17.やだやだやだやだ怖い怖い怖い怖い
―――な、なんでここにいるの……!?
突然のブライト王子の登場に驚きを隠せない。
―――というか、私、髪の色ちゃんと変えたよ!? 今の髪の色は黒よ!?
しかも「見かけない顔ですね」とか言ってる癖に私の名前言ってたよね!?
趣味が悪いんだけど!
そしてその笑顔!
外見はキラキラしてるけど内側がドロドロしててどす黒い。
怖い、とにかく怖い。
ノーブル王子はさっき王宮図書館を出たばかりだ。
戻ってくるとは考えにくい。
つまり私は逃げられない。
最悪の状況だ。
「あ、あの、人違いです」
「おや、そうなのですか? ではあなたのお名前は?」
「ゆ、ユラです……」
「ユラ……聞かない名ですね。どこの家の令嬢ですか?」
「えっ!? えっと……それは……」
どう誤魔化すか必死に考えるが、なにも思い浮かばない。
「ち、ちなみにブライト王子は何故ここに?」
「……私は調べ物をしに来たのです。そしたら本に手が届かず困っているあなたを見かけまして。しかも三日前にパーティで話したユリアーナ嬢ではありませんか。あんなに王宮に行きたくなさそうにしていたのに急にどうして……と思ったのです」
―――嘘だ、絶対に嘘だ……。
ブライト王子の最初の「……」が聞こえた。
そういう時は何かをためらっているか嘘の経緯や理由を考えている時だ。
私に嘘は通じない。
前世の小説の知識なら誰にも負けない。
侮られては困る。
「それでユリアーナ嬢。どうしてここに? やはり魔術師への道に興味を持ってくださったのですか?」
「いえそれは……」
―――それはない。
少なくともブライト王子のキラキラスマイルが続く限りは魔術師になる気はない。
嫌な予感しかしないのだ。
「そ、それより私はブライト王子がリンドール公爵家の次女であるユリアーナ・リンドール様が私だと思った理由についてお聞きしたく……」
「なにを言っているのですかユリアーナ嬢。君は先程、私が君をユリアーナ嬢だと思って聞いたことに対して返答した。君がユリアーナ嬢でないのなら否定するはずです。つまりあなたは自分がユリアーナ・リンドールであることを肯定したことになります。……違いますか?」
―――え、待って。
私はさっきの会話を思い出す。
『それでユリアーナ嬢。どうしてここに? やはり魔術師への道に興味を持ってくださったのですか?』
『いえそれは……』
本当だ。
私、ユリアーナだって肯定してる。
やってしまった……。
「それでお聞きしたいのですが、何故あなたはノーブルの関係者用のペンダントを付けているのですか?」
「え? ……あぁ、これは……」
ノーブル王子にもらったのだと説明すると、ブライト王子のキラキラスマイルはどんどん真っ黒になっていった。
―――これ怒ってる? 怒ってるの? すっごく怖いんだけど。やめてやめてやめて。どんどん黒い
これは偏見だがブライト王子は腹黒だ。
怒らせるとすごく怖い&面倒な色アリキャラクターに違いないと私の脳内で警報音が鳴り響いている。
―――やだやだやだやだ怖い怖い怖い怖い。
だんだんと顔を近づけるブライト王子。
後退るも私の背後は大きな本棚。
逃げ場は左右。
だが私は足が遅いし、速かったとしても三つ年上で男性のブライト王子から逃げられるとは思えない。
―――これ、知ってる。
絶対絶命というやつだ。
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