24.……あ、やっちゃった




「ノーブル様とお会いしたのは、2年前よ」

―――あ、これ長いやつだ。


 レティシア様はぽつりと話し始めた。


「わたくしはノーブル様の婚約者候補として会ったの。とても暑い日だったわ」


 どうやらレティシア様の邂逅が始まるらしい。

 適当に頷いとけばなんとかなるやつだ。

 私はレティシア様に主導権を渡して、ゆっくりすることにした。


「わたくし、暑くて辛かったの。立っているのでさえ、辛かった。そんなわたくしにノーブル様は声をかけてくださったの。『大丈夫か?』って。……魔法で空気を冷やしてもらって、わたくしは回復することができたわ。その時のことは忘れられない。ノーブル様のことを好きになったのはその時よ」

「へー、そうなんですか」

「好きで好きで仕方がなかった。どんな女よりも魅力的になって絶対に婚約者の座を手に入れると誓ったわ」

「すごい決意ですね」

「当然のことよ」


 ふっと自慢げになるレティシア様。

 非常に楽だ。


「なのに……」

―――あ、終わり? 困るんだけど。

「なのに急にあなたが現れてわたくしのノーブル様を奪うのよ!」

―――えぇ〜〜。


 ビシッと指でさすレティシア様。

 てか、わたくしのノーブル様って……。

 ノーブル様は誰のものでもないと思うよ?

 けど、そんなことを言っても「なに? 悪いの?」などと言われそうなので心の中で言っておく。


「わたくしの方がずっとノーブル様にふさわしいわ。何年も想いを寄せ、ノーブル様の隣に並ぶべく努力してきたのだから」

「そうですか」

「そうよ!」


 正直に言っていい?

 どーでもいいんだけど。

 好きにすればいいじゃん。

 なんで私に言うんだろうね、めんど。


「だからユリアーナ様」


 キリッとした表情でレティシア様は私にお願いした。


「ノーブル様に今後、近づかないで」

―――うわ、出た。


 ざ、悪役令嬢の台詞だ。

 まじか。

 てっきりレティシア様はヒロイン系の役だと思ったのだが……まあ、ヒロイン系悪役令嬢とかいるしね。

 そんなに重要なことじゃないか。


「ですが、一方的にお願いするのではわたくしにしか利がありません。そこでユリアーナ様。わたくし、一つ確認したいのですが」

「なんでしょう」

―――またノーブル様が好きかとか訊かないでね? 二度目はウザいよ?


 しかしレティシア様の質問は、そんなことではなかった。


「ユリアーナ様は本が……読書が好きなのですよね?」

「! レティシア様もですか!?」


 本好き友達になれるかもしれないと思い、思わず身を乗り出す。


「あ、いえ、わたくしはほどほどです」

「そう、ですか……」


 しゅんと肩を落とす。

 けれど、まだ続きがあった。


「それともう一つ。ユリアーナ様はブライト様のことをあまり得意としていないとお聞きしたのですが、それは」

「本当です本当ですもっと言うなら吐き気がするほど嫌いです」

―――……あ、やっちゃった。


 つい本音が出てしまった。

 私は後ろを確認する。

 サーシャたちはいないようだ。

 レティシア様にしか聞かれてないっぽい。

 ちょっと安心し……ちゃダメだね。

 仮にもブライト王子は王族。

 不敬中の不敬である。

 レティシア様は公爵令嬢。

 まずい。

 密告されたら死ぬ!


「あの、レティシア様、今のは……」

「ならよかったです」

「……え?」


 レティシア様は嬉しそうに両手を合わせる。

 ちょっと待って。

 なんでそうなる??

 よくわからない反応に、私は疑問符を浮かべるのだった。



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