37.急いで助けないと……!




 見張りのヤクザを数十人くらい眠らせると、だんだんとこの地下室の違和感に気づき始めた。

 一つ目、すごく静かなこと。

 これでもかってぐらい静かだ。

 緊張の糸が張り詰めたような感じで、何かに警戒しているように見えた。

 二つ目、男は全員、首にチョーカーみたいなのをつけていたこと。

 ここにいるヤクザの印なのかは知らないが、全員付けていた。

 何もないといいのだが……。

 三つ目、こと。

 地下室にしては無機質な白い壁で、暗いところが一つもない。

 外の貧民街と比べれば一目瞭然だ。


―――こんなに綺麗にする必要、ある?


 衛生面で考えれば当たり前のことなのだが、すごく違和感を覚えるのだ。

 これも二つ目同様、特に意味がないことを願う。


―――……だれかいるな。それも複数。


 魔力の反応がする。

 少年のではない、別の誰かのだ。


「……そげ、……に……な」

「……が、しか……で、…………」

―――他にも話し相手がいるのか。なんで言ってるんだろう……。


 ヤクザの男たちは何も話していなかった。

 この人は違うのかもしれない。

 私は耳をすませた。


「『クロウ』の準備をしろ。あいつは魔力が多い。絶対に魔力封じのかせは外すなよ」

「……よろしいのですか? あれは貴方様の唯一の……」

「私の指示が聞こえなかったのか?」

「……かしこまりました」

―――クロウ、魔力、枷……。


 何か引っかかる。

 私は身を潜め、会話を盗み聞きする。

 そして、話していた人の姿を見た。


「価値を下げるような真似はするなよ」

「はっ」

―――!


 夜空のような髪。

 吸い込まれるような闇の瞳。

 一目見て、わかった。


―――この人、少年に似てる……!


 私はバクバクと波打つ鼓動を必死に抑える。


―――落ち着け、落ち着け。


 幸いなことに私の存在は知られていない。

 一旦落ち着き、考えないと。

 息を整えて、最速で整理する。


―――歳は二十代前半ぐらい。黒衣の服。口調は強め。地位は上の方と考えられる。魔力持ち。かなりの手だれ。武芸もいけるかも。


 色ありキャラクターなことから、スペックは高いと判断する。


「本当によろしいのですね、エヴァ様」

「何度も言わせるな。決定は変わらない」


 エヴァ、敬称、決定……。

 全ての特徴から、見えることから、導き出すしかない。


―――おそらくエヴァと少年は血縁関係。色ありなのと雰囲気が似ている。クロウは魔力持ちで、魔力は多め。このエリアから感じられるのはエヴァの魔力と少年の魔力だけなことから、クロウっていうのは少年のことで間違いなさそうね……。


 だとしたら、少年……クロウは魔力封じの枷をつけていることになる。

 早く助け出さなくてはいけない。

 魔力封じの枷は捕えられた者の魔力を封じる枷で、周りが魔力を感じなくなることはない。

 だが、魔力封じの枷は捕えた者の魔力を吸い取る。

 魔力が底を尽くと、二、三日で衰弱し、死んでしまう。


―――急いで助けないと……!


 私は少年の魔力反応がする場所へと急ぐ。

 その時、エヴァが私のいた方を見ていたことを、私は知らなかった。



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