22.なんで??




「お待ちしておりました。ユリアーナ・リンドール様でございますね。お嬢様がお待ちです。どうぞこちらへ」

―――帰りたいよぉ……。


 ついにフォーレイン公爵家でのお茶会の日がやって来た。

 案内されたのはフォーレイン邸にある立派な庭園だ。

 色や大きさがさまざまな花が咲き乱れており、どれも美しい。

 普段ならば「いい匂いだなぁ」と思いながら気楽に見れるのだが、残念なことにここは公爵家の管理する庭園。

 数日前から嫌な予感しかしない私には、どんなに鮮やかな花でも色褪せて見え、死を宣告する紅彼岸花リコリスのような花となってしまう。


―――……向こうに誰かいるな。


 視力がいいのでなんとなぁく奥の方に誰かがいるのが見える。

 小さな天蓋もあったのでわかりやすい。

 もしかしなくとも、私を招待した人がいるのだろう。

 確か名前は……


「失礼します、お嬢様。ユリアーナ様がお見えです」

―――この人が……


 例えるならば、花の精。

 フローラルな香りが私の鼻をくすぐる。

 フォーレイン家の家紋にもなっているクロッカスと同じ色の髪は、高い位置で結い上げられ、小さな三つ編みと共に留められていた。

 瞳はノーブル様と同じ、シルバーグレー。

 凛とした顔立ちをしており、佇まいから育ちが良いことがわかる。

 色ありの超絶美少女。

 正真正銘の主要人物メインキャラクターだ。


―――レティシア・フォーレイン様、ね。


 私だけをお茶会に招待した、リンドール家と同じ公爵家の一人娘である。


「初めまして、ユリアーナ様。レティシア・フォーレインと申します」

「初めまして、レティシア様。ユリアーナ・リンドールです」

「……」

「……」

「……座って」

「……わかりました」


 椅子を引いてもらい、ゆっくりと座る。


「どうぞ」

「ありがとうございます。……ん、美味しい」

「これはわたくしのお気に入りのお茶なの。喜んでもらえて嬉しいわ」

「そうなんですか」

「えぇ」

「……」

「……」


 またすぐに無言となってしまい、私はちびちびとお茶を飲みながらこの後の話題を考える。


―――え、どうしよう。もっとお茶について聞く? でもこの話題はもう終わった感じなのかな。すごく気まずいんだけど。


 私はチラリとサーシャに視線を送る。


「(助けてサーシャ! どうすればいいのか教えて!)」

「(無理です)」

「(なんで!?)」

「(無理なものは無理です)」

「(そんなぁ〜〜っ!!)」


 サーシャは助けてくれない。

 相手が公爵令嬢だから?

 だとしても助けてほしかった。

 しかし無理と言われてしまったものは無理なのでサーシャに頼るのは諦めることにする。

 どうやら私一人で戦うしかなさそうだ。


「ユリアーナ様」

「はいっ!!?」


 緊張で声が裏返る。

 だが身構えていた身体はレティシア様の次の一言によって、崩れる。


「単刀直入に聞くわ。あなた、ノーブル様のことが好きなの?」

「……………………はい?」

―――なんで??


 予想外な質問に、私は拍子抜けしてしまうのだった。



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