36.さて、行きますか




―――行くか。


 早朝。

 いつもならまだ寝ている時間帯、私はリンドール邸を出るために支度をしていた。

 動きやすく軽い服装に着替え、髪を結ぶ。


―――忘れないうちに……【変色】


 髪色を変え、ユリアーナだとバレないように工夫する。

 お忍びで王宮図書館に何度か行っているため、リンドール邸から出るのは容易い。


―――【複製コピー

「一週間ぐらいよろしく」

「わかった」


 私は複製体、ユラを作り、窓の外へ出た。


―――【透明】【隠蔽】【飛翔】【速度向上】【疾風】【同化】……。


 複数の魔法を同時に発動させ、【飛翔】で空へと飛び立ち、ある場所へと向かう。


―――うーん、間に合うかな。


 私が向かっているのは、前に私を暗殺しにきた少年のいる場所だ。

 眷属契約をしているので少年の居場所を特定するのは簡単だ。

 何故向かっているかというと、最近、少年の魔力が少なくなってきているからである。

 普通、魔力が減るのは魔法を使った時だけだが、衰弱など死に近づくと減っていく。

 つまり、少年の安否を確かめるために向かっているのだ。

 少年は色ありなので主要人物メインキャラクターで確定だ。

 そして私は知っている。

 主要人物メインキャラクターがバッドエンドとなると、他の主要人物メインキャラクターは数年以内に死を迎えるのだ。

 そうなれば私は死んでしまうかもしれない=読書ができなくなる。

 それを回避するためになんとかしなければならないのだ。


―――少年、元気だといいけど。


 元主人を殺すと言って去った少年。

 私の眷属契約が切れていないため死んでいないのはわかるが、返り討ちにあっている可能性もある。

 そいつらへの恨みが呪いとなりアンリィリル(この国の名前)が滅んでしまう……なんてことも考えられる。

 闇系の色ありキャラクターは気をつけないとすぐにバッドエンドによく走るからなぁ。

 常時見張るのが最適解だ。

 で、見張ってた結果まずいことになるかもしれないと思ったのである。


―――ま、貧民街にいるのはわかってたけど、実際に見ると酷い有様だね。


 数十分すると、廃れた町が見えた。

 崩れかけた家、食べ物を求める者、餓死した者、生きるために必死になって強奪する者など、前世はもちろん、今世でもまだ見たことのない景色が広がっていた。

 少年の気配がするのは貧民街の中でも比較的平和……というよりもヤクザの住処的な場所だった。


―――うーん、下に何かあるな。地下室とかありそう。ちょっと行ってみるか。


 少年の他に、微かな魔力の反応がある。

 地下とかがあるなら、そこが一番怪しい。

 私は地面に降りて魔力をめぐらせる。

 【隠蔽】は私の魔力も隠す。

 見つかる心配はない。

 手前に四、五人見張りがある。

 ガタイのいい三十後半くらいの男だ。

 物理攻撃で勝てる気がしない。

 けど。


―――【就眠】【麻痺】


 足元が崩れたかと思えば、男はすぐに眠りについた。

 そう、私の攻撃は魔法なので誰が相手でも関係ないのだ。


―――さて、行きますか。


 私は静かに少年のもとへと歩き始めた。



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