21.面倒ごとで確定じゃん……




「ユリィ〜〜!」


 バンッ!と大きな音と同時にエリアーナが私の部屋に入って来た。


「エリィ姉さん……」


 エリアーナはいつものように私をぎゅっと抱きしめる。

 やっぱり少し苦しい……。

 しかし拒否すると悲しませてしまうので、しばらくは放っておくことなしている。

 ……いつ私をすぐ抱きしめなくなるかはわからないが。


「はぁ〜っ! 今日のユリィも可愛い!」

「可愛いだなんて……エリィ姉さんの方が何倍もお美しいです」

「もうっ、ユリィったら!」


 会うごとに忠犬っぽくなっているのは気のせいだと思いたい。

 もはや『懐かれている』の度が超えている気がするが、気にしてはいけない。


「真っ白なユリィの髪はユリィの心の清らかさとどんな人でも包み込む心の広さを表していて一番似合ってる! 海を閉じ込めたような碧眼なんてまるで宝石! あぁでも輝きは宝石よりも勝っているから月とか、太陽とか、もっと規模の大きいものでないと表しきれないわ。それにユリィの……」


 だんだんと早口になっていることも、例えが壮大になっていることも、私への愛が日に日に増していることも気にしてはいけない。

 そう、気にしてはいけないのだ。

 読書時間は午後からなので、私はエリアーナの気が済むまでしゃべらせている。

 何故かはわからないが、読書時間には影響が出ないのだ。

 普通、エリアーナと喋った分まで勉強時間を延期させたりするものなのだが……。


―――ま、いっか。


 理由を知っても読書時間は変わらないのだから。

 十数分もするとエリアーナの美化された私の説明は終わった。

 サーシャに頼んでエリアーナにお茶を出し落ち着いてもらうと、用件を教えてもらった。


「実は、フォーレイン公爵家からお茶会の招待状が来ているの」

「フォーレイン公爵家……」


 フォーレイン公爵家。

 何度か名前は耳にしたことがある。

 同じ公爵家なので覚えるよう言われていたっけ。

 そんなところからお茶会の招待状。

 それが意味するのは―――


―――面倒ごとで確定じゃん……。


 私の面倒ごとの感度は上がっている。

 公爵家の時点で警報音が鳴り響いている。


「しかもね、ユリィだけが招待されてるの」

―――あ。


 ビービービービーと赤い災害音が流れる。

 絶対に面倒なやつだと脳内が告げている。

 私だけが招待されている時点でまずい。

 何かあった時にエリアーナが助けてくれなくなるからだ。

 実は、エリアーナはブライト王子への恋心により勉強や魔法、淑女としての嗜みや常識、作法に力を入れている。

 そこには当然、お茶会での態度も含まれており、私はお茶会の度、エリアーナに助けてもらっていた。

 が、エリアーナがいないとなると非常に気まずく最悪の状況になる。

 私は必要最低限のことしかやっていないし会話を長く続けることができない。

 作法はテストに合格しているが、会話術となると一気にその点数は下がる。

 私のコミュニケーション能力は壊滅的なのだ。

 つまり―――


―――お茶会で失敗したら私の読書時間がなくなっちゃうよ!


 どうにかしなければならないのだ。


「エリィ姉さん。一緒に行ってくださいませんか?」

「っ、ユリィ……」

「私、私……」


 瞳を潤ませ、エリアーナを覗いた。


「エリィ姉さんと一緒じゃなきゃ嫌です!」

「っ、ユリィ〜〜〜〜っ!」


 ここはなんとかして頼りない妹を演じ、エリアーナも一緒にお茶会に参加してもらわなければ!

 幸いにもエリアーナは私のことを溺愛している。

 エリアーナが可愛い(?)妹の頼みを断るとは思えない。

 押し切ってなんとかしてみせる!


「お願いエリィ姉さん! お願い!」

「うっ……」


 妹の特権を使えばきっとエリアーナをお茶会に一緒に行ってくれるはず!

 そう、思っていたのだが―――


「…………ごめんなさい、ユリィ」

「え、エリィ姉さん……?」

「私、その日は用事があるの。だから……」

「エリィ姉さん。それって、私よりも大事な予定なの……?」

「ユリィ……」


 エリィは悲しそうな表情をする。


―――お願いエリアーナ!


 心の中で必死に願った。

 その結果は―――


「本当に、ごめんねユリィ」

―――エリィーーーっ!!


 残念ながら、私よりも大事な用事らしい。

 エリアーナを強制させることはできない。


「で、でもお茶会前にユリィのお手伝いをすることはできるわ! 当日はいないけれど、頑張って、ユリィ。私は応援してるわ」

「……うん。わかった……」


 こうして私は一人でお茶会に行くことになってしまったのだった……。



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