5.これが親バカならぬ姉バカ?




 赤子の成長は目覚ましい。

 ハイハイもできなかった私だったが、三年もするとたった言葉を話せるようになった。

 魔法も一応、使えるようになった。

 無詠唱はまだ試していない。

 詠唱することによって魔力出力を変えているため、無詠唱だと人によっては自爆しかねないらしい。

 今の私のその確率は高いだろう。

 ということで無詠唱の練習はしていない。

 また、この歳で魔法が使えるのは成長速度が速いか遅いかわからないので、まだ誰にも言っていない。

 下手に発言すると面倒ごとに巻き込まれるのは前世の知識で知っている。

 うまくいけば最強ルートだろうし、最悪の場合、生涯実験体生活ルートになると判断した。

 どちらにせよ読書はできなくなる。

 最強ルートなら隠れ最強ルートで行こうと思う。

 しばらくすると大きな音が迫ってくるのがわかった。


―――来た……。


 すると「バンッ!」と大きな音と共にドアが開く。

 エリアーナが私の部屋に入って来たのだ。


「ユリィ〜〜っ!!」


 エリアーナはすぐに私に抱きついた。

 ものすごく苦しいが、すぐに終わると知っているので私は静かに我慢する。


「は〜〜やっぱりユリィは可愛い……!」

―――それ、昨日も言ってたよ?


 エリアーナとはあの日を境に少しずつ仲良くなっていった。

 フェーリとディールにエリアーナは気持ちを伝えたのか、四人で過ごす時間が増えた。

 エリアーナが笑って過ごしている姿を見ていると、私も自然と心が穏やかになる。


「ん〜〜、いつ見てもユリィの髪は雪みたいに綺麗でふわふわだよね〜〜海を閉じ込めたみたいな瞳も好き! も〜っユリィが可愛すぎて困るよ……」

―――これが親バカならぬ姉バカ?


 しかしエリアーナの意見には深く同意する。

 ナルシスト発言みたいになってしまうがユリアーナは本当に可愛いのだ。

 細く滑らかな肌はもちろん、白髪碧眼の珍しい容姿が神秘的な雰囲気をかもし出しており、華奢な身体は何かこう、守ってあげたくなるような気持ちにさせる。

 また、つややかな髪の編み込まれ方や上品且つ愛らしいドレスに公爵家の財力の底力さが現れている。


―――お貴族様って美形揃いのイメージだけど、本当にそうなんだよね。


 もちろんユリアーナだけでなく、エリアーナも美少女の中に入るし、母のフェーリも父のディールも美形だ。

 財力もあれば顔も良い、そんなリンドール公爵家の次女として転生できた私はかなり運が良かったと言えるだろう。

 本も読めるしね。


「ねぇユリィ、今日は天気もいいし外でお茶会でもしない? お母さまも今日は一緒なの!」

「わかりました」

「やった! 決まりね」

「いつもお誘いありがとうございます、ユリアーナ姉様」

「…………」


 エリアーナはじっと私を見つめる。

 何か気に障ることをしてしまっただろうか。


「……ユリィ」

「はい」

「私のことをエリアーナ姉様だなんて堅苦しく呼ばないでって前に言ったわよね?」

「……ですが、私たちはリンドール公爵家の名をけがさぬよう、言動や所作には十分気をつけろと言われております」

「そうなんだけどね……でも、せめて二人きりの時にはエリィとかエリィ姉さんとかでいいのよ?」

「……エリィ、姉さん……」

「そうそう。エリアーナでもいいけど、愛称の方が私は好き。仲良しの証拠だもの」

「仲良し……」


 そんなふうに言われたのは初めてだ。


「ユリィはすごいわ。私よりもずっとずっとお姉さんに見える。でもいつか、苦しくなっちゃう気がするわ。だから私と約束して。私といる時は自然体のユリィでいてね」

「……わかりました」

「ユーリーイ?」

「……約束するよ、エリィ姉さん」

「そういうこと! ユリィはえらいわね」


 エリアーナに頭を撫でられる私。


「じゃ、またあとでね!」

「うん。また」


 こうしてエリアーナは嵐のように去って行った。




◆◆◆


著者から/

 これからエリィのユリィラブ度がどんどん上がっていきます。ハグのシーンも何回か出てきますが、今回のように二人だけのラブラブ話はありません。

 今回はエリィの紹介話みたいなものです。話が進むと面白くなっていきますので、お付き合いいただけると幸いです。

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