第2話
「一緒に、旅に出るか?」
そう、自然に言葉が出ていた。
子供は、ぱちくりとまばたきした。
「えっと・・・、いいの?」
「うん、もちろん。・・・自分でいいなら。」
子供は少しだけ悩んだ後、あっさりと同意した。
「・・・じゃあ、兄ちゃんと一緒に行く。」
まさかこれほどにあっさりと事が進むとは思わなかったので、旅人は次の言葉につまってしまった。
「・・・えっと・・・、」
旅人は、子供の、自分を信じ切った目を見た。
「・・・一緒に旅をするってことは、君の人生を、俺・・・じゃない、兄ちゃんに預けることになるけど・・・本当に、大丈夫か?」
子供は、その返答に不思議そうな表情をしてから、やがてこくり、とうなずいた。
「うん。・・・兄ちゃんなら、大丈夫な気がする。」
「そっか。じゃあ、大丈夫か、うん。」
旅人は自分を納得させるようにうなずいた。自分は逃げる身であって、子供の安全を完全に保証できるわけではないが・・・まあ、細かいことは後で話せばいいかもしれない。この子供も、今日はいろいろあって、きっと疲れているだろうから。
「一旦、今日は宿に泊まろう。」
子供はだまってうなずいた。そして宿に向かって歩き出した二人を、月光が醸し出す淡い光が照らしていた。
「・・・あぁ、そういえば君、名前は?」
旅人は思い出したように問いかけた。
「・・・。」
しかし、子供はうつむいたまま、黙り込んだ。
「・・・自分の名前が、嫌い?」
子供は、その問いにはぶんぶんと首をふった。
「名前は好きだけど・・・両親を思い出して、悲しくなる。」
旅人はあっけにとられて子供を見た。自分も家族の情を知らないわけではない。でも、王子という身分が嫌になったとき、迷わずに家族を捨てて、逃げてきたぐらいだ。・・・家族仲がよかったとは、とても言い難い。
「・・・そうか。じゃあ、偽名でもいい。」
「偽名?自分で、名前を作ってもいいの?」
「・・・まあ、誰も気づかないだろ。」
子供は、大人っぽく腕を組んだ。
「・・・うーん、名前考えるの得意じゃないんだ。・・・そうだ。」
子供は旅人を見上げた。
「兄ちゃんが、おれの名前をつけてよ。」
「えっ・・・。」
旅人は予想外な話の流れにたじろいだ。・・・ふと前を見ると、宿につるされた提灯の明かりが、小さく揺れていた。考える時間は、あまり長くない。
「・・・ええと、君は永遠族の生まれだから・・・うーん、永遠って意味の、
”久遠”とかどうだ?」
「久遠?」
旅人は、自信が無さそうにうなずいた。
「久遠・・・、うん。いい名前!」
旅人は、無邪気に笑う姿を見、ほっと息をついた。
「・・・そういえば、兄ちゃんの名前は?」
「・・・あぁ、そうだったな。」
旅人は、すっかり暗くなった夜空を見上げた。かすかに光を含んだ夜空には、無数の星が瞬いている。
「・・・自分の名前は・・・”銀河”という。」
「銀河・・・なんだか、今日の空みたい。」
旅人はびくり、として久遠を見た。しかし、その視線に久遠は気づかないまま、美しい空を見上げ続けた。
「・・・きれい。」
「・・・うん、そうだな。・・・さあ、宿についたぞ。」
久遠は、はっとして前を見た。そして二人は空に背を向けると、宿の暖簾をくぐった。
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