6.はいタンマ




 お茶会の時間がやって来た。


「失礼します、ユリアーナ様」


 サーシャにお茶会用のドレスに着替えさせてもらい、私はエリアーナと母さまのもとへと向かった。

 エリアーナは私の姿を見ると、ぱっと明るい笑顔を見せた。


「きゃあああぁぁっ……! ユリィ可愛すぎ! マジ天使〜〜っ」

―――苦しい……。


 今朝のように抱きつくエリアーナ。

 だがエリアーナが興奮するのも当然。

 今日のユリアーナは特に可愛いのだ。

 淡い空色をベースにしたドレスはユリアーナの瞳の色と似ているため、可愛らしい。

 純白のフリルやレース、リボンも可愛い。

 フリフリふわふわのドレスを着れるのは幼女の特権だ。


「でも、エリアーナお姉さ……エリィ姉様も素敵です」

「ユリィ〜〜っ!! ちゃんと今朝のこと覚えていてくれてるようで嬉しいわ! それと、褒めてくれてありがとうね!」


 エリアーナのドレスは苺のように瑞々しい真紅のドレスだ。

 黒色のレースは上品にエリアーナの可愛さを出していてよく似合っている。


「お母さま! ユリィ来ました!」

「ふふっ、知ってるわ。こっちへおいで」

「はい! 行こ、ユリィ」

「うん」


 エリアーナとのお茶会は何度かしたことがある。

 好きな食べ物、趣味、特技……様々なことを話した。

 病室にずっといたこともあり、私は女子として生まれた者が必ず避けて通れない話題を忘れていた。

 それは―――


「私ね、好きな殿方がいるの……」


 恋バナだった。


―――はいタンマ。


 ここで私は時を止めた。……心の中で。


―――いや待って待って待って待って。


 私な情報を理解できずにいた。


―――えーっと? エリアーナには好きな人がいる……。


 そのままの意味だが、全くもって想定していなかった話題に追いつけていなかった。

 エリアーナは公爵令嬢だ。

 一度や二度くらいは社交界的なものに参加し、そこで好きになったのだろう。

 だが大抵の公爵令嬢は婚約者持ちだ。

 感情だけで将来を決めることはできない。

 前世の物語あるあるがこの世界にも当てはまるならそのはずである。


「あらそうだったの。母さま、初めて聞いたわ」

「そりゃあ、このことを言ったのは私も初めてですから」

―――妹オンリーに告白するならわかるよ? でも、母さまがいる前でも話せる話題なの? こういうの。そういうもんなの? それが普通なの? わ、わからない……。


 残念なことに私には色恋の知識は浅く、経験も全くない。

 ゼロだ。

 むしろマイナスだと思う。

 だが少なくともエリアーナの様子を見る限り、エリアーナはそのお相手の方をお慕いしている。

 恋慕というやつだろう。


「ちなみにお相手は? どうして好きになったの?」

「ぅえっ!? え、えっと……」


 幼馴染系か一目惚れ系の二択と私は見る。

 どちらも王道パターンだ。


「ぶ、ブライト様、です……」

「「……………………」」


 赤面し顔を覆うエリアーナ。

 私と母さまは数秒思考が停止し、互いに顔を見合わせ、そして―――


「ええええええええぇぇぇっ!!?」

「あらあら」


 この国のの名前に驚きを隠せなかった。



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