38.出たー、あるあるセリフー




―――この辺にいるはず……、っ!


 見張りの人が通りかかる。

 私は慎重に進む。

 そして―――


―――! いた!


 枷と鎖で繋がれた状態の少年を見つけ、駆け寄る。

 【透明】と【隠蔽】を【解除】し、私は少年の意識を確認した。


「少年、生きてる? 私のこと覚えてる? ユリアーナ。ユリアーナ・リンドール」

「本物……?」

「なんで偽物が来るのよ。よかった、大怪我はしてなさそうね。……【破壊】」


 私は束縛していたものを【破壊】し、【治癒】や【回復】で少年の魔力と体力、怪我を治す。


「どうして、ここに」

「全然会いにこないし、気づいたら死にかけてるじゃない。心配して悪い?」

「…………」

「なに、どうかした?」

「いや、あんたが来るとは思ってなかった。読書したいからとか面倒だからとかで、対して関わりもないし見放すと思った」

「馬鹿にしてるの? 私にだって人の心はあるわよ。それに、あなたを助けることで未来の私の読書時間がより安定するの。これは投資よ」


 バッドエンドで私も死んで読書時間がなくなったら意味がない。

 面倒ごとは早めに片付けるのがいいのだ。


「さ、出るわよ」

「無理だ」

「は?」


 ここから出たくないの?

 変なの。

 せっかく助けに来たのに。


「出たくても、出れない」

「どうして?」

「……エヴァが逃がさない」

「!」


 エヴァ。

 さっき私が会った人の名前。


「……エヴァは、何者なの」

「いや、忘れてくれ。あんたを巻き込むわけにはいかない」

―――出たー、あるあるセリフー。


 大抵ヒーローが「俺はあんたを巻き込みたくない!」と言うとヒロインが「私はあなたと生きると決めた。どんな未来でも、私はあなたと一緒に生きたい……!」的な感じの感動に持ってくやつだ。

 前世のあるあるここで出ますか。

 私の場合、返答は違うけど。


「どーせ後々巻き込まれるんだからいいわよ。早く読書したいから、とっとと教えなさい」


 全ては読書のため。

 色ありは巻き込まれて当たり前。

 なら、事が小さいうちに突っ込むほうがいい。

 少年はしばらくポカンとして、そして教えた。


「俺に名前がないって話、したよな」

「? ええ。1699っていう管理番号だって言ってたわね」

「あぁ。けれど本当は、それは実験前の名前なんだ」

「……どういうこと?」


 名前が変わった、ということだろうか。


「実験後、失敗したやつはそのまま番号で、成功したやつは名前が与えられる」

「へぇ……。あなたはどんな名前なの?」「クロウだ」

「! ……そう」


 やはり少年はクロウであっていた。

 だとしたら、エヴァの言っていた準備とは一体何?

 私にはまだわからない。


「……エヴァは、」


 少年は躊躇した素振りを見せるも話した。


「エヴァは、俺の異母兄だ。そして俺の―――前の主人だ」



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