23.ちょっと待てい!
「えっと、レティシア様?」
「なにかしら」
「私がノーブル様のことを……好きかと?」
「えぇ。わたくしは確かにそう訊いたわ。聞き間違いではないから安心して」
―――いや安心できませんから……!
ノーブル様が好きか?
それって恋愛でってことでしょ?
ないないないない。
百パーセントない。
ノーブル様のことは嫌いじゃない。
むしろ好きだが恋愛の好きじゃない。
単純に尊敬しているのだ。
なんなら神と崇めている。
恋愛感情は抱いていない。
愛や、恋、恋慕は存在しない。
それは断言できる。
「なんでそんなこと、聞きたいんですか?」
「教えたら聞かせてくれるの?」
「え、まあ。いいですよ」
「わかりました」
レティシア様はカップをソーサーに置くと一言で教えてくれた。
「わたくしがノーブル様のことを好きだからよ。それ以上でも以下でもないわ。ただそれだけのことよ」
「そ、そうですか」
「えぇ、そうよ」
―――まーじかー……。
しかし好きになるのも無理はない。
色ありだし、優しいし、第二王子という普通ならば最高の嫁ぎ先である。
私は王族とか面倒なので恋愛感情もないし嫁ぎたいとは思わないが、普通の令嬢は違う。
そこに恋愛感情があろうがなかろうが、女は政略結婚に使われる駒。
そこになるべく自分の理想と納得を詰め込みたいのは当たり前と言える。
この世界の令嬢が見ているのは外見と内面、そして爵位である。
ノーブル様は色ありなので当然の如く外見は完璧、優しく気遣いのできる神的存在のため内面は最高数値を記録しており、この国で一番偉い王族の血筋を引くお方だ。
―――これ以上のお相手はいないよね。わかるわかる。どっかのウザ絡みしてくる腹黒王子とは大違いだね。
うんうんと勝手に頷き、満足する。
レティシア様は私に視線を向ける。
次はお前が話せ的な感じに言っている。
わかってますわかってます。
そんなに綺麗な顔で見つめなくても嘘偽りなく教えてあげるから。
「私はノーブル様に対して恋愛感情は抱いておりません。尊敬しておりますが、決してそのような関係に発展させるつもりはありません」
「本当に?」
「はい。本当です」
「そう。ならよかった」
レティシア様は安心したのか、ほっと息をつくと紅茶を口に運んだ。
私はタイミングを見計らってレティシア様に質問をした。
「どうしてそのようなことを私に聞きたかったのですか?」
これが一番の謎である。
色ありキャラクターが接触してきた理由を知らなければ、今後今回のようなことが増えるかもしれない。
「だって……」
「だって?」
数秒溜めた後、レティシア様は言った。
「わたくしとのお茶会中、急に『すまない』と言ってどこかへ消えてしまったんですもの。その理由がノーブル様のご友人が危機だったから、と……」
―――……あれ? これ、もしかして……。
「念の為調べたらそのご友人というのはユリアーナ様、あなただと知りまして」
―――おぅ……ごゆう、じん?
「しかもその時、ユリアーナ様は変装していらっしゃったとか。わたくしという婚約者候補がいるにも関わらず、婚約者候補でもない他の女性を助けにお茶会を放棄したと知った時はもう……」
―――もう……?
「これはもう、ユリアーナ様をじんも……あ、いえ、ご事情を聞かなければならないと思ったのです」
―――ちょっと待てい!
今、尋問って言おうとしたよね!?
尋問! じ・ん・も・ん!!
めっちゃ怖いんだけどレティシア様!
そんなことしないよね?
しないよね!?
今日の夜、眠れるかなぁ……。
ブライト様ほどじゃないけど怖い。
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