が口癖で、すぐに身体を張ろうとする。


 幼少期に大きな事故に遭い、生死の境を彷徨った結果、人よりも身体の傷の修復が異様に早くなったのだという。


 大怪我しても数週間で治るし、指を紙で傷つけた程度なら、瞬きをした瞬間に傷口が塞がっていると思うレベルで回復してしまう。


 そのせいで、友人は命知らずの無鉄砲な男になってしまっていた。


 大変な目に遭っても、よほどのことがない限りは怪我がすぐに治る。

 だから周りは友人を頼るし、友人もその期待に応えようとしてしまう。


 ある時は教室の蛍光灯の取り替え。

 またある時は校庭の木に引っかかったボールを取る手伝い。

 そしてまたある時は屋上の金網の修理など、友人の活躍は多岐にわたる。


 そして第三者の俺から見て無茶だと思う頼みでも、友人は二つ返事で了承してしまう。


「とりあえず挑戦してみるか」

 そう言って友人は危ない場所に赴いて、ひどい時には傷を負って戻ってくるのだ。


 友人の傷はすぐ治る。しかし、痛みがないわけじゃない。

 だから俺はたびたび友人を諭して、以後気をつけるよう酸っぱく言っている。


 危なっかしい友人がいつか本当に命を落としそうで、俺は友人から目が離せないのだ。


「大丈夫だって。三階から落ちて骨折しても三日ぐらいで治すからさ」

「状況だけ聞いたらだいぶ化け物なんだよ……」


 はあ、と息をついて俺は友人の肩に手を乗せる。


「とりあえず俺は、お前が元気なのが一番だから」

「重たいな。重すぎて俺が危ない橋を渡りづらいだろ」

「そうしてくれるとありがたい」


 しかし、コイツが俺の言葉を守らずこれからも無茶をすることは知っている。


 そのくせ、俺が怪我をして現れると、友人は本気で怒ってきて、心臓の鼓動を確かめるように俺の胸の中に顔埋めてくるのだ。


「俺みたくタフじゃないんだから気をつけろよ」

 それは確かにそうなのだが、コイツにだけは言われたくなかった。


「お前の方がよっぽど死にかけてるだろ」

「うるせえ馬鹿」


 馬鹿と言われた。

 自分が怪我をしても気にしないくせに、俺の怪我にうるさい男だ。


 ――だから、俺が時々、こっそり友人の代わりに頼みを引き受けて、友人が怪我をしないように努めていることを知ったら、よけい怒ってしまうのだろうと思う。


 自分の身体は顧みないくせに、他人の身体は人一倍気を使う。


 そんな友人だから、俺はコイツを放っておけないのだ。

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危なっかしい友人 そばあきな @sobaakina

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